第36話 こちら側の魔物 あちら側の魔物

 景虎は戦っている。 


 相手は鎧武者……魔物だろうか? よく見えれば、顔を守る防具――――面頬という名前だ――――その隙間から見える顔は鬼だった。


 相手は鎧を着こんだ鬼。別の世界ではオーガと言われる魔物だ。


 景虎の武装は、ボロボロ。これまでダンジョンを進んで入手したアイテムを装備した即興な防具で固めている。


 武器は小刀のみ。 兄、正宗が渡した武器は、存外に性能が高い。


(うむ。流石、兄上が持っていた小刀。軽くて丈夫……何よりも切れ味がよい)


 オーガの武器は金棒だ。 鬼に金棒……


「まるで柴田勝家どのを思い出す姿と猛攻でござるが……柴田どのと比べる力量ではござらんな!」


 振り回してくる金棒は、全て景虎に触れる事はない。


 紙一重で避け続ける。 オーガが苛立ちを隠さない。 


 大きく振り上げた金棒は、地面を叩いた。


「待っていたでござる。僅かに攻撃の手が止まる瞬間を!」


 景虎は低い体勢になった。 言うまでもないが、彼は鎧武者の構造に精通している。


(鎧の弱点は下半身の隙間でござる。 足の可動域を制限させないために、装甲がない箇所を狙う!)


 刺突がオーガの内ももに突き刺さり、鮮血が飛び散った。


 激痛に襲われているのだろう。


「ぐぅがあああああああああああああああ!」と叫びで動きが止まる。


「ここでござるよ! 痛みで体が膠着した瞬間は、巨大な相手であれ――――簡単に投げれる!」


 景虎はオーガを投げ飛ばした。 地面に叩きつけられ、反動に浮き上がるほどの衝撃。


 受け身も取れず、後頭部を痛打したオーガ。 意識は失わないまでも、脳にまでダメージを受けたようで、動きがに鈍っている。


 その隙に寝技。 小刀を口に加えた景虎は技を使い、巨体剛腕であるはずのオーガを押さえ込んだ。


 こうなると後は――――


(防具の隙間から、その首を取らせてもらうでござる!)


 その小刀を鎧と兜の隙間に滑り込ませた。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「これは、流石にバランスが悪いのでは……」


 景虎は鎧武者オーガを討伐した後、その場に残った武器である金棒を引きづりながら進んでいた。


「片手には小型武器の小刀。片手には大型武器の金棒……この武器で檻を壊して、地下牢から脱出できそうではあるが……」


 そんな雑談を視聴者リスナーと楽しみながら進んで行く。 コメント欄には――――


『そっちのダンジョンって、出現する魔物も大きく違うの? さっきのオーガみたいに』


 視聴者たちの中には、ダンジョン配信を長年見続けている者も少なくはない。


 しかし、先ほど出現したオーガは、和風の鎧を装備していた。 


 配信を見ていた、ほぼ全ての者が初見の武装オーガだったのだ。


「うむ、拙者もどちらの魔物を全て理解把握しているわけではござるんが……」  

  

 例えば、景虎は世界を渡って初めて見た魔物にゴブリンがいる。


 小鬼はいるが、体の色が赤や青だ。 緑色のゴブリンとは、別個体になる。


「確かに…… あちらでは有名であっても、拙者は見たことも聞いたこともない魔物もたくさんいたでござる。逆にこちらで有名な魔物で、知られていなかったのは――――ウワサをすれば影。現れたでござるよ」


 本当に現れたのは影だった。 いや、黒い平面な生物――――魔物だろうか?


 薄暗いダンジョンで奇襲を仕掛けて来る魔物なのだろう。 しかし、奇襲が失敗した今、影は平面な状態から厚みを得てくる。


 その姿は、黒い歌舞伎役者のような姿。 ふわふわした髪――――獅子の頭と言うらしい。   


「うむ、あの魔物は歌舞伎忍者でござるな」


 景虎の言葉にコメント欄はざわめきが起きた。


『歌舞伎忍者……って何?』


『歌舞伎忍者? 本当に魔物なのか? 実は人間だったりしない?』  

 

『いや、あの歌舞伎の髪は動物の精霊を表現してるらしいから……ワンチャン?』


『じゃ、あの魔物は精霊なのか? 忍者なのに!?』


 そんな中、離れた位置から歌舞伎忍者は髪を振り回して、遠距離から攻撃してきた。

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