第23話 それぞれの思惑

「なるほど……異能力者同士の殺し合い」


「そんなバカげた話があるか?」


「参加者の証拠である数字は同じく参加者にしか認識できません。他の人間から見ればただの異能力者と変わりません」


 これはすべて真実だが、他の異能力者から見たら意味の分からない話だろう。実際に「世界」とあっていない彼らでは信じがたいと思う。


「彼の話は本当だよ」


「……ッ!?」


「……ボス!?」


 ボスには隠し事は出来ない。それ故に「世界」と名乗る人物と接触した時点でボスには事前に話をした。ボスが信じてくれるとは思わなかったが……。

 

「彼の話は事前に聞いていた。確かに参加者ではない我々には分からないかもしれない。しかし、海外異能力集団の来日、および東京における異能力者数の増加。これも彼の言う戦争ゲームの影響と考えれば辻褄が合う」


 スーツ姿にオールバックの髪型をした幹部が発現のために口を開いた。

 

「仮に本当だとしても、組織としては関知しない方が得策ではないでしょうか?無理に関わろうとすれば組織に損害が出るのは確実です」


「そうだね。幹部一人と組織全体を天秤に乗せて比べれば傾くのがどちらかは明らかだ。だから、この件は真央君に一任しようと思う。良いかな?」


「はい、ボス」


 ボス手をテーブルの上に置いたまま、俺の方を向く。そもそもこの件は俺が持ち込んだ問題だ。組織としては関与しないと言われてもおかしくはなかった。


「待ってください、ボス。」


「どうしたんだい?アッシュ君」


「こいつの話を信用するのですか?こいつは前任の幹部、それも自分の恩人を殺して幹部に成りあがった男です。俺は信用できない」


「確かに一理あるが、組織は幹部といえど一人の意見だけで方針を変えられるほど単純じゃないよ」


「承知しています。1つだけお願いしたいことがあります」


「何かね?」


 ボスに提案をするという事は、何かを賭けるという事だ。面子、立場、権利、命。賭ける物は様々だがそれだけの覚悟が必要という事だ。

 

「この件、俺にも関わらせてください」


「それは真央君と共同で進めたいという事かな?」


「はい。もし、こいつが組織に対して不利益になりうる行為を行った場合、俺がこいつを粛清します」


「まぁ……人では多いことに越したことはないけど。どうかな真央君」


 ボスはこちらに向いて意見を求めてくる。ボスの目は何というか形容し難いものを感じる。深い深淵の覗いているような感覚だ。

 

「ボスの決定であれば従います」


「そうか。では今回の海外の異能力者集団の件は真央君とジン君に任せようと思う」


「「「……」」」


 幹部たちは沈黙を賛成の代わりとしてボスの提案を受け入れた。ボスは一息ついてから再び会議を再開した。


「では次の話を……」


 


              +             +




 警報音、警報音。

 

 赤色灯が点滅して、警報音が建物中に響き渡っている。職員や警備員と見られる人間たちが慌ただしく移動する音が良く聞こえる。

 

 アナウンス。

 

「全職員に通達。不審者が侵入。全警備員に発砲を許可する。繰り返す……」


「なぁ……日本じゃ、銃を構えることすら許可制ってホントか?」


「あぁ、日本は銃を携帯することすら厳しいからね。発砲は稀だよ」


 建物の正面入り口から三人の人間が入って来る。真ん中に立っている男と左に立っている男が話している。周囲には人は居ない。あるのは人だったものだけ。


 三人の侵入者は全員、顔立ちが日本人ひいてはアジア人とは違っていた。おそらく欧米の人間だろう。海外の人間だ。


「俺はどこに行けばいい?」


「上にいって監視システムを奪ってこい」


「了解」


 そう言うと左の男は懐から大型の小銃を取り出した。到底、懐に入るような大きさのものではないが服に乱れはなかった。そして、それを吹き抜けになっている天井から上階の方に投げた。


「オイラは?」


「お前はエキストラを集めてきてくれ。俺は作戦に必要な奴らを探してくるから」


「OK、どのくらい集めればいい?」


 いつの間にかカメラを持っていた男がいなくなっていた。走るような足音やエレベーターなどの乗り物に乗った音もしなかった。本当に消えたかのようだ。

 

「そりゃ、多ければ多いほどいいよ」


「OK」


 そうして右に居た男はその場に座り込んで地面に何やらものを書いている。真ん中に居た男は……。消えている。


「覗きかぁ?良くないなぁ」


「ッ!?」


 声のする方向に振り向く。背後に男が立っている。先ほど監督ディレクターと呼ばれていた男だ。


「……がっ……」


 男に首を掴まれる。力はそこまで強くない。わずかに指が沈む程度の力だが。何故か……意識が……消え……。


「反転」




               +             +




「あれ、何それ?」


「さぁ、生き残りじゃない」


「あっそ」


 仲間の1人はそのまま異能力を使うため地面に文字を綴っていく。俺は今回の目的を遂げる為に正面入り口から進み、建物の中に行く。


「さて、どうしようか。事前にめぼしい人たちはマークしてるけど……」



「動くな!手を上げろ!」


 

「あれ?まだいたの?多いな」


 正面の入口を抜けると、そこは十字の通路になっていた。正面と左右の通路にはまるで待ち受けていたかのように警備員が綺麗に並んでいた。


「日本人ってこれでも撃ってこないんだな」


「……っ!?」


 撃ってこないのでとりあえず通路の奥を目指すために歩き出す。通路は薄暗いが真っ暗という訳ではない。


「と……止まれ!」


「……」


 どうせ撃ってこないので無視して進み続ける。この通路の奥が1つ目の異能力者区域になっているはずだ。


「……っ」


 発砲音。それに釣られるように2発、3発と銃弾が発砲される。誰が撃ったかは分からない。


「反転」


 しかし、銃弾は届かない。肌に触れた瞬間、その方向を反転させて自らが描いてきた直線の軌道をたどるように戻っていく。


「ガッ……」


「うわっ!」


「う……撃たれた」


「はぁ……」


 なんか各々反応してるが正直退屈でたまらない。もう少し劇を楽しめると思ったが、退屈過ぎる。これなら日本のカブキやマンザイを見ていた方が楽しめただろう。


「スタングレネード!!」


「へぇ……」


 正面の人の群れの中の1人が楕円形の物体をこちらの足元に投げて来た。それはちょうど足元で止まり瞬時に閃光と大音響による衝撃が視力と聴力を襲う。


「反転」


「撃て!」


 異能力を発動させ下を向く。周りの人間には顔が見えなくなる。口元の上がった口角も同様に見えなくなる。


「いいね」


 


               +             +




「以上が報告になります」


「ありがとう。席に戻ってくれ」


「はい」


 プロジェクターの電源を切るとスクリーンが白に戻り、室内の照明が自動的に点灯する。


 定員10人ほどの広さの会議室に5人の人間が集められ、報告及び対策会を開いていた。照明は十分いきわたっているのに空気が暗い。


「完全にしてやられましたね。こんなあからさまな正面からの侵入は前代未聞だ」


「監視カメラはすべて破壊されていました。犯人の顔や情報は一切不明。警備員のほとんどが重症もしくは死亡で聞き取りできる人物も限られてます」


 先程までプロジェクターに映った資料の説明をしていた有間が追加説明をする。課の中で一番小柄だが、一番しっかりしている人物だ。

 

「こっちの手がかりはほとんどありません。どうしますか?木ノ下さん」


「まずは状況を確認してから情報を整理する。犯人確保へ動き出すのはその後だ」


 スクリーンのすぐ隣、長テーブルの真ん中に座っているリーダーが重く発言をして仲間に指示を出す。


「はい」


「先日の雑居ビルでの騒動の方はどうしますか?」


 大人しく聞いていた金森が手を上げながら発言する。5人の中で一番の新人である金森は未だに緊張している場面が時々ある。

 

「目撃者は少ないですが偶然その時、現場で撮影をしていた人物が居ました。その動画に事件の当事者が映っていたため、SNSにて動画が公開されネットで拡散されています」

 

「そっちはサイバー対策に任せるしかないでしょ」


「あぁ、我々は一刻も早くこの異能力者達を拘束する必要がある」


「ですが、この事件の犯人の片方は巨大な組織の幹部です。簡単に捕まえられる相手ではありません」


「確かにもう一人の方から逮捕すべきじゃないですか?」


 岩波は資料をじっと見つめつつ進言をしてくる。確かにあの男を逮捕するのは簡単じゃない。あの組織と敵対するのもこちらとしては避けたい。

 

「では、この事件の関係者と思われる男。愚上ぐじょう れいの逮捕の件を進める」

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