第6話 魔王、授業中

 元魔王と言ってもこの世界ではただの凡庸な人間だ。


「はぁぁぁぁぁぁ」


 オレは大きな大きなため息をつく。

 クソだるい。わけがわからん呪文を聞いてる気分になる授業を眺めながら、ノートに黒板の内容を書き写す。さっさとこのノートに書き写す作業を情報端末に入力オンリーにしてくれればいいのに。そう思いつつ、シャーペンを走らせる。

 今日も彼女、真由は可愛い。授業で黒板見てるより彼女をずっと見ていたい。ただそうすると――。


「――いでっっ!!」


 何処からともなく衝撃が飛んでくる。そしてそれはばっちりとオレの眉間に当たり消える。


「大間! 何を騒いどるんだ。また寝ぼけて机で頭でも打ったか?」

「……はい。すみません」


 オレは教科書を立てて防御の体勢をとる。

 消えるから証拠もない。いったい何が起こってるんだ?

 まさか、勇者が嫉妬して光の剣でオレに攻撃を!?

 キョロキョロと周りをうかがうがオレを見てるのはクスクスと笑う女達とケタケタ笑う男達の顔だけだった。


(どこのどいつだ。見つけたらただじゃおかねー! 地獄の業火で炙ってやる)


 まあ、魔法は使えないんだけどな。この体には魔法を使う才がなかった。だから、異世界からついてきてくれた使い魔達がまたオレと一緒にいてくれるようになって嬉しかった。前のような威厳も力も何もないオレなのに。

 そういえば、使い魔達はオレのような体は持っていなかった。あと何でこいつらまでこの世界にいるんだろう?

 もしかして、それほどまでにオレと離れたくなかったのか!?

 なぜか呼んでもいないのに使い魔の奴らが首をふりふりする姿が見えたような気がした。

 そうか、そうか。オレと一緒にいたかったのか。

 また、使い魔達が首をふりふりしていた気がした。前後ではなく左右だったのはたぶん気のせいだろう。


(ずっとくっついていたいか――)


 いつも一緒にいたのは使い魔だけじゃなかったな。右腕の側近、妹のトワイライト。左腕の側近、ミッドナイト。二人はどうしているのだろう。


「たっくん」


 ミッドナイト、そうそうこんな感じで、馴れ馴れしくオレの事「ダー君」とか呼んでたよなぁ。


「たーっくん!!」

「うぉ!? なんだ」


 どうやら授業は終わっていたようだ。背中にどすんと乗られ首をしめられそうになる。


「おい、やめろ、夜!」

「ん? 何をかな? たっくん」


 一人でいるオレにことあるごとにくっついてくるコイツ。まるでミッドナイトのように馴れ馴れしくしてくるコイツは深井夜ふかいよる。小六の時にお向かいさんのマンションに越してきた同い年の男だ。

 つまり、コイツも幼なじみ。前髪をやたら伸ばし目が半分隠れている。目隠れ属性までミッドナイトと同じなせいでコイツといるとミッドナイトの事をやたらと思い出してしまう。


「たっくん、ボクとお昼ごはん行こう。たっくんの分のお弁当早起きして作ってきたから」


 何が悲しくて男の手作り弁当をもらって食べなきゃならんのだ。そんな事したら危ない関係だという噂が一瞬で広まるわ!!

 夜は器用だ。だからきっとこの弁当も美味いのは間違い無いだろう。男だが繊細で、そこらの女なら敵わないくらいの可愛さも兼ね揃えている。女であれば、モテモテのスーパー勝ち組タイム突入モードだっただろう。

 まあ、そのせいで引っ越し当時女の子のやっかみに巻き込まれていじめられそうになっていたが……。

 オレ、真由、永遠の幼なじみ組でその時助けに入ったのは懐かしい思い出だ。それ以来、夜とも仲良くなり、今は真由と疎遠になったから幼なじみの友人といえばコイツだけになったな。


「一緒に食べるのは別にいいぞ。ただ手作り弁当は――」

「ホント!?」


 遠慮したいと言い出せなくなるほどいい笑顔を浮かべられる。

 ここで断ればたぶんびっくりするほど落ち込むんだろうな。そう感じて、オレは真由の目に入らない場所に移動だけお願いした。

 ちらちらとうかがういくつかの視線がオレ達に刺さったのはたぶん気のせいだろう。


 夜の手作り弁当は、普通にめちゃくちゃ美味かった。

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