第1話 縁と祈の日常

縁と祈は、家がお隣同士の幼馴染。

縁の家の隣に小学1年生の春に、祈が引っ越してきてから、今現在の高校二年生の春までずっと二人は、一緒である。


中学一年生の春、一緒の帰り道で、縁の方から、祈の手を握りしめ、言葉は、ないがそれだけで、互いの気持ちは伝わり、恋人となった。


二人とも、物静かで、友達が多いわけでもないがなんとなく、学校に馴染めている。けど、基本的には学校でも、家でも、休みの日でも、二人一緒に寄り添う日々を過ごすのである。


その日の気分でどちらかの家に夕食まで、お互いに好きなことをして過ごす。会話も少なく、互いに干渉する度合いも少ない。

特段、話す必要はなく、沈黙も苦痛ではない。同じ空間に一緒にいれば、落ち着く関係。


晴れている日は、近所の河川敷や眺めの良い高台に散歩をしにいく。


そんなゆったりしつつも、信頼関係がしっかりとある二人を周りの人たちは、温かな眼差しを向け、理想のカップルではないか、と思っている。


縁も祈も、物静かだが周りの人たちにはとても慕われている。


縁は、黒髪のショート、身長は男子の平均より少し高く、顔立ちは整っている方。

困っている人がいれば何も言わずに手伝い、また、どんな物事に対しても一生懸命である。


祈は、艶のある長い黒髪、小柄で纏う雰囲気は、清楚な美少女といった感じ。丁寧な物腰で、同性からの相談などは、一生懸命に対応するなど、頼りにされる存在である。


互いに物静かで何事にも、一生懸命という、似た者同士である。



「祈、今日美化委員の放課後清掃だっけ?」


「今日は、ないよ。縁も図書委員ないよね?なければ、一緒に帰ろ?あるなら、私、図書室で待ってるよ。」


「いや、図書ないよ。だから、一緒に帰ろ。今日は、僕の家で過ごそっか。いい?」


「縁の家でいいよ。昨日は、私の家だったし。じゃあ、帰ろ。みんなさよなら、また明日ね。」


「じゃあね。また、明日。」


一緒に帰ることを確認し、二人はクラスメートに挨拶をする。


「縁、またな。祈さんもさよなら!」「祈に縁君、さよなら!」と挨拶をする縁と祈の友達たち。


そんな日常を小学1年生からずっと続けている。どちらかに予定があれば、その予定が終わるまで待ち、一緒に帰る。結局、二人一緒なのだ。


下駄箱で、縁と祈が靴を履いていると、


「縁ー、お疲れ〜。祈さんもお疲れさま!二人とも相変わらず一緒だなあ!」


「篝、お疲れな。相変わらずで悪いな。」


「篝君、お疲れさま。相変わらずで悪かったね。」


「相変わらず、息ぴったりだな!そういうところだよ!」


二人と唯一、特別に親しいのが同級生の篝である。中学1年生で、縁と祈の家の真向かいに引っ越してきた篝。

そこから、縁と祈の二人きりにたまに、篝という感じになっていた。篝は、忙しい人物なので、たまにである。


下駄箱で篝と別れ、二人で下校する。高校から、二人の家までは、徒歩15分程の道のり。


縁は、本を読みながら、歩いていた。そんな縁に、祈が声をかける。


「縁、歩きながら本読むのやめな。危ないじゃん。ちょっと、聞いてる?」


祈の注意に縁は、本に夢中で気づかない。


「い、の、り。なにゅすんだょ?」


縁のほっぺをつねる祈。


「縁、危ないって。お家に帰ってから読みなよ。」


「わかったよ祈、ごめんごめん。」


と謝る縁。祈は、縁の謝罪に対して小さく頷く。些細なことでも、祈を怒らせ、困らせてしまったと思った縁は、祈に声をかける。


「それにしても見事な快晴だな。雲が一つもないんじゃないかな?」


空を見上げる縁。それにつられ、祈も見上げる。

春の陽気に高く青い空。その空に桜の花びらがどこからか舞い上がる。


「祈、河川敷の桜並木に散歩でもいかない?仲直りがしたいんだ。」


「いいよ。けど、仲直りってなに?さっきのは、怒ったんじゃなくて、心配しただけ。縁、昔から喧嘩っぽくなった後は、河川敷か高台まで散歩して、その途中で縁から謝ってくれるよね。」


喧嘩は、多くないがしてしまうこともある二人。そんな時は、縁が祈を散歩に誘い、縁から謝り、祈が許して祈も謝る、そして仲直り、といつの間にかになっていた。

もちろん、祈から謝ることもあるが、縁は、それがなんとなく、嫌だった。

縁は、祈をとても大切に想っている。祈が困っていたら助けたい、祈にいつも楽しいと思って欲しい、と。

だからこそ、どんなことでも、まずは自分が、と縁は思っている。それは、自己中心的でも、自己満足でもはなく、祈のことを想い尊重しての行動である。

祈もまた、同じような想いでいる。いつも、まずは、自分を大切にし、尊重してくれる縁の存在がとても大切であり、日常が色づくのは、縁がいてこそだと思っている。


「祈、ずっと一緒にいような。祈がいない、世界なんて想像できない…、って恥ずかしいな、こういうの声にだすと。」


そう照れながら言う縁に祈は、


「今、誰かに何か囁かれたような?」


と、まるで隣に縁がいないような、知らんぷりの意地悪をする。その時、祈の頬は、桜色に染まり、照れ隠しをする。


そんな、恥ずかしがり屋で可愛い祈のほっぺを縁はつねり、


「これでおあいこな。さあ、桜並木まで行こう!」


「えにゅし…痛いよ。さっきのちゃんと聞こえたよ。約束ね。もちろん、人生なにがあるかわからないけど…今までずっと一緒だから、私も縁がいない世界なんて考えられないよ。」


と祈は、はにかむ。


縁と祈は、一人っ子で互いの両親は、共働き。

互いの母親が16時頃に帰宅するので、下校後の数時間は、二人で過ごす。

篝が引っ越してきてからは、三人で過ごす日もあるが二人と違い、篝は何かと忙しい。だから、やっぱり二人で時を経ってきた。そこには、二人しかわからない、繋がりがある。

決して、他人を寄せ付けないわけではないが、行き着く先が互いなのだ。






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