第5話 エルフ少女の覚悟

書き直したので投稿が一日遅れました、すみません。


――――――――――――――――――――――







 私は、故郷であるはずのエルフの里で忌み嫌われていた。


 理由は分かっている。


 この身に刻まれた呪いの証、竜紋だ。


 私のご先祖様は、かつて世界を滅亡寸前まで追いやった邪竜を倒した英雄。

 しかし、邪竜は死に際にご先祖様へ呪いをかけた。


 この竜紋を持って生まれてきた者は災いをもたらすとされ、エルフの里ではいつものようにいじめられていたっけ。


 ああ、あの日すらも懐かしい。



「……私……死ぬ……のかな……」



 冷たい鉄格子の中。


 私は親と呼ばれる人たちに故郷を追い出され、奴隷狩りに捕まってしまった。


 親らしいことをしてくれた人たちではないから、別に悲しいとか、そういうことは思わなかった。


 ただ自分の最悪な運命を自分で受け入れてしまっているようで、自己嫌悪に陥る。


 私のようなエルフは、ここで息絶えた方が良い。


 どうせ、誰も私の死を悲しんでくれる人なんかいない。

 私は誰にも必要とされない、生きようが死のうがどうでも良い存在。


 そう、思っていたのに。



「君には、俺に協力してもらいたいんだ」



 どこか寂しそうに笑うその人は、私に協力を求めてきた。


 最初は天使様かと思った。


 私と一緒に捕まって、同じ牢屋に入れられていた子が言っていたことを思い出す。


 人は死んだら、天使様に会える。


 天使はいい子にしてたら、奴隷も王様も関係ない、誰もが幸せになれる場所に連れて行ってくれるって。


 その子はそう言って、優しく微笑みながら満足そうに息を引き取った。


 でも、この人は自分を天使じゃないと言った。



「協、力?」


「すべてを話そう。俺が知るすべてを」



 そう言って、その人は――彼は語り始めた。



「この世界にはね、妖魔っていう悪い奴らがいるんだ。人を襲う怪物でね」


「……妖魔……魔物とは……違うのですか?」


「似たようなものかな。まあ、自分に分かりやすい捉え方で構わないよ」



 彼が話を続ける。



「妖魔は魔法少女という、強大な力を持つ少女たちが討伐して回っている。でも残念なことに、それは根本的な解決にはなっていない」


「根本的な解決……?」


「そう。妖魔を生み出す元凶、妖神あやかしがみと言ってね。妖魔を生み出して世界を混沌で満たそうと目論む悪い神様さ」


「か、神様が、悪いことをしているんですか?」



 神様。


 あの女の子ガ言っていた。神様は天使様の御主人様で、人々を幸福に導くために働いているって。


 なのに、神様が悪いことをしているの?



「神様にだって悪い奴はいるよ。人間だっていい奴もいれば、悪い奴もいる。神様だけ例外なんて、おかしいだろ?」


「……たしかに」



 なるほど、道理だ。



「話を戻そう。妖魔を倒して回っている少女たちは、妖神の存在にすら気付いていなくてね」


「……何故……?」


「それは……妖神に操られている人間がその情報を秘匿しているからだよ」



 何かに迷うように、彼は言う。


 それは私が子供だからか、罪悪感によるものだったのだろうか。



「奴は狡猾だ。その居場所は俺も分かっていない。まあ、妖神はこの日本――今、この世界の東の方にある国でね、ここのどこかにいることは分かってるんだ」


「じゃあ、協力というのは……」


「うん。君には俺と一緒に、各地に現れる妖魔を倒しながら、妖神の居所を探すのを手伝ってほしいんだ」



 私は俯く。



「私には、無理です。私は、何の役にも立たない。立てない。貴方の期待には、きっと添えないです」


「それは困るかな。君をここに呼ぶのだって、必要な犠牲があったんだから。……ポイントだけど」



 彼が最後にボソッと何か言ったけど、私には聞き取れなかった。


 彼はただ真っ直ぐに私を見つめる。私も彼を何となく見つめた。


 すると、彼がにこやかに笑って言う。



「俺には君の力が必要だ。頼むよ、俺と一緒に戦ってくれ」


「……っ」



 頼む? 私に?


 私は、呪いを持って生まれた存在だ。故郷の誰もが私を頼ったりしなかった。


 それが当たり前だ。


 それなのに、この人は私に頭を下げている。


 こっちに呪い持ちを蔑む風潮が無かったとしても、醜い刻印が身体にある子を受け入れる人はいないだろう。


 私はふと、考え込む、



「――っていう設定で妖魔を倒して回ろうかなって……あれ? 聞いてる? おーい」



 私は、今まで自分が生きている意味が分からなかった。

 生きていても、どうせ誰にも必要とされないって思っていた。


 でも、うん。やっと、生きている意味が分かった。


 この人だ。


 きっと私はこの人と戦うために、今まで生きてきたんだ。


 気付けば私は、覚悟を決めていた。



「……す」


「ん?」


「やります!! やらせてください!!」


「お、おう? 俺の話、最後まで聞いてた?」


「はい!! 私の務めは、貴方様と共に妖魔を倒し、いずれ妖神を討ち滅ぼすこと、ですよね?」


「そ、そうだ。……随分とノリが良い子だなー」



 これが私の使命だ。


 呪いを持って生まれた私が為す、最初で最後の使命。

 この人のために、世界の平和を目指すこの人のために戦いたい。


 そのためにも。



「あ、あの!!」


「ん?」


「わ、私に名前をください!! 貴方と共にあるための名前を!!」


「……いいね。そういうの、嫌いじゃないよ」



 そう言って楽しそうに笑う彼。



「……ヒスイ、とかどうだ?」


「ヒスイ?」


「目の色が翡翠色だからさ。……安直だったらスマン」



 ヒスイ。私の瞳の色……素敵な名前。私の新しい名前。



「私はヒスイ。貴方様のために、戦います」


「うん、よろしく。俺は阿久津。阿久津希空だ」



 私は彼と――ノア様と硬い握手をする。



「あ、組織の名前は【ノアズアーク】ね? カッコ良いだろ?」



 ノア様はそう言って、楽しそうに笑った。





――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントヒスイ設定

人の話を最後まで聞かない。騙されやすい子。


「だろうね」「ヒスイちゃん可愛い」「続きが気になる!!」と思った方は感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る