第26話 教授を探して

 一方――――首都『尾張』名古屋


 暗闇の中、1人歩いている男は――――坂本竜馬だった。


 公にはできない談合。 それを終わらせた時、時間は深夜となり、人の流れはなし。


「――――」と声が聞こえた。 反射的に竜馬は、声がした方向、路地裏に目を向けた。


 刀の柄を握り、警戒をしていたが――――


「なんだ、岡田さんかぁ」と気を抜いた。


 坂本龍馬のボディガード。普段は姿を見せずに影ながら、竜馬を守っていた岡田以蔵が姿を現した。


「珍しいなぁ。そんなに堂々と姿をみせるなんて」


「お前、死ぬ気か?」


「死ぬ気? 僕が?」と竜馬は心当たりがないようだ。 それを苛立ったように以蔵は――――


「今日、どこに行っていた。 武市半平太先生の所だろ?」


「うん、そうだけど?」


「あの異世界とやらに行ったサムライに送る刺客。話をまとめた人間の名前を言ってみい」


「えっと……つ田中新兵衛、河上彦斎、中村半次郎」 


「人斬りの見本市か。どいつも、こいつも、処刑されてしかるべきじゃないか」


「仕方ないよ。尾張幕府の手駒……って言うと言葉が悪いかな? そういう剣豪を動かすのは難しいだよ」


「ほうか……それで、ワシがいないのは何でじゃ?」


「……だめだよ、以蔵さん」と竜馬の表情は悲しみが浮かんでいた。


「せっかく、この時代まで生きる事が許されているんだ。わざわざ死地に行く必要は……」


「それじゃ、お前はどうなんじゃ?」


「僕!?」


「昔のお前じゃったら、自分で向かっていたはずじゃろ?」


「僕は、この国の外交を――――」


「何が外交じゃ! おまんは世界に飛び出したかったじゃなか?」


「僕が……僕が自分で乗り込む? 異世界に?」


「そうじゃ? 思い出せ。お前は誰じゃ? 坂本竜馬じゃなか!」


「そう……僕は坂本竜馬。坂本竜馬なら――――自分の足で行く!」


 その目に炎が灯ったように、爛々とした輝きが見えた。


「そうじゃ、その目じゃ! 坂本竜馬に戻った!行くぞ、ワシと一緒に」


「……え? 以蔵さんも一緒に行くの?」


「当り前じゃ!」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


一方、有村景虎と飛鳥シノの2人。 教会を歩き回っていると――――


「むっ! この床……」と景虎。


「床? 床がどうかしましたか?」


「音が違う。 地下に空間が広がっている。下がっているでござるよ」


 飛鳥が離れたのを確認して、彼は刀を振る。


 床の板に太刀筋が通った。その次の瞬間には、バラバラと斬られた板が落ちて行った。


「こんな所に階段が!?」


「逃げた教授とやらは、ここを通ったようでござるな」


 飛鳥シノは、魔法で灯りを付ける。


「随分と深く掘っている。 行くか」と景虎は進んで行った。


 狭い通路。 これには景虎は困った。


 彼の武器は大型の日本刀。 それを振るには狭すぎる空間だ。


 小型の魔物が出現したならば――――そして、その不安は現実となった。


「何か飛んで来る」と景虎は刀を抜こうとした。しかし、うまくいかない。


「仕方あるまい!」と鞘ごと日本刀を腰から外して、鞘を後方に投げ捨てるような動きで刀を抜いた。


 日本刀の刃を反対から掴むような構え。 


「来る!」と小さな動きに飛来してくる何かを斬った。


 地面に落ちたのは蝙蝠型の魔物。 目の見えぬ蝙蝠は接近する障害物を超音波で把握する。


 この魔物も同じ能力を有していたが、避ける間もなく素早く斬って捨てられたのだ。


「うむ、5匹……6匹は来るな」


 不利なはずの狭い通路。 彼の神技は、苦も無く大型の日本刀を振る。


「さて、行くか」と一瞬で6匹の蝙蝠型魔物を倒してみせた。


 そして、先を続けていくと――――


「道が開けているな。通路の終わりか」


 通路の終わり。 その先には、神殿が建てられていた。


「神殿……結晶を持って教授が逃げた先と考えたら、ずいぶんと相応しい場所でござるな」


「……そうですね」


「むっ、隠れよ。人の気配がする」


 2人は岩陰に隠れた。 誰かが神殿の周囲を歩いている。


「あれが教授か? しかし、人が多いでござるな……むっ!」


 景虎は驚いた。 歩いている人たちは、彼の知る者たちだったからだ。


「なぜ、ここにいるのでござる? 蒼月ノアどの!」


  


  

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