第30話 PvP坂本竜馬 ②

 刀と刀がぶつかり合う。 キン――――と響き合う金属音。


 有村景虎の特徴といえば、大型魔物を相手にするために鍛え抜かれた腕力。


 その膂力を持ってすら、竜馬の力を押さえきれない。


(鍔迫り合いを開始した瞬間、力負けしそうになる。その肉体――――どう作り上げた?)


 互いの腕力によって弾かれたように両者が下がる。


 坂本竜馬は、再び構える。 一撃を狙う剛剣――――


 対する景虎は、力比べを拒否した。 選択したのは速さ勝負。


 左右に体を動かし、何度もフェイントをかける。


 しかし、景虎が放つ虚の技に竜馬は反応しない。


 景虎は大きく踏み込むと、胴を狙う――――しかし、これもフェイント。


 景虎の武器は巨大な日本刀。 下がりながら振るっても相手に届く。


 しかし、これも弾かれる。 逆に間合いを縮めた竜馬が横薙ぎの一撃。


 それも低い体勢から放たれた横薙ぎの一撃。


 強烈な一撃は受ければ、体が浮き上がる。 無理やり上半身が前傾姿勢から真っすぐに伸ばされれば、力が剣に伝わらなくなる。


 一撃、二撃と受け続ければ、気づかぬ内に技が弱まっていく。


 そして、坂本竜馬が使う北辰一刀流の特徴には連続攻撃がある。


 巨大な日本を武器にする景虎。彼にとって、ふところに飛び込まれること――――そして、素早い攻撃を連続で放たれる事は不利である。


(近間の打ち合いなら、どうしても反応が遅れる。力比べ、速さ比べ、技比べ……総合力なら相手が上か。だったら――――)


 連続攻撃。継間のない上質な技。 しかし、それが永遠に続くわけではない。


 全ての攻撃を捌ききった景虎。 一瞬、坂本竜馬の動きが止まった。


 蹴り――――景虎が放った蹴りは間合いを作るためのもの。


 通常なら入らない蹴りだった。


 しかし、攻撃の終わりに狙いを定めていた。だから、一撃が入り、坂本龍馬の後退していく。


 広まった間合い。ならば――――


「真っ向勝負なら、そちらが上でござったな。悪いが、勝ちに徹底させてもらうでござるよ」


 景虎が変えた構え。 それを向けられた竜馬本人は――――


「随分と雄弁な構えだね。刺突しかしない狙わないと宣言してるようなものだ」


「その通りでござる。拙者の狙いは刺突……このまま削り倒させていただく」


 刺突――――リーチの長い日本刀を突きに専念させて、攻撃の間合いに潜り込ませない。 


(ただ速く、ただ速く――――近づくこともさせない)


 竜馬が一歩、景虎の間合いに踏み込んだ。


 剣の届く位置。間合いに踏み込めば――――即刺突。


 景虎のソレは速いだけではなく、鋭いだけではなく、初動作という物がほぼ存在していない。


 対面する竜馬には――――


「正面から立って見ると、予想以上に攻撃が見えないなぁ。でも、勝つためには間合いの内側に入らないと……ね?」


 竜馬は一度、大きく斜めに飛んだ。 その動きは疾い。


 だが――――「フン!」と景虎は横に刀を振る。


 竜馬の動きは、速さに拘っていた。 そのため、横からの力に弱く――――


「くっ!」と吹き飛ばされていった。


 大きくバランスを崩した竜馬。それは大きな隙となる。


 刺突の専念から、上段に構え直した景虎は刀を振り下ろした。


 防御。 竜馬は受けた。


 純粋な腕力なら竜馬が上。しかし、大型魔物を想定した有村の技は、刹那に等しい僅かな時間――――人間を凌駕する力を発する。


「このまま、圧し潰させていただくでござる!」


「ぬぐっ! なんで重さだい」


 金属が激しく軋む音。 それだけが暫く静寂なダンジョンに広がっていく。


 力比べは不利だと認識した竜馬が、景虎の打ち下ろしをいなす。


 地面を砕いて止まった剣。 それが、今度は景虎の隙となる。


「ここで勝負を決めさせてもらうよ!」と竜馬の攻撃。


 通常なら避けれも、防御もできない。 勝機を確信した竜馬だったが――――


 景虎の剣は、対人の技のみではない。


 人間ではない魔物の攻撃を受ける、あるいは避ける技を有している。


 だから、人間の剣術ではあり得ない動きを――――技を持って避けた。


「なっ! 今、どうやって!」


 まるで関節がない軟体動物の奇妙な動き。 


 意表をつかれた竜馬は、景虎の次に反応できない。


 竜馬は、辛うじて防御は間に合わせた。 しかし、辛うじて―――― 景虎の刀は竜馬の胴体に埋まっていた。


 致命傷ではない。しかし、決して小さいとは言えないダメージであった。


「まだ続けるでござるか? これで決着として終われば――――」


「冗談だろ?」と竜馬は笑った。


「今、楽しくなってきたところ何――――」 


 不自然な所で彼の声が止まった。 最初、景虎は痛みによるもので声が止まったのだと思った。


 しかし……何か、様子がおかしい。 まるで、目前の竜馬が別人に変わっていくような感覚に陥っていく。


「何が、楽しくなってきたじゃ。これ以上は竜馬の代わりにワシが相手じゃ!」


 竜馬――――いや、別人に変わった相手の剣は、鋭さを増して景虎を襲った。


「剣の技……流派まで変わっている? 一体、何が……?」


「初めまして、ワシは岡田以蔵と言います。それじゃ、今から死んでもらうますわ!」

 


  





  

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