第2話 振られたことは一瞬で広まってました


 渚と別れた次の日、俺がいつものように学校へと登校すると教室に入るなり、何人かのクラスメイトが俺をチラチラと見てはなにかを呟いていた。

 基本的に、俺は目立つタイプではないし今までこんなことはなかった。...そんな俺がこうも見られているということは、昨日のことが広まっているのだろう。それしか心当たりがない。

 あの時は全く気がつかなかったがあの場を誰かに見られていた可能性が高いな。...胃が痛い。


「おーい、楓! おはよう。それでお前、十六夜さんに振られたってマジか!?」

「...おはよう、涼太。今日はスーパーサイ◯人みたいな髪型だな」


 俺がそんなことを考え憂鬱な気分に浸っていると、毎日ランダムな寝癖がトレンドマークの友人、酒井 涼太りょうたが俺の席へと詰め寄ってきた。...朝だってのに元気な奴だ。


「そ、そんなことどうでもいいんだよ! そんなことより実際、どうなんだよ! というか、俺お前と十六夜さんが付き合ってたこと知らないんだけど!?」

「そりゃ、なぎ...向こうが大勢の人に知られるのは嫌だって言ってたからな」

「付き合ってたのはマジなのかよっ。というか、それなら俺にだけは言ってくれればよくね? 友達だろ、俺たち」


 少しショックを受けたようにそんな声を上げる涼太。周りではクラスメイトも驚きの声を上げていた。いや、まぁそりゃそうか。俺みたいなのが渚と付き合ってるなんて想像もつかないだろうし。


「いや、お前に言ったら一瞬で広まりそうだし」


 だが、しかし俺は俺でキチンとした理由があるのでしっかりと答える。いや、ワザと漏らすとかはないのは分かってるんだけど、こいつどこかでウッカリ漏らしそうな気配しかないんだよなぁ。いや、いい奴なんだけどな?


「そんな、俺の口はダイヤモンドより硬いっていうのに」

「いや、物理的な話されてもな..というか、そもそも嘘だろ、それ」

「ま、まぁ、良くないけどそれはいいとして。それでどうなんだよ、付き合ってたのは分かったけど振られたのか?」

「...あぁ、そうだ」


 心配そうに俺を覗き込みながらそう尋ねてくる涼太に対し、俺は素直にそう答えることにする。その瞬間、クラスメイトはまた様々な声を上げていた。

 まぁ、どうせここで俺が隠したところで誰か渚に聞きに行けばバレることなのだ。

 正直、この振られたことに対する同情と付き合っていたことへの嫉妬の2つの視線の集まりは中々に胃にくるが耐え切る他ないだろう。


「そうか...なんか、ごめんな。無神経なこと聞いて」

「いや、涼太は俺のことを心配して聞いてくれたんだろ? 別に気にすることじゃない。というか、涼太に諸々のこと伝えてなかったの俺だしな」


 俺の答えを聞くと子犬が飼い主に叱られたかのようにしょげた顔をして謝ってくる涼太だが、涼太の性格について知っている俺は特に怒ることはせずそう告げる。

 こいつの場合本当にただの百パーセント善意で聞いてきただけだからな。


「ま、まぁ、お前ならまたいい子がすぐ見つかるよ」

「...そうかな?」


 涼太は少しでも俺を励まそうとしてくるが、正直見当もつかない俺は首をかしげる。


「そうだぞ。お前って色々と天然なとこあるしな。お前のこと好きだって奴だっているのに気づいてないだろ? 例えば...」

「例えば?」


 そこまで言いかけたところで涼太はハッとした顔をすると固まってしまう。


「と、とにかく、今は辛いかもだけど前向こうぜ! な!? それでも辛かったらいくらでも俺が話聞いてやるからさ」


 俺の肩を必死にポンポンと叩きそんなことを言う涼太。本当にいい奴だ。でも、ここまで子犬っぽい対応をされると少し遊びたくなるのが人ってなもので、


「...つまり、いないのな」

「いるいる、絶対にいるって!」


 俺はついついそんなことを口にする。すると、予想通り涼太は必死に励ましてくれた。


「ちょっとした冗談だよ、ありがとう。...ちょっと気分晴れたわ」

「おぉっ! そうか、それは良かった。ところで今日数学小テストだけどちゃんと勉強してきたか?」

「...悪い、なんか俺やっぱり今日だめみたいだわ。気分が晴れない。帰る」

「さっきと言ってることがまるで違う!? 流石にその理由での帰宅は許さねぇよ?」

「あー、これ涼太のせいかもな〜」

「なんで挙句の果てに俺のせいにしてんの? 普通にこれに限っては小テストの存在忘れて学校来たお前が悪いからな?」

「冗談だよ、ちゃんとやってきてある」

「俺でっっ、遊ぶなーーーー!!!」


 いつものように、いやいつもよりも気合いのこもった全力のツッコミを披露する涼太。

 今日は学校に来るのが本当に憂鬱で仕方なかったけど、案外俺は大丈夫なのかもしれない。

 大声を出しすぎたのかハァハァと全身で息をする涼太を眺めながら俺はそんなことを考えるのだった。


 *


「本当になんかあったら言えよ。いつでも相談乗ってやるから。いいか、どんな小さな事でもいいんだぞ。とりあえず、1人で抱え込むのだけはやめろよ」

「お前はカウンセラーさんかよ。本当に大丈夫だよ、自分でもびっくりするくらいには」


 クラスからだけではなく他クラスや他学年の生徒からも散々視線を浴び続けた今日。授業を終えた俺が視線から逃げるようにと素早く準備を終え、教室から出ると後ろから涼太のそんな声が聞こえてきたのでそう答える。

 どこまで心配性な奴だ。


「そっか、じゃあなー」

「...じゃあな」


 俺は涼太とそんな挨拶を交わすといそいそと学校から出るのだった。



 *



「君、今1人なの? お兄さん達が相手してあげよっか?」

「いえ、私は...」


 学校から出て少しすると目の前に2人の大学生くらいだと思われる男と、1人のウチの学校の制服を着ている女子生徒の姿を見つけた。

 どうやら、男達が誘っているみたいだが女子生徒は嫌がっているようだ。いわゆる、ナンパってやつだろう。 これは助けた方がいいのだろうか?


「というか、あの女子生徒...渚じゃないか?」


 俺がそんなことを考えながら念の為コソコソと3人に近づいていく途中、俺はその女子生徒が元カノである渚だと言うことに気がつくのだった。

 なんで、俺は振られた元カノがナンパされる場面に出くわしているのだろう。いや、本当に。


 どんな偶然だよ、これ。




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 次回「元カノを助けた」



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