三人組の警察官が歩いている。人が入らぬ森林の中をやっとのことで通り抜けて、今は山の中の開けた所だ。自然に出来た広い道を方角を確かめながら進む。警察専用の長距離無線機を背負った通信役が定期的に連絡を入れる。

 時刻は正午を過ぎたところである。

「GPSだとそろそろ着く筈だが」

 先頭を歩く長身の警察官の手には小型の端末が仕事をしている。

「城はもう見えていますよね」

 若い警察官が続く。縦一列で歩いていて、通信役は最後尾だ。

「しかし警察の協力者だからと鎌崎警部は言ったけど、こんなところを一人で入っていくものかねぇ」

「三週間近く雨が一切降らなかったから、川の水位が下がっているって考えは当たっていますよね」

 彼等が歩いているのは川だ。現在は水位が干上がる二歩手前ぐらいになっていて、見通しの良い道になっている。ちなみに上流側に進んでいるので上り道だ。傾斜はそんなに急ではないが、角の取れた石等が幾らか進む足を遅くする。

「確かにここまで水量が減るのは珍しい。川に流される可能性は無さそうだが、あそこの城から投棄した証拠品だろ? 残っていたとしても著しく破損しているだろうな」

 最後尾の通信役が城を見上げた。見えているといっても殆ど岩にしか見えない。

「ん? あれは……見ろ、本当に居たぞ」

 先頭を歩く長身の警察官が指を差した。上り道の先から見下ろす人影がある。その人影はこちらに両手を大きく振っている。通信役はすぐに本部へ一報を入れる。

 警察官三人組がその人影に合流した時、全員が同じ理由で驚いた。

「うわっデカ……」

 若い警察官が思わず漏らしたが、その人物は聞こえなかったのか慣れているのか全く気にしていないようだ。少し疲れた顔で三人を見下ろしている。

「えっと、ゴカク……ガミさんですか?」

「そうです。来てくれてありがとうございます。こっちに来てください」

 煌月についていくと、十五メートル程先の川岸だったところに物品が纏めて置いてあった。ブランケットをシートの代わりにしている。

「回収できた証拠品はここに纏めてあります」

 証拠品を覗き込む警察官を横目に、煌月は隣に置かれたトートバッグから飲みかけのミネラルウォーターを取り出す。蓋を開けて喉に一気に流し込む。

「ここは丁度城の真下に当たる所なんですよ。大分広範囲に散らばっていましたが、何とか掻き集めました」

 急な斜面に樹木が張り付いている。その斜面の上に城の影が見える。そこから谷に突き出す客室もハッキリと見えている。

「思ったよりも多いな。これは、クロスボウか?」

 通信役が近くでしゃがみ込んだ。

「そうです。落下した衝撃で破損していますが、元の形状が分かる位には回収できました」

 集まった部品を破損個所の形を元に近づけると、元がクロスボウだったことが分かる。若干形状が異なっているが二丁ある。

 真っ二つになったプラスティック製の矢筒と、中に入っていたと思われる矢も隣に置かれていた。半分は折れずに無事だったようだ。

「矢尻には毒が塗られている可能性があります。触れる時は気を付けて下さい」

 全ての矢尻の部分にタオルが巻いてある。

「ロープが付いている木の板。それに工事現場の作業員が使うハーネス型の安全帯? これも証拠品なんですか?」

「はいそうです。密室トリックに使われた物です」

 煌月はミネラルウォーターに口を付けながら簡単な説明をする。

「ナイフは分かるが、このビニール袋に入っている色付きガラスは何だ?」

 長身の警察官が指差しているのは茶色のガラスだ。破損したガラス片だということは分かる。元の形状は一見すると分からないが破片は多い

「恐らく毒物を入れていたガラス瓶ではないかと思います。矢に毒を塗ったようですので、毒物は液体だった可能性があります。だとすれば中身はぶちまけられたとしても、毒物が付着したガラス片がその中にあるかもしれません。投棄する前提なら犯人の指紋が付着しているかもしれませんよ」

「なるほどな。これは重大な証拠品になるな」

 長身の警察官は何度も首を縦に振った。

「ちなみに汚れの付き具合とかで、何か月も前に投棄された物ではない事は確実です」

 煌月は飲み干したペットボトルをトートバッグに戻した。

「ゴカクガミさん。このビニール袋に入っている白い物は何ですか?」

 若い警察官が、片方だけの皮手袋が入ったビニール袋の隣を指差した。

「それはストッキングですよ。運良く木の枝に引っ掛かっているのを発見しました。片方しか見つかりませんでしたが、私が見た所だとですよ」

 警察官三人組は全員首を傾げた。

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