きりぎりす 鳴くや炎夏の 陽の下に

きりぎりす 鳴くや炎夏えんかの もと



 季語は炎夏、季節はもちろん夏。

 テーマとなる虫は、キリギリス(直翅目キリギリス科)。ここでは、ニシキリギリスおよびヒガシキリギリスの総称として扱う。

 なお、俳句の世界では、『きりぎりす』は秋の季語となる。現代においては実態と異なっており、今回は夏の季語のつもりで使用した。これについては後ほど解説する。



 和歌の世界には、本歌取りという言葉がある。有名な歌の一部を取り入れて、奥行きを与える効果があるらしい。現代においては、下手に使うとパクリの誹りを受けそうであるが。


 というわけで、今回『本歌』となるのは、こちらの百人一首で知られる歌。


きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣かたしき ひとりかも寝む

 (後京極摂政前太政大臣)


 これは短歌なので季語は関係ないが、『きりぎりす』は秋の季語、『しも』は冬の季語である。


 この『きりぎりす』、実は現代で言うコオロギ、その中でもおそらくは晩秋まで鳴いているツヅレサセコオロギという種ではないかと思われる。というわけで、『きりぎりす』も秋の季語なのである。


 しかし今回は真夏の河川敷や農耕地で鳴いている、現代昆虫学におけるキリギリスをイメージして、夏の季語扱いで詠んでみた。中七に夏であることを、下五で昼間であることを示す。


 こうなると下の句は蛇足以外の何物でもないのでカット。

 俳句になってしまった。


 短歌を本歌取りして俳句に改造。

 実態に合わせてとはいえ、季語として扱われるものを本来とは別の季節で使う。

 そして、複数の季語を使う季重なりと、反則だらけの句となってしまった。


 俳句の専門家に見られたら怒られるだろうか。

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