30話 邂逅

 突然の爆発音。揺れる車両の軋む音。乗客の悲鳴。色んなものが混ざり合って不快な音を奏でている。

 

「なっ!?なんだ?」


「ぐぁっ」


 車両全体が揺れて向かいにいた男は窓ガラスに叩きつけられている。俺は姿勢を低くしていたため何とか倒れずに済んだ。突然の爆発音と衝撃。明らかに非常事態だ。


「まさか、この爆発……」


「あぁ……イテェ」


 向かいに居る不審者が立ち上がる。爆発の原因を探らなくてはいけないが、今は目の前の危険人物を拘束して無力化するのが先だ。素早く立ち上がり、拘束しようと手を伸ばすが。


「触るんじゃねぇよ」


「くそ」


 弾かれた。何か見えない衝撃波に吹き飛ばされた。明らかに異能力の類なのは分かる。しかし、相手の情報が一切ないこの状態では何の異能力者なのか判別することが出来ない。


「……異能力者か」


「違うなぁ。これは神の力。神に選ばれた者だけが行使できる恩寵なのだ。私の力は自分の体で受けた衝撃を蓄積させ自由に放出することが出来る力だ」


 気分がハイになっているのか、意気揚々と自分の異能力について語り始めた。ある程度、異能力者同士で戦闘をしたことがあるものなら自身の異能力を公言するのは自分の弱点をさらけ出しているようなものだ。


「ほぉ……お前みたいな奴に力を与えるような奴が神?冗談だろ? 」


「……国家の犬がぁ……平然と神を口にするなぁぁぁ」


 相手の逆鱗に触れたのか、相手は激高して襲い掛かって来る。どうする?いつもなら勢いを流して一本背負いで取り押さえるところだが、相手の異能力が本当なら余計なダメージを与えるのは得策ではない。


「あれ?お取込み中?」


「!?」


 爆発音が聞こえた方。つまり、先頭車両の方から人が現れた。フードを深くかぶっているため顔はよく見えないが、声からして男だろう。身長は170程に見えるが、何か妙な威圧感を感じる。


「誰だ?お前?」


「……」


 顔が見えないため、表情も読み取れない。フードの男は黙ったまま歩き出して不審者の横を素通りしようとする。そもそも視界がフードで遮られているはずなのに一切つまずくことなく両手はポケットに入れたまま歩いている。

 

「おい、無視すんなぁよ」


 そういって不審者がフードの男のフードを取るために、後ろから掴もうとする。しかし、フード男は顔を動かさずに左手を不審者に向ける。その瞬間、……不審者の体が浮き上がり壁に叩きつけられた。


「がっ……何だこれ」


「……うるさい」


 フード男から何かが飛び出した。まるで幽霊かのようなものが不審者を壁に押し付けている。不審者はもがく様に腕を振り回しているが、幽霊のようなものに触れられない。男の動きは徐々に鈍くなりやがて意識が薄れて行っているように見える。


「おい、そこまでだ。それ以上やったら死ぬぞ」


「へぇ……こいつが見えてるってことは、あんたも異能力者?」



 

                +             + 



 

「えっと……誰?」


 俺の家。ほとんど客は来ないが、今日は二人いる。一人は知っている人間が一人、皇 帝。しかしもう一人の女の子は知らない顔だ。なんとなく帝に顔が似ているような気がする。

 

美幸みゆき……俺の妹だ」


「あぁ……」


 納得した。確かに帝には妹がいると聞いていた。しかし、今度はなんで帝の妹が俺の家に来たのかが分からない。


「お兄様、なぜこのような冴えない男の家に来なければいけないのですか?」


「冴えない……」


 透き通るような高めの声が部屋に響く。悪意などまるでないかのように真顔で隣にいる帝の方を向いた。長めの黒髪と長いまつ毛が窓からの光で輝いて見える。兄妹揃って美男美女で少し羨ましく思う。


「美幸……あまりそういう事を言うな」


「……」


 少し言い返された妹さんは黙ったまま真顔でそっぽを向いてしまった。そのせいで部屋の中に沈黙が訪れ、少し気まずい雰囲気が流れたが何とか話題を絞り出す。

 

「なんで妹さんが?」


「実は皇財閥の関連企業にある物が届いた」


「ある物?」


「あぁ……爆弾予告だ」


「爆弾予告!?」


 普段の生活で聞くことない言葉が出て来たので思わず聞き返してしまった。二人はすでに事情を知っているのか、わずかに表情が暗くなった。


「あぁ……今のところ爆発は起きていないが、いつ非常事態が起きるか分からない」


「マジか……」


「だからお前には妹のボディーガードをお願いしたい」


「え?」


「お兄様!?」


 俺の声と妹さんの声が重なる。妹さんも事前に聞いていなかったのか俺と同じように驚いている。


「なんで俺?帝なら本職の人間をいくらでも雇えるだろ?」


「本来ならそうするべきなんだが、今回の相手は特殊なんだ」


「特殊?何が?」


「公安の木ノ下から聞いたが、相手は異能力者集団の可能性が高いらしい」


 木ノ下さんは公安で異能力者の犯罪を担当している人だ。俺は一度会っただけだが、帝はあの日以降も会っているらしい。その人が言うのだから本当に可能性が高いのだろう。

 

「……」


 妹さんは何が何だか分からないといった顔をしている。俺も最初に異能力の説明をされたときは同じような反応をした。

 

「だから、異能力を無効化できるお前が適任だと思った。同じ学校にいるというのも理由の1つだ」


「妹さんって……中等部?」


「……」


「美幸」


「……えぇ、そうだけど」


 帝に聞いたつもりだったが、帝が促すとしぶしぶ答えた。なんか帝より低めの声であたりが強い。この反応からして朱音ちゃんと同じような対応をすると、まずいと直感で感じた。


「よ、よろしく……」


「気安く話しかけないで?」

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