第24話 ピクニック配信 スライム探して上層へ
というわけでノグチの背中に乗りながら雑談配信することしばらく。
お馴染みの森林エリアに到着したわけだけど、
「やっぱり実演調合するなら、ここがいいよね」
そういって、アイテムポーチから調合道具を引っ張り出せば、コメント欄から呆れたような感想が飛んできた。
”相変わらず早いんだよな”
”下層から上層まで10分弱ってどんなルート使ってるの?”
”調合も知りたいけど、俺ら敵にはそっちのルートも知りたかったり”
「あーそれに関してはセキュリティー的に秘密かな」
視聴者の言いたいことはわかるけど、アパートの道のりはトップシークレットってことで絶対にばらさないってタマエと約束してるんだよね。
主にヘンタイ対策で。
”あー確かにあの会長だとガチで単身で乗り込んでいきそう”
”やらないと言い切れないのが怖いんだよな”
”ノグチさんに会いに行きたい気持ちは痛いほどわかるけど”
でしょー?
わたしもアパートのお隣さん増やしたいから、この問題はどうにかしたいって考えてるんだけど、こればかりは今後の課題かなぁ。
「それじゃあ気を取り直して、さっそくスライム集めちゃおっか」
と、その前にまずは【掃除】が必要だね。
”掃除?”
”管理人が言うとなんかすごい不吉な言葉に聞こえるけど”
うん。スライムくらい弱い生き物だと、周りにモンスがいても平気で寄ってくるけど、調合の邪魔されたら嫌だしね。
「そんなわけで材料採取のついでにノグチ、よろしくね」
「にゃう!」
そういってノグチに頼めば、配信画面に映るわたしの背後では、ドタンバタンとモンスターたちの阿鼻叫喚が。
え? わたしは働かないのかって?
「わたしはほら、ここでノグチの荷物を守るって言う任務があるから」
それにしてもノグチの調合食がそんな人気だったなんてねぇ。
(ま、ダンジョンでは基本、食糧調達はできないから当然か)
モンスターの体液には基本的には毒が混ざっているのもそうだけど、適切な処理ができないと食べられないものが多いからだ。
よしんば食べられたとしても味が最悪な場合が多く、
(それが何週間も続くとなるとか地獄すぎるしね)
だからダンジョン探索では、後方支援組が地上から大量の食糧をアイテムボックスに詰め込み、管理するわけだけど
”ノグチさんの調合メシはすごく簡単だから、素材市場が今熱いんだよな”
”そうそう気づけばたいして高くなかった素材が高騰してるし”
”素材の在庫が売れまくってるから、初心者の採取クエストも増えてきた”
「へー、今地上でそんな社会現象が巻き起こってるんだ」
まぁノグチが使う素材は基本的上層でとれる簡単なものにしてるから、そこまで大変じゃないとは思うけど、世の中の役に立ってると思うとやっぱりうれしいよね。
そんなわけでとりあえず周囲のモンスターはキレイキレイしたわけど、
「だけどやっぱりノグチがいるから襲ってこないね」
「にゃう」
仕方ないよ。この辺のモンスだとレベルが低くて、本能的に寄ってこないのはわかってたし。
「仕方ない。モンスが無限わきする【モンス寄せ玉】を作っていこっか」
”モンス寄せ玉?”
”聞いたこともないアイテムだな”
”またノグチさんオリジナルか”
そそ、いわゆる撒餌ってやつだね。
「作り方はいたって簡単だよ? 魔石を粉末状に砕いて、モンス除けに使われてる激臭草を抜いた煙玉と混ぜ混ぜするだけだし」
んじゃノグチ、実演よろしく~。
そういってノグチに頼めば、猫の手で魔石が肉球の中でバリバリ粉末になっていった。
魔石は基本的に地上で使われている希少なエネルギー源なんだけど、低級の小魔石にはあまり価値がないんだよねぇ。
だからこういう魔石はよくはぎ取る前に捨て置かれることが多いんだけど、
”なんで魔石練り込むん?”
”つか小魔石1個で足りるん?”
「ああ、これ? ダンジョンモンスは基本、魔力を食べて生きているからね。無意識に周囲の魔力よりも若干濃い場所に集まる習性があるんだ」
実際【スタンビート」が起きる原因は魔力だまりの発生だ。
だからこうやって【モンス寄せ玉】を使ってやることで、【スタンビート】を抑制させたりできることもあるのだ。
「まぁ今回はスライムの捕獲だし。そんなたくさんの魔石はいらないんだけどね」
”はー魔石にそんな活用方法がやり方があるんだ”
”魔石って、魔道具を動かすエネルギーとしてしか需要ないと思った”
”あれ? おまえら、しれっと流してるけど”
”これダンジョン界隈をひっくり返す新情報では?”
「まぁ、小魔石くらいの魔力なら全然問題ないけど、中魔石以上の魔石を使うと、強いモンスを呼び寄せたりしちゃうから取り扱いには注意が必要だけどね」
というわけでさっそく出来上がった【モンス寄せ玉】を、地面に投げると、薄ピンクの粉塵と共に甘い匂いが広がった。
(上層だし、この辺は【魔力だまり】も少ないからすぐ集まってかな?)
それまで、雑談配信でもしようかと考えていると、やや聞き覚えのあるダミ声が背後から飛んできた。
「やいやいようやく見つけたぞ!」
「この前の仕返しに来てやったぞ」
「俺たちに認知してもらったことをありがたく思え!」
振り返れば、やや特徴的な髪形をした三人の探索者が。
確かタマエと居酒屋で飲んでるときに絡んできた迷惑系配信者の――
「あ、チャラ男三人衆」
「誰が三人衆だ!」
「ゾン・ビーズだよ!」
「覚えてねぇのか!」
リーダーらしき金髪の男が声に追従するかのように取り巻きたちが地団太を踏む。
ああ、そうだったそうだった。確かそんな名前だったわ。
「というか何でここに? ここ上層とは言え結構、奥地なんだけど」
偶然迷い込んだあってわけじゃないよね?
というか今は配信中だからさっさとどっか行ってほしいんだけど。
「いきなりモンスがフロア入り口に殺到してきたからこっちに逃げてきたのに、死にに行けって鬼か!」
「お前のおかげで森林エリアに来れるようになったから試しに潜ってたら、お前が暴れまわってるってわかったからこっちに来たんだよ!」
「でも。トラップエリア苦戦してたからマジ楽になったからそこだけはお礼言っとくありがとうな!」
いや素直か。
「それじゃあもういいでしょ、いま配信中なんだからどっか行ってよ」
アンタたちも炎上したくないでしょ?
こっちには150万人以上のリスナーがついてるんだよ?
「ふっ、んなの関係ねぇ」
「炎上が怖くて暴露系やってられっか!」
「さぁここで会ったが100年目。社長にも言われてっし、そのノグチさんの秘密、洗いざらいはいてもらうぜ」
いや、アンタらの事情なんて知ったこっちゃないんだけど。
「あと、どうでもいいけど、ここも危ないから離れた方がいいよ。アンタらだってまたひどい目にあいたくないでしょ?」
「ふん、そんな脅し通用ねぇ」
「あの鬼みてぇに怖いねぇちゃんがいないんじゃこっちのもんだ」
「ふ、この新調したばかりの大剣を見――よ?」
そういって威勢よく背中から大剣を引っこ抜けば、不思議そうに首をかしげる取り巻き一号。
武器の半分くらいが溶けてなくなっており、ひどく不格好な武器だが、ポヨンとその足元には水まんじゅうの可愛らしい取り巻きたちを囲んでおり、
「「「な、なんじゃこりゃああああああああああああああ」」」
チャラ男三人衆の叫びと共にスライムの大群が押し寄せてきた。
”なにこの数!”
”おびき寄せるってレベルの数じゃねぇぞ!!
”うわ、チャラ男三人衆終わったな”
「おおー予想以上にたくさん来たね」
「にゃう」
うん、上々上々。
これなら早く『アレ』になりそうかな?
”なに落ち着いてんだ!”
”これ下手したらスタンビート起きないか!”
”いや待て、スライムたちの様子が――”
そういって慌てふためくコメント欄。
すると群れていた色とりどりのスライムたちが、一匹また一匹とくっつきだし、巨大な山のようなスライムが爆誕した。
”どえええええええええええええええ!”
”エ、エンペラースライムだと!”
”合体したところ初めて見た!”
え、そうなの?
簡単に経験値稼げるし、一匹一匹潰すより楽だからこのやり方でいつもやってるんだけど。
するとエンペラースライムから伸びた触手が次々と、哀れなるチャラ男3人組に巻き付いていき、一気につるし上げるではないか
「うわああああ」
「たすけてくれええええええ!」
「おかあちゃああああああああああああああああああん!」
ヤレヤレ。
だから言ったのに。
まぁどうなろうと自業自得だろうけど、このまま放っておくってのも視聴者受けによくないよね。
「はぁ、仕方ない。それじゃあノグチ。予定とはちょっと違うけどやっちゃって!」
「にゃう!」
そういってノグチが繰り出した渾身の猫パンチは、合体したエンペラースライムをチャラ男三人衆ごと打ち上げ、ダンジョンの空にきれいな花火を咲かせるのであった。
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