第3話 懐かしくて最低な夢

 また、懐かしくて最低な夢を見ていた。


「気持ち悪い!!あれもこれも全部演技だったんだ。本当は裏で私のこと笑ってたんでしょ!!」

「そういう人だったんだ!!気持悪い。咲ちゃん、離れた方がいいよ」

「キモッ!!」


 周りのクラスメイトは、寄ってたかって俺のことを糾弾する。

 

 幼い頃の俺は必死にこれを否定していた。ほら、


「ち、違うんだよ。お、俺じゃない。信じてよ、咲」


 そう言った俺の目を目に涙いっぱい貯めて睨む咲に絶望したような顔をする幼いころの俺。


 暴言を吐かれ暴力を振るわれ、俺はそのうち項垂れて涙を零した。


「どうして.........」


 




「.................」


 そこで、目が覚める。カーテンから差し込む弱い日差し。時計を見ると、まだ六時を回っていないくらいの時間だった。


「.......最悪の目覚めだな」


 定期的にああいった過去の夢を思い出しては苦しくなる。だが、その度に彼女のことを思い出すのだ。


 鏡音鏡花。


 彼女だけはどれだけ俺が皆に嘘つきだ、気持ち悪い、最低だ、その他諸々の暴言や暴力を振るわれたとしても傍にいて、慰めてくれた。俺の人生において彼女がどれだけ心の支えになっているかは計り知れないし、数えきれないほどの迷惑をかけてしまった。


 だからこそ、鏡花には幸せになって欲しい。


 そんな願いがずっと昔からあった。


 これだけ優しくされて支えてくれているのだ。彼女に恋をしたことは幾度となくある。彼女に告白をしてしまおうかなんてことを思ったこともあった。だが、俺はその度に鏡花には俺よりももっといい人がいるとそう思うのだ。


 俺のような迷惑ばかりを掛けて鏡花に半ば依存しているような男が、鏡花の恋人になっていいはずがない。ましてや結婚なんて考えてはいけないのだ。


 だから、俺は彼女に友達や普通の高校生として、放課後遊びに行って欲しいしそこで何かしらの縁があったとしても俺はそれを応援したいと思っている。鏡花は俺に縛られるべきじゃない。


 もっと彼女は幸せになるべきなのだから。俺のような迷惑ばかりを掛ける男と釣り合うはずがないのだから。


 そう思ってはいるものの、やはり昨日のように鏡花の胸で泣き、迷惑をかけてしまっているのだから本当に俺という男はどうしようもない人間である。


 鏡花の幸せを俺が勝手に決めているのではないかなんて、自分に都合のいいことを考えもしたが、彼女は僕のことをきっと出来の悪い弟か母親がいなくなって可哀相な子ぐらいにしか考えていないと思う。


 彼女にとってはきっと腐れ縁でしかないだろうし、錘でしかない。


 ..................はぁ。


 いつから俺はここまで卑屈になったのだろうか。元からか?それともこうなってしまったのか。俺がそもそも人のことを助けよう、人にやさしくしようと思ったのも母親のようになりたいからという気持ちが強かったからだ。


 その母親がいなくなってしまったから、これほどまでに心が弱く卑屈になってしまったのだろうか。


 ....止めよう。これ以上考えてもメンタル的によくない。


 カーテンを開け、日光を浴びて気分を幾らか変えた後、リビングの方へと行くといい匂いがしてきた。


 どうやら鏡花が朝ご飯を作りに来てくれている。昨日の俺の様子を見て心配してくれたのだろうな。


「おはよう、鏡花」


 そう声を掛けると鏡花は驚いた顔をしてこんなことを言った。


「おはよう、結人。結人は朝弱いはずなのに今日は早起きだね」

「昨日は寝過ぎたからね。今日こそは学校に行かないと」

「…そうね」


 何とも言えなさそうな顔をして、彼女はまた朝食作りを再開させる。


 今のうちに学校へ行く準備でも終わらせておこう。



 


 

 




 


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