空中転生

硬い牛肉

プロローグ 報復

プロローグ 報復

 俺はしがない高校生。まあ、学校ではそこそこ楽しい生活を送らせてもらってる。

 ……いや。もらっ『てた』が正しいか。


 俺は現在、いじめを受けている。かなり過度ないじめだ。


 朝登校すると、まず門の前で水をかけられる。

 待ち伏せしていたチンピラが、バケツで俺目掛けて思いっきり。

 最悪だ。下着までびしょ濡れだ。


 こんなこともあろうかと、普通なら毎日使うはずがない体操着を常備している。

 そう。普通なら、使わない。

 俺は普通では無い。周りの人間からすれば、異端者だ。


 体操着に着替え、玄関に着き、自分のロッカーを開ける。

 上履きの代わりに、大量の菓子袋が詰められている。


 なんだ。差し入れをしてくれたのか。と思い手を伸ばし、それに触れる。


 ……当然、中身は空っぽだ。


 冷たい床を、靴下のみでとぼとぼ歩き、行きたくもない教室へと向かう。


 俺の教室は3階だ。

 なるべく人とすれ違いたくないし、遅めに入って皆の注目を浴びたくないから、人の多い8時半頃は避け、7時半頃来るように心掛けている。

 最近それに気づいたのか、あのチンピラ共は早めから待ち伏せしてやがる。


 ガキは寝てろってんだ。って、俺もまだガキか。


 誰とも会わずに教室へ入ることに成功。もう、これではまるでミッショ○インポッシブルをしている気分だ。


 早めに着いても特にやることはないので、一限の予習でもすることにする。


 いや、昨日は課題を学校に忘れていたから、先にそれを済ませよう。


 自分の机には、いつも通り『クズ』だの『死ね』だの、この世の全ての罵詈雑言がここに集結したのかというレベルで落書きされている。

 まずはこれを消すところから、俺の学校生活は始まる。


 いつもこれを消しているせいで、8時半前後になるのだ。

 それで結局、皆から注目を浴びることになる。


 最近のいじめっ子は賢くやるなぁ。と感心する。


 流石に課題はやりたいので、今日は急ぎめで落書きを消す。すると、15分ほどで終わった。


 しかし、タイミングの悪いことに、あのチンピラ共が上がってきやがった。まあ気にせずやるか。


「あれぇ?これはこれは××じゃねえのぉ」


「ああ。おはよう」


「……チッ。その態度が気に食わねえんだよ!」


 鈍い音が教室に響き、頬に痛みが走る。赤い液体が床に飛び散る。


 何故だ。俺は挨拶されたから、挨拶を返しただけでしょうに。理不尽な奴らだなぁ。


 すると、俺を殴ってきたチンピラの1人が、倒れた俺に馬乗りになってくる。


「気に入らねぇんだよ!お前のその!ヘラヘラした態度!気持ち悪い!顔!しやがって!」


 痛い。痛い。痛みが連続して両頬に走る。

 ヘラヘラした態度と捉えられたのは申し訳ないが、悪いが気持ち悪い顔は生まれつきなんだわ。


 まあここで抵抗したら俺も同じ。されるがままに、殴られ続ける。


 痛い。痛い。そろそろやめて頂けないだろうか。


 やめてくれない。もう2、3分は殴られ続けてるぞ。意識保ててんのが不思議なぐらいだわ。


 ーーーもう、いいよな。


「痛えんだよぉ!」


 自分でも信じられないほどの声を出して、信じられないような力で、チンピラの顔を思いっきりぶん殴ってやった。


 はん。ざまあねえな。まあ1発で許してやるか。


「おい!お前ら!何してんだ!」


 ……これまた嫌なタイミングで先生が来たな。

 まあいい。これまでされてきたことを全てぶちまけてやろう。




 ーーー


 放課後、俺たちは生徒指導室に呼び出された。


「それで、何があったんだ」


 担任の低い声が、俺の脳内に響く。


「お、俺はーーー」


「ーーー俺がやりました」


 ほう。割と正直に打ち明けてくれた。俺の一撃で目が覚めたか。


 その後、どういう経緯でそうなったのか、近くにいたチンピラの1人が順を追って説明した。


 先生は相槌も入れず、ただ頷きながら聞いていた。


「……以上です」


 長い説明に終止符を打ち、先生が口を開く。


「いきなり殴りかかったお前も悪いし、殴り返したお前も悪い。

 如何なる理由があろうと、手を出してしまうとどちらも加害者になってしまう。以後、気をつけるように」


「……はい」


 そうして、生徒指導が終わった。


 俺はチンピラ共と別れ、これから家に帰るところだ。


 確かに、殴り返してしまった俺にも非はある。だが、この結果はあまりにも俺が不憫でならん。


 まあ、分かってくれたならそれでーーー


「調子乗ってんじゃねえぞ!」


 後ろから突然殴りかかられた。


 ………はあ。これだから殴るしか能のない猿は嫌いなんだよ。


 さっき先生に言われたんだ。殴り返したら俺も加害者だって。


 だから、俺は殴り返さない。また朝みたいに馬乗りになって、今度は複数人で殴ったり蹴ったりしてくる。

 だが、俺は殴り返さない。加害者になりたくないからな。


 痛い。痛い。今朝の時は1人だったが、今回は数が多い。多勢に無勢、というやつか。ああ。意識が遠のいていく。


 もうなんかめんどくせえな。何もしたくない。いっそこんまま殺してくれねえかな。

 そしたらもう、いじめを受けることもない。こいつらは間違いなく退学だ。ざまぁみろ。


 だが、本当にこれでいいのだろうか。


 こんな最期でいいのだろうか。


 DTのまま死んでしまうのは嫌だな。


 うーむ。まだやり残したことは山ほどあるな。


 ーーー例えば、こいつらに一泡吹かせてやるとかな。


「うるるるるらぁ!」


「グボェ!」


 俺の後ろで頭や首を蹴っているチンピラを撃破。


「黙って聞いてりゃ!」


 その右で俺を蹴っているチンピラを転ばせ、かかと落としをお見舞い。


「調子乗ってんのは!」


 左で同じく俺を蹴っているチンピラも、蹴り飛ばしてやった。


「てめぇらの方だろうが!」


 俺に馬乗りになっているチンピラの顔面に、今朝のパンチの何百倍も力を込めて、殴り飛ばした。


 4対1だ。4対1の喧嘩に、俺は完全勝利したのだ。


 しばらく目覚めることはないだろう。もういい。俺はもう、こいつらには関わらん。


 勝ち逃げしてやろう。


 しかし、何で俺はこんなに強いのにいじめられていたのだろうか。本当なら、学校のトップに君臨していてもおかしくなさそうだが。


 そんなことを考えつつ、家に帰る。


「ただいま」


 と言っても、まあ返事はない。なにせ、父は仕事、母は夜勤で今は寝てる。


 人を殴るって、痛えんだな。もう二度とごめんだ。


 手がかなり痛い。漫画やドラマで見るヤンキーは凄いな。


 今日はなんか疲れたな。何も食う気が起きん。


「……寝るか」


 おやすみ、世界。

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