「順を追って話します。まずこの事件の舞台となった城ですが、警察の調査によるとある大富豪が道楽で建てた城のようです。忍者屋敷とかああいうのが好きな人だったらしいです。そしてこの城を借りたいと言ってきた人がいました。それが犯人です。

 犯人は借りる際に偽名を使ったようですね。所有者は犯罪に使われるとは思わなかったと言っており、共犯の可能性は低いというのが警察の見解です。バスで送迎した人達も犯行には直接関係ありませんでした。彼等は何でも屋みたいな人達で、送迎だけ依頼されたようです」

 煌月以外はただ黙って耳を傾けている。

「犯人は事前に準備を整えました。招待状で参加者を集め、この城に元々ある仕掛けを使ってクローズドサークルを作る。皆が寝静まった頃に犯行を行う。大まかな流れはこんな感じですね」

 煌月はコーヒーを飲み干した。

「うん。最初は十六人の参加者がいたけど、六人が殺されて十人になった」

「では個別に犯行のトリックを説明しましょう」

 煌月はファイルを広げる。その中には今回の事件の詳細な情報が纏められていた。警察から提供された情報もあれば、煌月の手書きの資料もある。

 その中から手書きの資料を見せる。左側のページには参加者十六人の簡単な情報と部屋割りが書かれている。右側のページには羽田の死体の位置や、他の犠牲者五人が密室で殺されていた等の犯行時の状況が書かれている。

「まず密室のトリックから。が実は北野さんと瀬尾田さんの部屋は、鍵を持っていなくても開く仕掛けがドアにありました。

 シリンダー錠の側面が回転して自由に開け閉めできるんです。補助錠は強めの磁石を使えば、外から動かせます。普通はシリンダー錠の側面を触れないので、埃が取れた形跡があったことからこの仕掛けを発見しました」

「ええっ!? そんな簡単に密室が出来るの!?」

 立ち上がりそうな勢いで目を丸くするルナアリス。

「簡単に出来ました。この仕掛けで侵入して凶器のクロスボウを使い、強力な毒を塗った矢を撃ち込んで殺害したのです。窓の外は客室が崖に迫り出している構造の為、窓からの侵入は無いと判断しましたので、瀬尾田さんと北野さんは死体の状況も合わせてドアからの侵入で殺害されたと確定」

 ページを捲り、死体の状況が書かれた図を見せる。

「次は甲斐さんと村上さんの密室の解説に移ります。二人が使っていた部屋のドアの鍵には、外から開け閉めできる仕掛けはありませんでした。しかし補助錠を磁石で動かすことはできました」

「あれ? 確かその二人は密室のトリックを解明したよね?」

 煌月は頷いてファイルのページを捲る。

「はい。十六番の部屋の窓から外に出て、事前に設置しておいた足場を通る。足場は木の板とロープで作り、屋外の屋根の死角の金具に引っ掛ければ完成。十五番の部屋の甲斐さんとその隣の十四番の部屋の村上さんを、窓の外からクロスボウで狙い撃ちにする。

 窓は外から開けられる構造になっていて、ベッドの配置も狙いやすい位置になっていました。犯行後はロープを切断して足場を谷底に落とし、切断に使用したナイフも落とす」

 ファイルのページには犯行の手順が手書きの図解で詳細に書かれている。手の小さいルナアリスのお陰で、窓が裏から開けられる事が分かった。

「実は城から出た後で警察に通報して、皆さんが到着待ちをしていた時に証拠を探しに行ったのです。そこで足場に使った木の板とロープ、切断に使用したと思われるナイフ。それとハーネス型の安全帯を発見しました。窓の外を移動する際に、足を踏み外す危険性を考えて犯人が使用したようです」

 再びファイルのページを捲り、証拠品の一覧が載っているページを見せる。

「あの時は証拠品入りのトランクケースを置いて城に戻ったと思ってた。でも他の証拠品を探しに谷底まで行ったの?」

「はい、行きました。駅で見た案内板から真下の谷には川が流れているのではないかと。そう考えると、投棄した証拠品が川に流されて発見できなくなる事を犯人は狙ったと思います。

 あの一帯が三週間も雨が降っていない事は知っていましたから、川の水位が下がって証拠品の回収が可能な状態なのではないかと考えたのです。城を出た朝も草が渇いていたので、当日の朝も雨は降らなかったようでした。谷底は思った以上に証拠品が残っていましたよ」

 証拠品の一覧には個別の説明や実物の写真が付いている。

「次は十六番の部屋。被害者の木村さんが使っていた部屋です。犯人はドアから侵入して木村さんを殺害。窓の外からの攻撃に使った足場へは、ここから出ました。窓は全開にならないようになっていましたが、ストッパーを外すと全開になって外へ出られるようになっています」

「そこまでは分かってる。でも問題は十六番の部屋が密室だったって事でしょ? その部屋のドアも仕掛けがあったの?」

「ありましたよ。他のドアとは違う仕掛けです。城内にいる時は開けられませんでしたが、あの後警察と共に城で検証を行ったところ解明できました」

 煌月はファイルのページを捲る。十六番の密室トリックについてと書かれたページだ。そこには手書きの図解と共に写真が一枚張り付けられてある。写真は十六番の部屋のドアを、引き気味で正面から撮影したものだ。

 その写真をルナアリス達は覗き込んだ。ルナアリス以外は見ただけでは理解が出来ないだろうが、彼女はその場に居たので一瞬で理解できた。

「嘘でしょ!? これが密室の正体なの!?」

 写真に映っている状況にルナアリスは固まった。

 ドアの蝶番が付いている壁と向かって右側、廊下の突き当りで羽田の死体が寄り掛かっている壁との間に隙間が出来ている。写真の下には、九十センチ程の隙間で人が通る事は可能と書かれている。

「これは一体なんだね?」と霧部が聞く。

「イメージ的にはワゴン車の後部座席のが近いですね。壁の一部が手前に移動した後、隣の部屋の方にスライドするんです。それで人が通れるだけの隙間が出来る。

 ドアが設置されている壁自体が動くので、ドアの施錠状態は関係ありません。室内側から鍵と補助錠を掛けた後、隙間から外に出て壁を戻せば密室完成です。ドアの左側の壁に平行な二本の溝がレールの役目になっていて、動かす為の小さなレバーもそこにありました。レールの役目をしている溝は壁に描かれた規則性の無い図形の一部です。廊下の壁一面に図形が書かれていたのは、この溝を目立たなくする為だったかと」

 煌月がドアの上下で見つけた、指先でなぞらないと分からない小さな溝は切れ目だったのだ。

「この城の独自のトリックだった訳か~。こんなの分かんないよ~」

 小さく頬を膨らませるルナアリス。

「これで密室の説明は終わりですね。次は犯人とダイイングメッセージの話をしましょう。部屋の外で殺された羽田さんについても含めて」

 煌月はファイルのページを捲り、ダイイングメッセージについて書かれた所で手を止めた。

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