第7話

 いつ好きになったのだろうと言えば明確にあの時であるとは答えずらいが、私が結人と出会った時の事は今でも鮮明に覚えている。そもそも私が結人との記憶を忘れるなんてことはないのだが。私が私を天才たらしめているこの記憶力を生かし、頭の中に結人だけの本棚を作っているから。


 私たちの出会いは劇的だった...........なんてことはなくあれは幼稚園の頃だった。


 幼いころから私は他の子とは違うというのを自覚していた。精神年齢が幾分か他の子よりも高かったこと、それに加えて感情の機微を読み取るのが上手かったこと、考え方が幼子のそれではなかったこと、その他諸々が合わさっていたと言っていい。


 両親は私の事を愛しているし、私の事を優秀で流石だなんて言うが心の中で私の事をどこか恐怖しているのが見て取れた。そうは言っているもの両親が私の事を愛しているのも本当だろう。


 ただ、普通の子供ではなかったが故の不安や恐怖というだけ。私もそれを特に気にすることも無かった。


 私はすくすくと何事もなく育っていき、私が五歳になりあと一年で幼稚園を卒業しなければならないという年齢になったころだった。


 いつものように皆が外で遊んでいたり、おままごとをしている間私が本を読んでいた時のことだった。


『ねぇ、なによんでるの?』


 そう声を掛けてきたのが結人だった。いつものように適当にあしらえば興味を失って何処かへ行くだろうと思っていた。そもそもの話、私に声を掛けてくる子なんてそうはいなかった。私の事を子供ながらに何か違うとそう思い、近づいてくるような子はあまりいないのだ。


 そんなもの読んでないで一緒に遊ぼうぜとか、一緒におままごとしようなんて言われるのは面倒臭いなとそう考えていた私だったが、結人は違っていた。


『本』


 私がそうそっけなく返すと彼は私が読んでいる本を覗き込んで、一文字一文字目で追い始めたのだ。


『あなた、読めるの?』


 私がそう聞くと結人はニコニコと笑って「ぜんぜんよめない。これ、なんてよむの?」そう言って漢字を指さしたので読み方を教えてあげると、「へぇー、そういうんだね。あたまいいんだね」と結人はそう言ってまた文字を追い始める。


 彼が嫌味でも何でもなくそう言ってきたので毒気を抜かれてしまい、苦笑して返した記憶がある。最初から結人はただ、差別することなくただ純粋に私に対して興味を持ってくれた。


 そのことが新鮮だった。


 人間とは差別する動物である。差別がなかったことなんてない。それは歴史に刻まれていることだし、なくなることはこれから先もないだろう。


 大勢と何かが違えば排斥され、意見すらも封殺される。私も無意識に排斥されてきた人間だった。


 別にそれを気にしていたわけではない。仕方がないと思っていたから。


 でも、だからこそただ純粋だった結人に私は惹かれたのだろう。


 この出会いがこれから先私の人生を掛けてもいいというほどの身を焦がすほどの恋に落ちるなんてさすがの私でも思いもしなかった。

 



 





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