第4話 いざ、佳奈の元へ

 訓練場で実力の確認が行われた後に言い渡されたのは「お前が刀剣部隊隊長だ」だった。

 いきなりそんなことを言われては困ると抵抗したのだが、武岩総長の考えは岩のように動かないようだ。


 その日のうちに生産部隊の隊長と会い、事情を説明することになった。


「刃さ。どうしてくれるの?」


「俺に言われても困りますよぉ。魔人になり、武岩総長と戦ったら隊長に命ぜられてしまったんですよ! 俺も嫌だって言いましたよ! でも、あの人頑固なんですもん!」


 ため息を吐きながら頭を抱えるのは皇佐こうさ 拓磨たくま。生産部隊の隊長である。俺は刀剣班の班長であった為、後継者に頭を悩ませているんだ。


「僕の悩みの種を増やさないでよ。ただでさえ萬田が偉そうにグチグチとうるさいし。魔法銃は性能が上がらなくて文句言われるし」


 それは俺に言われても困るのだが、たしかにそれは問題に上がっていて解決の目途が立っていない。だが、ここで気付いた。一個は悩みが減る事を。


「俺が刀剣部隊の隊長になれといわれましたよ? 悩み一個減ったじゃないですか」


「おぉ! そうだな! いやぁ。ありがとう! なぁ。刀剣班の班長も兼任してくれない?」


 刀剣部隊の隊長と生産部隊の兼任ってできるのかなぁ。やってみないとわからないけど。一応武岩総長に言ってみるか。


「武岩総長に進言してみます」


 そう言うと飛び跳ねて喜び何処かへと消えて行った。

 その後、武岩総長に進言した所、そのつもりだったと言われて頭を抱える羽目になった。

 

「刃よ。今日あたり天地の奥さんに会おうと思うのだが」


「俺もお供します。佳奈にもそろそろ話さなければならないでしょう」


「天地の子か」


「はい。天地に良く懐いていましたので、そうとうショックをうけるでしょうが」


 武岩総長の顔に影がさす。

 家族ぐるみの付き合いだ。相当言いづらいだろうしな。


「あぁ。覚悟して行かんとな。業務が終わったら声をかけてくれ」


「はっ! 了解しました!」


 その日は、無我夢中で仕事をし、全てを忘れるように刀を打っていた。そして終業の時間となった時だった。

 工房に武岩総長が姿を見せたのだ。

 俺も含めた全ての部隊員が敬礼する。


「どうしたんです?」


「いやのぉ。いてもたってもいれなくなってなぁ。なんだか佳奈ちゃんの事を考えてたら胃が痛くなってきてしもうてのぉ」


 胃のあたりを抑えながらそんなことを言う総長。こんな弱そうなところを見るとホントにジスパーダ最強なのかと疑問に思ってしまう。


「まぁ、俺も気になってガムシャラに仕事してたんですけどね」


「そうじゃろう? 早く行くぞい」


 急かされてロッカーに行き急いで作業服からスーツへ着替える。表に行くと総長が待っていた。莉奈に総長と行くと連絡をいれる。


 前の日から引き続き実家にいると言うので少し緊張しながらも伺うことにした。あそこには莉奈の両親もいる。話をするには良いのではないだろうか。


 歩いている道中何回も「あとどれ位じゃ?」と聞いてくる総長には少しイラッとした事を許して欲しい。俺も少し緊張してるのに総長といったらソワソワして頼りなかった。


 歩いて行ける距離なのでそこまで遠くはない。

 遠くに自分の家が見えてきた。


「もう少しで着きます」


「そうか」


 顔が強ばっている。

 やっぱり緊張しているみたいだ。

 でも、罵倒されるのが嫌だとかそういうのではなくて、秀人が死んだことを告げた時の佳奈ちゃんの反応が分からないから緊張しているのだ。


「ここです」


「行こう」


 一応GOを貰ってからチャイムを押す。


『はーい』


 インターホンから少しノイズがかった声が聞こえた。この声はおばさんの声だな。


「夜分にすみません! 刃です!」


『はいはい。ちょっと待ってね?』


 少し待つと扉が開いた。

 おばさんが優しい顔で迎えてくれた。

 少し目元が腫れているのは昨日秀人の報せを受けたからだろう。


「いらっしゃい。その方が?」


「お初にお目にかかる。ジスパーダ総長の武岩鉄槌と申す」


「初めまして、天地莉奈の母の宇納菜々子うのうななこです」


 二人とも玄関先で挨拶をし合ってから中へと入っていった。

 リビングにはマットの上に莉奈と佳奈が座って遊んでいた。


 佳奈は五歳だ。一応色々ともう物事が分かる歳である。だから、莉奈にも言う時は俺も一緒に同席すると言っていたのだ。


「おう。佳奈。久しぶりだな」


「ん? じんだぁ! ねぇ、お絵描きしよ? じんは絵が上手だからねぇ!」


 無邪気に俺に遊ぼうと言ってくれる佳奈を見ていると胸が締め付けられる。


「はははっ。そうしたい所だけど、ちょっと話があるんだ」


「あれ? がんじいも一緒?」


「はははっ。がんじいを覚えていてくれたかい?」


 総長をがんじいと呼ぶことができる佳奈ちゃんは最強だ。


「うん! 何しに来たの?」


 子供は率直である。まぁ、こんなに久しぶりな顔が来たとなれば勘ぐりたくもなるよな。

 この無邪気な顔が悲痛な顔になるかと思うと俺の胸は爆発しそうなくらい緊張していた。


 ここから最重要ミッションがはじまる。

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