死に方探し

10まんぼると

飛行

 「お前、調子乗ってんじゃねぇ!いい加減にしろよ!」


私は生意気な客の肩を力一杯押す。後ろの商品棚から陳列されたものが崩れ落ちていく。


「ねえ、雪幻せつげんさん。落ち着いて!」


その言葉を聞いた瞬間、我に返った。金銭的余裕がないせいで神経質になっていたのだろう。だが、手を出してしまったことには変わりない。何も出来ず、ノロマな私はすぐにバイトをクビにされていたのにこのコンビニだけは私を働かせてくれた。でも、さすがに手を出した私をそのまま働かせてくれるほど優しくはなかった。クビと言われた瞬間、身体全体に不安が駆け巡るのがわかった。まずいと思い、いくつか面接を受けたが、どこも不合格だった。そして、私は気づいた。もうどうしようもならないのだと。




 通帳に書かれている預金残高を見て、私は大きくため息を吐く。


「どうしてこんな事になってしまったんだ…」


毎日節約をし、最低限のことだけをしてなんとか生活することができているがあとどれだけ続けられるかも分からない。昔の親友にもらった画質の悪いテレビを消して、固いベッドに身体を乗せた。今後の不安に押し潰されながらも私は目を閉じた。




 ドン!ドン!という物音で私は眠りから覚めた。慌てて音の鳴る玄関へ向かう。扉を開けるとそこには大家さんが立っていた。


「早く更新料支払ってくれませんかね!」


今までにないほどの怒りを感じ、冷や汗が止まらない。


「すいません。もう少ししたら払えると思うので…」


いや、嘘だ。入ってくるお金など一円もない。だいぶ前に親から絶縁を言い渡され、最後の頼みの綱であったバイトもクビにされたせいでどうしても払うことができない。だから、何とか持ちこたえなければ…


「3日以内に支払ってくれないようなら追い出しますからね!」


「いや、それはちょっと」


「それでは」


住むところがなくなるのは本当にまずい。私はスマホである場所を調べる。なかなか動かないスマホに少し焦りを感じながらも場所をしっかりと確認する。私は大きく深呼吸をして家を出た。



 目的の場所には『コクウ銀行』という文字が書かれている。借金というものに縋る気なんて今までなかったのだがこの際仕方がない。いざ目の前に立つと心が壊れてしまいそうな感情に陥ってしまう。本当にお金を借りれば何とかなるのだろうか。そもそも返済なんてできるはずないのに借りて大丈夫なのだろうか。色々と考えてしまうせいでなかなか中へ踏み出す勇気が出ない。

考えているうちに一つの結論が出た。もう人生を終わらせてしまえばいいのではないか、と。借金が返せず借金取りに追われるくらいなら救いのない人生を終わらせて来世に賭けてみる。運良く、『コクウ銀行』のある建物はとても高く屋上も開放されている。それが分かった途端、私は建物の中へ歩き出した。さっきまでの不安は無くなっていた。エレベーターを使うとバレてしまうかもしれないから、階段を使って上まで上がる。足取りが重くなっているのを感じながらも、無事屋上まで上ることができた。視界に入った太陽は私が今まで見てきた何よりも美しく感じた。柵越しに下を見る。最初はヒヤッとしたがすぐに慣れた。私は柵に足をかけて登る。誰かの叫ぶ声が聞こえる。


「これでお終い。さようなら」


私はそう呟いて身体を空に任せる。逆らうことのできない重力が私を桃源郷へ導く。私はゆっくりと目を瞑った。

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