第9話 終わったら?

 心地よい気温で、雲が一切ない晴天の下を二人揃って歩いていた。


 どうやら、神様は起きるのが早いらしく、リビングでスマホを見て寛いでいたという。まるで帰りのホテルのラウンジみたく優雅に。スマホですることなど無いと思うから、オレがいない時はNPCモードに入ってるんだと思う。


『乙女の秘密バレちゃったか〜』


 興味ないから、まぁ、スルーして。


 いつもの通学路にも関わらず、オレは普段とは違う光景に包まれていた。


 勿論、横にいる美少女が神々しすぎるからに他ならい。女子が嫉妬を抱きそうなものかと思っていたが、ここまで別次元のビジュアルだとそうならないのか、妬む目などは一切感じない。

 むしろ、オレに対する怒りパワーを一身に浴びていた。


「はぁ〜」ため息をストレスからか吐いてしまう。


 それにしてもと思う。


 オレの横にいる神様がこの物語を作っていると言うのならば、物語がある程度纏まりを持つ所まで行けば筆を進めるはずだ。


 では、その時、オレの横には神様はいるのだろうか?


 作者としてオレ達の世界に降りていたとしても結局は、別の世界が本当の世界なのならば、この物語が完結する時___________


『はーい、ストップぅー』


 横を見れば、三日月型の口元をして頭を軽く横に振る神様がいた。


 ソレは人間が踏み込んでは行けない神の領域に一歩入ったからに違いない。その先を考えようとするとゾッとする。

 地球から飛び出して何もない宇宙へ飛び出したように世界から隔絶されたような感覚が襲い、無重力状態みたく竦然しょうぜんしてしまう。


『人間が『死』を考えるのと同じ事だよ。ソレに囚われると時間を棒に振るだけ。答えのない終着点を探しては行けないよ。ソレは、カント以降の禁忌だよ』


 いつものアホそうな話し方ではなく、淡々と話してくるので、本当に触れてはいけないようだ。


 陽光が登りふんわりと気温が上がるのを肌で感じた。

 視界の淵でサクラの花びらがひらひらと舞い降りてきて思考がスローになっていく。


 別に、儚いなんて詩的に思ったわけではない。

 ただ、まぁ、そんなもんだよなって思った。


 地面に着地した花びら達が肩を寄せ合ってピンク色の横断幕を作っており、綺麗で目を引く。


 その近くいた小汚いカエルがぴょんぴょんと呑気に跳ねていた。




 照明が手元を明るくさせ、教科書が光の反射により白みを帯びた。賑やかなクラスメイトは授業中ということもあり、真面目に授業を受けている。横を見れば呆然と前を向く美少女。照らされた手元は一切動かない。


 まるで、ロボットのように静止している。瞬きは、一五秒に一回の間隔だった。


 誰もその事には気づかない。生きていると言って良いものなのか。


 授業のチャイムが鳴れば、生徒達と同じく動き出す。次が体育の授業のため更衣室へ神様は向かう。神様の周りに暁さんと西園寺さんが集まっていた。


 オレは、女子が居なくなり次第、ズボンを下げて体操服へと着替えていく。

 男子に更衣室という概念が無いのが癪に障るけど。


 男子共は次のバスケではしゃいでいた。その中核を成す生徒達がコッチへ寄ってくる。


「おーい、明智っ。いくぞ〜」坂本が当たり前のようにオレへ声をかけてくる。今朝も挨拶をされては、軽く返していた。


「あぁ……うん」制服を机の上へ置いて、坂本と二階堂の後を追う。

 こういうフランクな男ってやっぱカッコイイと思ってしまう。


 人によっては、厚かましい委員長。チャラい自分勝手なリア充。なんて思うだろう。


 だけど、知っている。


 人に声をかけるという勇気や怖さが誰にだってあるって真理に。

 だからこそ、自分から声をかける人をオレは敬意を持つつも、もうその立ち回りはしたく無いと思ってしまう。

 自分の時間を費やしてまで、他人に手を差し伸べるのは。




「明智君、入部届の件だけど」

「そうだった。出さないとな」自分が文芸部に入る事を忘れてしまっていた。

「放課後、若桜先生に時間を作ってもらったから、職員室にいると思うよ」

「わざわざすまん、二階堂」


 オレ達は体育館を向かいながら歩く。坂本はオレらより少し前へ行き、きもち足取りが弾んでいる。


 バスケ部を辞めてバスケの授業となると楽しみでしょうがないのだろう。そこから察するにバスケが出来ないや嫌いになって辞めた類ではなさそうだ。


「明智君ってバスケ得意?」二階堂が気を遣ってか話題を振る。

「……そうだな〜、バレーや柔道、短距離に比べれば得意かな」

「マジかっ! 明智っ」

 オレの声が届いていたようで振り向くなりこちらへ寄ってくる。目がキラキラしており、『バスケ得意』という言葉が琴線に触れたようだ。


「まっ、まぁシュートがちょっとな」落ち着けという意味を込めて発すると嬉しそうにオレの右肩を抱きながら『スラダンで好きなの誰っ?』と聞いてくる始末。


 オレはソッと二階堂を見る。二階堂はニヒルな笑みを浮かべていた。

 誰もが通る道と言わんばかりの経験者の顔だった。


 それを敢えてさせる二階堂……意外にSっ気が強いか?

 オレは、二階堂という人物が分からなくなってしまった。

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