幻獣たちと共に大地を行く行商人! ~こちら青空運送です~

あきさけ

第一部 青空運送商会始めます!

第一章 逃げ延びた少女と幻獣たちの出会い

1. 侵略者と幻獣たち

「わふ、わふぅ!」


「う、うぅぅ……」


『目が覚めたか、少女よ』


 え?

 ここはどこ?

 なんだか羽毛の中に包まれているような……。

 あと、私の目の前にいる小さな狼みたいな生き物は一体?


『大丈夫か少女よ。私の声は聞こえているか?』


「あ……はい」


『どこか痛むところはないか? シームルグに頼み傷を癒やしたのだが』


 え、傷?

 そういえば、傷がなくなってる。

 なにが起こったの?


「大丈夫です。あなたは?」


『ああ、自己紹介が遅れたな。私はロック。ロック鳥などと呼ばれている存在だ』


 ロック鳥……幻獣!?

 私、幻獣様の上にいるの!?

 急いで降りないと!


『そのままでよいので話を聞かせてくれ。なにがあった?』


 なにが……そうだ、私の住んでいた街は襲われたんだった。

 それもモンスターや獣の群れではなく人間族に。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



「おじさん、今日の配達品です!」


「お、シエルちゃん。今日もはりきってるね!」


「はい! それが私の取り柄ですから!」


 私はシエル、天翼族の配達人だ。

 小さい頃は両親と一緒に街と街の間を旅する行商人だったけど、12歳の時、大型のモンスターに襲われて私の両親は死んでしまった。

 私は運良く逃げだし近くの街まで助けを呼びに行くことが出来たけど、お父さんたちを助けに戻ったときには護衛の人たちを含めみんな殺されたあとだった。

 そのあと、私は街の孤児院で引き取られて暮らすことになったけど、年長になってから孤児院に入った私はうまく周りと馴染めなかったな。


 16歳になって孤児院を出たあと、私は『配達人』と呼ばれる仕事に就くことになる。

 この仕事は手紙や食料品、雑貨や生き物まで様々なものを運ぶ仕事だ。

 信用の低い間は重要な仕事を回してもらえないし報酬も安いけどそれも仕方がない。

 重要な仕事になれば街の中だけではなく別の街や国を越えての配達になるからだ。

 あと、天翼族は背中に翼があるためカバンを背負えない。

 必然的に手持ちカバンに入るものしか持ち歩けず、配達人としては不利だ。

 私はまだお父さんたちの遺品にあった容量の少ないマジックバッグを使って仕事をしているからなんとかなっているけど、普通の手持ちカバンしかない天翼族には配達人は無理なんじゃないかな。


 とにかく、配達人になって1年とちょっとが過ぎ、私は17歳になった。

 この国はエルフ族の国なので天翼族は少なく顔も覚えられている。

 もう少しで配達人としての信用度も上がり、もっと重要な仕事を回してもらえるそう。

 そうすればお給金も増えるし、目標の行商人を始めるための資金だって早く貯まる。 

 お仕事をはりきらなくちゃ、そう思っていたある日、その出来事は起こった。


「敵襲! 人間族が攻めてきたぞ!」


「住民たちを避難させろ! 急げ!」


 私の暮らしていた街に突如、人間族国家が攻め込んできた。

 この街は確かに国境の近くではあったけど、国境には切り立った岩山がそびえ立っており簡単に越えることはできない。

 また、国境にある砦が攻め落とされたという噂もない。

 一体どういうことかわからない住人たちはパニックを起こし道路を埋め尽くす。


 私はというと丁度配達人ギルドにいたおかげでパニックからは逃れることができた。

 でも、外は押し寄せた群衆でギルドの門を開けることも出来ない。

 私もギルドの中で外から聞こえる魔法の爆発音や叫び声に震えていた。

 その後、私より上位の配達人が街を出て他の街や国境の砦へと派遣されていったが安否はわからない。

 帰ってくる者はいなかった。


 交戦状態は3日に渡って続き、街は完全に包囲されてしまったらしい。

 食糧もそんなに備蓄されているわけではなく、そちらの心配もされている。

 いまも戦闘音が鳴り響く中、私はギルドマスターの部屋に呼ばれた。

 一体なんの用だろう?


「配達人シエル、到着しました」


 私が扉の前に立ち声をかけると、扉の向こう側から「入れ」と言う短い返事が聞こえた。

 指示に従い室内に入ると難しい顔をしているギルドマスターと衛兵の鎧を着た人、それから豪華な装いの人が中にいた。

 この方たちは誰だろう?


「来たか、シエル」


「はい。あの、この方たちは?」


「ああ、この街の衛兵隊長と代官様だ。それよりもお前に頼みがある」


「はい、なんでしょう」


「これを軍の駐屯地まで届けてほしい」


 ギルドマスターが差し出したのは封蝋の押された手紙だった。

 押された紋章はこの街の紋章である。

 それだけで重要性がわかるというものだ。


「あの、どうして私が?」


「正直な話、いまの私たちではもうその手紙を届ける方法がないからだ」


 ギルドマスターが悔しそうな顔で言う。

 他の人たちを見ると、彼らも悔しいと言わんばかりの顔だ。


「もうすべての門の先に人間族の軍勢が陣を構えてしまった。いまから決死の覚悟で兵を送り出しても陣を抜けることは叶わないだろう」


「つまり、私ならその上を飛んでいけるかもしれないと」


「そうなる。天翼族とはどれくらい高くまで飛べる?」


 どれくらいか……。

 自分で試したことはないけど、お父さんは……。


「この街の街壁より何倍も高く飛ぶことが出来るはずです。私はやったことがないのでどこまで出来るかわかりませんが……」


「いや、それを聞けただけで十分だ。危険な仕事だがこのままではこの街が攻め落とされるのも時間の問題、頼めるな?」


 これって聞いてはきてるけど断れないものだよね。

 この街を占領されたら私もどうなるかわからないし、引き受けるしかない。


「わかりました、引き受けます」


「頼む。いつ出発できる?」


「荷物は持ち歩いているのですぐにでも出発できます。急いだ方がいいですよね?」


「本当ならば夜になるのを待つ方がよいのだろうがそうも言ってられん。すぐに出発してくれ」


「はい」


 私は手紙をカバンにしまい、配達人ギルドの中庭へと出る。

 そこで普段はぴったりと閉じている翼を広げ、魔力を送り込みながらこれからのことを考えた。

 ギルドマスターの言っていた軍の駐屯地までは歩きで2日半かかる。

 だけど、天翼族が全力で飛んでいけば半日で済むはずだ。

 よし、これならいける!


 魔力が翼全体にめぐり体が浮かび上がったことを確認すると、風魔法を使って翼に風を当て一気に空へと舞い上がった。

 普通に舞い上がっては最大高度まで上がる前に攻撃されかねないので、街の範囲内で螺旋を描くようにぐるぐる回りながら天へと向かう。

 そして、十分に舞い上がったら駐屯地のある方角めがけて加速をつけて一気に飛んでいこうとする。

 その瞬間、地上からたくさんのどす黒い矢が殺到し私の全身を貫いた。

 うそ、なんでこんな高度まで魔法が届くの……?

 私はわけがわからないまま痛みで意識を失った。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



 私は気を失う前のことをかいつまんでロック鳥様にお伝えする。

 それを聞き、ロック鳥様は少し考えてからこうおっしゃった。


『なるほど。ヒト族の争いか。私たち幻獣には関わりないことだが、お前を助けた縁もある。少しばかり力を貸そう』


「わん!」


「ありがとうございます! 君もありがとうね。あ、私のカバン!」


 気がついたら私のカバンがない!

 どうしよう、どこかに落としてきたんだろうか。

 お父さんたちの形見でもあるのに……。


『ああ、あれか。案ずるな、あれは少し私たちが借りているだけだ』


「借りているだけ?」


『そうだ。……む、話をしている間に戻ってきたか』


 ロック鳥様が視線を送った方角を私も見ると、真っ暗な森の中からなにかが駆けだしてくるのが見える。

 あれは一体なんだろう?

 ロック鳥様の背中からだとあまりよく見えない。


『戻ったか、麒麟』


『ああ。このカバンの中にあった手紙、我がしかと届けたぞ』


 あ、私のカバン!

 そのカバンの中にあった手紙ってギルドマスターから預かっていた手紙だよね。

 ちゃんと駐屯地まで届けてくれたのだろうか?

 それよりも、鹿のようなあの幻獣様は一体?

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