第13話 9月攻勢

西暦2031(令和13)年9月15日 ダキア王国北部


「全車、前へ」


 指揮官の命令とともに、数十両の装甲車両は横に並び、ディーゼルの鼓動を響かせながら前進を開始する。


 2個即応機動連隊による初動の対応に成功したとはいえ、敵は大規模な機甲部隊を投じてきている。75ミリカノン砲と最大厚70ミリの装甲を持つ中戦車で構成された戦車部隊は、47ミリカノン砲と最大厚40ミリの軽戦車しか持たないダキア王国軍にとって脅威の一言であり、それらを圧倒的に凌駕する性能を持った戦車で撃退する必要があった。


 制空権はすでに航空自衛隊の支配するところとなっているが、それだけでは敵を完全に撃破するには不十分過ぎる。よって陸上戦力で以て決戦を挑み、全ての戦場において圧倒しなければならない。陸自側も此度の戦争で功績を残さねば、来年度の予算で冷遇される可能性もあるだけに、気合が乗っていた。


 斯くして投じられたのは、陸上自衛隊唯一の機甲師団である第7師団。その先陣を切るのは第71戦車連隊を基幹とした戦闘団だった。70両の10式戦車を先頭に立て、その後を十数両の89式装甲戦闘車が続く。遥か後方では第7特科連隊の99式自走りゅう弾砲が雁首並べて長大な砲身を敵に向け、155ミリ榴弾を連続投射している。


 対するアーレンティア帝国軍は悲惨の一言だった。自軍よりも遥か遠くから飛んでくる重砲の一撃で、部隊は混乱状態にある。そしてそこに襲い掛かるは、見るからに自軍のよりも大きく、強力そうな戦車群。これで士気をどう維持しろと言うのか。


「撃て」


 命令一過、120ミリ滑腔砲が火を噴く。敵戦車はいとも容易く鉄くずと化し、十数両がそれに続く。圧倒的な火力を前に、帝国軍は壊走を始める。茂みに潜んで対戦車砲で一糸報いろうとしていた者は、装甲戦闘車に乗っていた普通科隊員に見つかり、アサルトライフルの掃射を浴びる。


「蹴散らせ、蹂躙せよ。我が陸自の実力を、不埒なる侵略者に見せつけるのだ」


 履帯の音が響き、砲声が轟く。敵戦車も応戦とばかりに砲撃を放つも、75ミリ徹甲弾は複合装甲に弾かれ、逆に120ミリ滑腔砲より放たれた装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDSは中戦車の砲塔を抉り取る。


 対する帝国軍の重砲部隊は、15センチ砲弾を複数発放ち、戦車に打撃を与える。履帯が裂け、行動不能に陥る車両が増える中、上空を数機の航空機が舞う。


「敵砲兵陣地、捕捉」


 F-15EJ〈ストライクイーグル〉戦闘爆撃機の編隊は散開し、敵の重砲に向けてLJDAMを投下。空から一方的に叩きのめしていく。殆どの部隊は他の戦線を担当するダキア王国軍の支援に回っており、そちらは誘導爆弾で砲兵を黙らせつつ、供与された対戦車ミサイルによる敵戦車撃破に動いていた。


 対ゾルシア共和国軍の戦線も同様であった。そちらは100ミリライフル砲を装備した第一世代主力戦車を有する機械化歩兵師団であったが、APFSDSを発射する事が出来る105ミリライフル砲と、国産の爆発反応装甲を兼ね備えたCM11『勇虎』主力戦車の前にはやや非力であった。


 韓国より大量輸入したK9自走榴弾砲の支援射撃を受けながら、CM11は敵戦車を機動力で圧倒し、その首を刈り取っていく。砲自体の貫通力ではゾルシアの主力戦車も負けてはいなかったが、乗員の練度や射撃管制システムの技術的格差など、砲身や砲弾の性能だけでは計る事の出来ない差が、命中精度に如実に表れていた。


 斯くして、9月中旬に起きた攻勢により、アーレンティア・ゾルシア連合軍のダキア侵略部隊は壊滅。東方の大国の威信に大きな深手を負わせたのである。

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