応援上映へGO!

「“劇場版魔法少女〜仁義じんぎなきたたかいい〜”観にいきたい〜!」


 遊びにきたトバリちゃんがそう言った。


 ボクはスマホを取り出して、上映館と上映日時をチェックする。


「うん、席も空いてるみたいだし、いいんじゃないかな? ヒカリちゃんはどう?」

「ええ、トバリが観たいなら、OKですよ。ふふっ、“仁義なき闘い”シリーズ、まだ続いてたんですね」


 ヒカリちゃんは懐かしむような顔をしている。


「ヒカリちゃんも子供の頃、観てたの?」

「はい、子供の頃は毎週、楽しみにしていたのものです。確か“広島抗争編”までは観ていた記憶がありますね……」

「ほんとに魔法少女モノなんだよね……?」

「はい、3話のラストでイエローのアネさんがチャカで撃たれて亡くなった時には、みな衝撃をを受けたモノです……」

「それ本当に女児向けアニメなの!?」






 映画館には親子連れのお客さんがたくさんいた。


「映画たのしみ〜♪」


 トバリちゃんの右手をボクが、左手をヒカリちゃんが繋いでいる。


《ねぇ、ねぇ、アレ親子かな?》

《うーん、若すぎる気もするけど、確かに女の子の顔はそっくりだね》


 周りのお客さんの声が聞こえた。


「ふふっ、私達、親子連れに見えるんですかね?」

「はは、もしかしたらそうかもね」

「パパとママってよんであげよーか?」

「は、恥ずかしいからやめて〜」

「はーい、パパ♡」


 ぶっとボクは吹き出した。


「こーら! トバリ、パパをからかっちゃダメですよ?」

「ヒ、ヒカリちゃんまで〜!」

「くすくす」

「きゃっきゃっ!」


 2人にからかわれて、ボクの顔はちょっぴり赤くなる。


 からかわれっぱなしはしゃくなので、少し反撃させてもらおう。


「ママは今日も綺麗だね〜」

「うん! ママキレー!」

「マ、ママ///!?」


 ヒカリちゃんの顔がボンっと赤くなる。


 ボクとトバリちゃんは顔を見合わせて、クスクスと笑い合う。


「い、言われてみると、案外恥ずかしいですね///」

「ママ、顔真っ赤だよ?」

「ママ、顔まっかー!」

「もう、勘弁して下さいよぉ……///」



 


「あっ、アレほしいー!」


 トバリちゃんが指差したのは、魔法少女ステッキだった。


 アレを使って、上映中に応援パワーを送る事もできるとか、ネットに書いてあったな。


「じゃあ、ボクが買ってきてあげるよ!」

「わーい!」

「ナギサ君、私が買いますよ?」

「ううん、ヒカリちゃんはここでトバリちゃんと待ってて」


 そしてボクはグッズを購入して、トバリちゃんに渡す。ちなみにファンの間ではグッズに金を払う事を“上納金”と言うらしい。


「はい、“チャカステッキ”だよ〜」

「わーい! おにーちゃん、ありがとー!」


 トバリちゃんは嬉しそうに、はしゃいでいる。


「ナギサ君、すみませんね……」

「それと、はい……!」


 ボクはヒカリちゃんにもグッズを渡す。


「これは……」

「うん、“ポンとうステッキ”。これでヒカリちゃんも、魔法少女を応援できるよ」

「わ、私も応援してもいいんですかね?」

「もちろん、ヒカリちゃんだって、ファンだったんだからね。たまには童心に帰ってもいいんじゃないかな?」

「ふふっ、それでは頂きます。ありがとう、ナギサ君」


 ポン刀を持ったヒカリちゃんは、少し照れ臭そうに、でもやっぱり嬉しそうに微笑んだ。


「映画館のショバ代も払って、チケット貰ったし、そろそろ入場しよっか!」

「わっくわっく!」

「楽しみですねー!」





 上映がいよいよ始まった。


『……ふぅ、やっぱりシャバの空気は美味いわね』

『ブラックのアネさん、お勤めご苦労様です』


 シャバの空気がうまいから始まる魔法少女モノなんてある!?


 そして、最初は本編ストーリーのおさらいが始まった。


『どうじゃあ、ウチの組に入って、ひと暴れしてみんか?』


 広島弁の眼帯を付けたマスコットキャラクター“スジモン”がブラックに魔法少女の契約を持ちかける。


「スジモンかわいー!」

 

 いや、なんか超怖いんですけど!?


────『こうして、廃工場で怪しげな取引現場を見かけた私は、気がつけばスカウトされ、魔法少女になっていたの』


 少女の回想は終わり、ブラックはどこかへ向かう。


『……久しぶりね』

『ああん!? ブラックか!? 今更、ウチのシマに何しにきやがったんじゃあ!?」

『……アナタがあくどい商売に手を染めたって聞いてね。カタギに迷惑をかけるなんて、魔法少女としての矜持きょうじを忘れたの? 恥を知りなさい』

『黙って聞いてりゃぁ、偉そうな事言うのぉ!』

『……消えなさい』


 いきなりブラックは魔法で生み出したロケットランチャーを構えた。


 ええええ!? 武器、ロケットランチャーなの!?


《みんな、シノギパワーを送って!》


 シノギパワーって、何か嫌なエネルギーだな……。


「ブラック、がんばえー!」

「ブラック、ぶっぱして下さーい!」


 ヒカリちゃんとトバリちゃんがノリノリで応援している。


 力を溜めたブラックは、見事にロケットランチャーを発射し、派手な爆発を引き起こす。


『ぎゃあああああああああ!』

『……反省するのね』





「魔法少女の内ゲバ、たのしかったー!」

「やはり魔法少女は内部抗争に限りますね!」

「これ本当に幼児向けなの……?」


 仲間であるはずの魔法少女同士で、血で血を洗う、まさに仁義なき闘いでした……。


 



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