大好きなお兄ちゃんと、ハッピー幸せライフ

棺あいこ

大好きなお兄ちゃんと、ハッピー幸せライフ

一、新しい家族ができた

1 妹

「は、初めまして……!」

「…………」


 高二の夏休みが終わる頃、図書館から帰ってきた俺の前に知らない女の子が立っていた。一瞬、家を間違えたのか……? と思ったけど、彼女はなぜか俺のことを知ってるように見えた。


 見た目では同い年の女の子に見えるけど、全然知らない人だったから少し慌てていた。

 この人はなぜ俺に声をかけたんだろう……。

 じっと彼女の方を見ていたら、こっちを見てにっこりと笑う。もしかして、親戚の人かな……? でも、今まで会ったことないし、分からない。


「あの……、高柳たかやなぎいつきさんですよね?」

「えっ? 俺の名前……、知ってたんですか?」

「えっ?」


 今度は彼女が慌てていた。

 そして、スカートの中からメモを取り出す。


「…………」


 何が書いているのかは分からないけど、そのメモをじっと見つめていた彼女が首を傾げる。なんか……、うちに用でもあるのかな。いきなり挨拶をして、俺の名前を呼んだから……、俺もどうしたらいいのかよく分からなかった。


 誰だろう。この女の子は……。


「あ、あの……。私は……! お母さんが昨日このメモを残して……。えっと、今日から高柳さんと私は……きょうだいになります!」

「えっ? きょ、きょうだい……ですか?」

「は、はい! このメモ……」


 そのメモにはうちの住所とお父さんの連絡先、そして「二人とも仲良くしてね」って……知らない人の字が書いていた。

 まじで、きょうだいになるのか……? この女の子と。


「そ、そうですか? あ、あの……ちょっと待ってください! ちょっとだけ……」

「は、はい!!」


 すぐお父さんに電話をかけた。

 ずっと二人で暮らしていたから、寂しくなるお父さんが再婚をするのも無理ではない。しかし……、そんなことをするつもりだったら、息子の俺に一言言ってあげてもいいだろ! 知らない女の子にいきなり「初めまして」って言われた俺の立場も少し考えてくれよ……。お父さん……。


 バカかよ!


「あ〜。いつきか〜。どー? 妹、可愛いだろ?」

「そんなことより、先に言ってくれよ……。びっくりしたじゃねぇか!」

「あはははっ。図書館から帰ってきたら、なぜか目の前に超絶美少女が!って感じで演出してみたけど。どーだ! いつき!」


 頭の中、覗いて見てぇよ。このラブコメオタクが……。


「…………切るぞ」

「ああ……! 待って待って。さっき佐藤さんに急に用事ができて、まつりちゃんに鍵を渡すのをうっかりしたらしい。今日も仕事で帰るのが遅くなりそうだから。まつりちゃんのことよろしく!」

「はいはい。分かりました……」


 名前、まつりだったのか。

 可愛い名前だな。

 てか、さっきからずっとこっちを見てるような気がするけど、女の子とあまり話したことない俺にこの状況は少し苦手だった。


「あの……、高柳いつきです! よろしくお願いします」

「はい! 佐藤、佐藤まつりです! こちらこそ! よろしくお願いします」

「はい。そして、すみません。うちのお父さん、仕事で忙しいから話すのをうっかりしたらしいです。そんな大事なことを……」

「い、いいえ……! か、構いません!」

「すみません……、待たせました。入りましょう」

「はい!」


 ……


 誰が運んだのかは分からないけど……、家の中に引越しの段ボールがたくさん置いていた。それを見て、本当に新しい家族ができたんだと思っていた。お父さんはいつも仕事で忙しかったし、ほとんどの時間を一人で過ごしていた俺に……『家族』という存在は不思議だったと思う。


 この広い家で、ずっと一人だったから。


「あの……! なんか、迷惑をかけたような……」

「いいえ!! あの人が悪いんだから気にしなくてもいいですよ」

「…………は、はい」

「あの……、佐藤さんって高校生……ですよね?」

「はい! あの……高校一年生です! よろしくお願いします!!」


 なんか、ずっと緊張してるように見えるけど。

 もしかして、男が苦手なのか……?


「そんなに緊張しなくてもいいですよ。家族ですよね? 今日から……」

「は、はい! か、家族です!」


 今までずっと一人だった俺に、いきなり妹ができてしまった。

 まだ彼女のこと何も知らないけど、前髪をすごく気にしてて、目が合うとめっちゃ照れる女の子。今はこれくらいかな……? そして、俺よりも緊張している。


「じゃあ、荷物を運びましょう。手伝います」

「…………っ!」

「えっ? どうしました?」

「…………」


 どうしたんだろう。なぜか髪の毛を掴んで、自分の顔を隠す佐藤だった。

 なんか、嫌われてるような……。


「す、すみません……。なんか、俺……佐藤さんに嫌われてますか?」

「い、いいえ……! そんなことじゃなくて!」

「荷物、早く片付けないと……。そろそろ夕飯を食べる時間ですから」

「はい! すみません!」


 そして、段ボールに書いている『まつり』という三文字。

 それを全部佐藤の部屋に運んであげた後、床でしばらく休んでいた。


「あ、ありがとうございます! そして、部屋が……すごく綺麗です!」

「ああ……、普段は使わない部屋ですけど。一応、掃除はちゃんとしてますから」

「は、はい……!」

「そういえば、服って書いてた段ボール多かったですよね? 手伝います」

「あ、あ……。そ、それは大丈夫です!」

「いいんですか?」

「あ、あの……下着とかいろいろありますし……! 高柳さんの前でそれを出すのが恥ずかしいっていうか……」

「あ、すみません……。じゃあ、何かあったら呼んでください」

「はい……!」


 佐藤の部屋を出て、ため息をついた。

 なぜか、緊張している自分に気づく。


 そういえば、俺……女の子とあんな風に話したことないかも。

 少しは成長したのかな。でも、佐藤は妹だから……、それとこれと別に関係ないと思う。


 それでも、少しずつ頑張るしかないよな……。


 ……


「うっ♡!! はあ……、はあ…………♡」


 いつきが部屋を出た後、ベッドに顔を埋めてぎゅっと布団を掴むまつりだった。


「お兄ちゃん…………♡ 私のお兄ちゃん…………。今日から、一つ屋根の下で……♡」

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