第4話 決闘成立

「ブルート・ターディグレイド」


「……」


「ブルート・ターディグレイドは……キミだろ。名前を呼ばれたら返事をするように」



 教室内では担任による出欠確認が行われていた。しかし、自分の名前が呼ばれていてもブルートはそれを無視シカトしていた。


「先公よォ。オレ様が居るかどうかは見りゃわかんだろうが? 次からはテメーが勝手に確認しとけヤ」



 そう言って年配の頭がごま塩風味の、よれた背広を着た男の担任にガンを飛ばすブルート。


 担任はその圧を受けてたじろぐと、「しゅ、出欠確認はアカデミーのルールなのだよ」と絞り出すのが精一杯だった。


 入学式当日は午前中に入学式、その後はクラスごとに担任によるアカデミーの説明。

 その後は特に授業もなく、昼には終了となる予定であった。



「では、私からの説明は以上だ。明日は新入生オリエンテーションがあるから、授業の準備は不要。だが、遅刻はしないように」



 おそらくブルートの威圧の影響もあったのだろう。時間を余してJ組は解散となった。



「終わったね。じゃあ帰ろう。ボクお腹空いたよ」


「お前は相変わらずメシにはどん欲だよな」



 クロベエはギルを急かすとふわりと浮いてその肩に乗る。

 そのままギルが教室の後ろのドアを開けて廊下に出ようとした瞬間、足を引っ掛けられ、バランスを崩しよろめいた。



「んだヨ、つまんねー野郎だな。テメーはコケて泣いてろっての」


 声の方を向くと、ギルが朝に締め上げた輩二人を両脇に連れてブルートが立っていた。



「間違いねぇ。ブルートくん、コイツっスよ!」

「速攻でシメちまってくださいよ! ブルートくんならこんなヤツ楽勝っスよ」



 中央にはテカテカのリーゼントのオーク。

 両脇には顔をボコボコに腫らしたモヒカンと逆モヒカン。

 その立ち姿を見たギルは思わず吹き出した。



「ププゥ……お、お前らって何かクソダセーな。ぎゃははは!」

「にゃはははは! ダッセー!」


 クロベエも一緒になって爆笑。

 なぜ笑われているのかわからず、ブルートは怒りに震えている。


 

「おうゴラ! テメーはもう許さねぇ。今から決闘デュエルだ! ぜってぇぶっ殺してやる!」



決闘デュエル〉とは、レイアガーデン独自の校則の一つで、互いの褒章エンブレムを賭けての決闘することを指す。


 レイアガーデンは卒業時にどれだけ多くのエンブレムを獲得したかで成績が決まるため、試験、体育祭や球技際、学園祭などの学内イベントにもエンブレムの獲得機会が設けられている。


 しかし、生徒同士が承認すれば成立する決闘デュエルはいわば無限にエンブレムの獲得機会が訪れるため、決闘デュエル最強=成績トップに最も近いことはレイアガーデンの生徒であれば誰もが知る共通認識であった。


 学園長自ら入学式の祝辞で述べていた通り、レイアガーデンは決闘デュエルの名のもとに学内での喧嘩バトルを容認している全国でも数少ないアカデミーなのである。



 ブルートからの突然の決闘デュエル申し込み。

 ギルは肩に乗るクロベエに尋ねた。



「なぁ、入学時ってどれくらいの褒章エンブレムを持ってるんだっけ?」


「えっと、確かキミは1つじゃなかったかな」


「じゃあ、最大1つしかもらえないってことか。コスパ悪いじゃん」


「だね、じゃあ無視してとっととご飯にいこー」


 そう言って二人(一匹は猫だが)は、ブルートを無視して正面玄関に向かってスタスタと歩いて行く。



「おいおい、待て待て! テメェまさか逃げんのか?」


 後ろからブルートが踵を潰した上履きでペタペタと足音を鳴らして追いかけてくる。


 ギルは無視して歩き続けるが、痺れを切らしたブルートがギルの正面に回り込んだ。



「おいコラ! 人の話を聞きやがれ!」


「……ウゼェなぁ。何なのオマエ。てか誰だよ?」


「テメェ……今まで何度か名乗ってんじゃねぇか。……ふん、まぁいい。聞いてビビり散らかせこのヘタレ野郎! オレの名前はブルート・ターディグレイド。東の国から来た史上最強のヤンキーとはオレのことヨ」


 ブルートは格好をつけて親指で自分をビシィと指さし、「決まった」と目をつぶり余韻に浸る。


 しかし、しばらくしても何の反応もなかったので目を開けると、遥か前方に歩いているギルたちの姿を視界に映す。



「あー、腹減ったぜ。クロベエは何食べたい?」

「ボクはお肉!」

「お前、猫のくせに相変わらず魚よりも肉派だよなー」


「普通にシカトッ!?」


 ブルートは猛ダッシュで再びギルの前に両手を広げて立ちふさがる。



「ハァハァ……待て待て待て。つかオメー、そういやさっきエンブレムが1つとかほざいてたな。てことは、テメーはもしかして学年最下位か?」


「ぎゃはははは! んだヨ、コイツただのクソ雑魚じゃねーか」


「ぎゃはははは!」


 ブルートだけでなく、後からついてきたモヒカンと逆モヒカンも爆笑している。

 意味が分からないギルは再びクロベエに尋ねる。



「なぁ、どうなってんだクロベエ? お前さっき、入学時にはエンブレム1つだって言ってたじゃん」


 ギルの言葉にペロリと舌を出して、悪びれる様子もないクロベエ。



「だって、早くご飯食べに行きたかったんだもん。もう、バレちゃったらしょうがないなぁ。


 レイアガーデンは入学時の成績によってエンブレムの所持数が異なるんだよ。


 ギルは学年最下位だからエンブレム1つ。それから成績順に1つずつエンブレムは増えていくから、学年トップは401個のエンブレムを持っているってことになるね」



「はぁああああ、マジで? 入学時からいきなりそんなハンデつけられてんのかよ?」


 二人のやり取りを見て、ブルートと二人の輩はまだ笑っていた。

 ギルは「はぁ」と一つため息をつくと、ブルートに言う。



「なぁ、お前ってエンブレムいくつ持ってんの?」


「あ? オレか? オリャー、入学ランキング199位/400人。エンブレムは202個持ってるぜ」


「……ほほぉ」


 ブルートの発言に俄然興味を抱くギル。

 肩に乗ったクロベエに小声で語り掛けた。



「なぁなぁ、クロベエ。これってめちゃくちゃ美味しくね?」


「だね。とっとと終わらせてご飯にいこー」

 

 話はまとまった。



「おい、お前。えっーと、ブタ。いいぜ、決闘デュエル受けてやるよ」


 ギルの頭の中では、エンブレム202個が星空の如く、キラキラと輝いていた。




>>次回は「決闘〈デュエル〉」と言うお話です!

――――――――――――

【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ


今回はこのお話の重要要素である決闘デュエルについて説明するね


・デュエルは原則、校内にいればいつどこでも始めていいみたい(校内には特殊結界が張られているので、魔法でデュエルが自動で管理されている)

・ただし、デュエルには必ず立ち合いが必要

・一方で、デュエルではなく単なる喧嘩もレイアガーデンでは容認しているけど、戦意の無いものに対する一方的な暴力(いじめ)はバレたらエンブレムはく奪や場合によっては退学などの厳しいペナルティが課せられるみたい

・ちなみに、ただの喧嘩はもちろんエンブレムの移動は発生しないので、1対1の場合はほとんどの生徒がデュエルを選択する(戦うメリットが薄いと言う理由)って言われているよ

・デュエルは1対1が基本なんだけど、両者が合意すれば1対複数や複数対複数でも成立するよ

・この辺のルールの隙間をついて悪いことをする輩も今後出てきそうだね


――――――――――――

★作者(月本)の心の叫び


第四話までお読みいただき本当にありがとうございます!

本日の配信はここまでとなります。


明日からも毎日投稿を予定していますので、続きが気になると言う方は、ぜひフォローをしてお待ちいただけたら嬉しく思います(*^-^*)


このお話はまだまだ続いていきますが、先行投資のお星さまは大歓迎なのです(,,>᎑<,,)

(評価次第でモチベーションが別人か!?ってほど変わるのよ……ボソッ)


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↑これくらいの評価基準で★をつけていただけたら、心からありがたきなのですー(。>ㅅ<)✩⡱ナニトゾー

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