3
煌月は大きく伸びをしてから、まだ眠りの世界にいる参加者達を起こして回った。全員を呼び戻して、日常の世界へと帰っていく準備を始める。といってもせいぜい忘れ物が無いか確認をするぐらいだ。
確認を終えると全員で新たに現れた階段を上っていく。横幅は普通の体型の大人で一人と半分程。少し急と感じるくらいの角度だが、踏板は広めで特に問題無く上がりきった。
その先は下のホールと同じくらいの明るさで、真っ直ぐな廊下があった。その廊下に先頭の竹山が足を踏み入れ、他の九名が続いて踏み入れる。
途中に曲がり角等は無く一本道。やがて一つのドアに行きついた。下のホールにもあったのと変わらない大きさとデザインだ。
「この先が出口か?」
二番目の鷲尾が竹山に聞いた。
「多分そうだと思いますが……あれ? 開かないな……」
「どうしたぁ? まさか謎解きじゃねぇだろうな」
三番目の大宮が廊下に響くくらいの声で聞く。
「あっ、いえスライド式の鍵が掛かってるだけですね」
竹山は開錠してドアを開けた。少し厚いドアの向こうには、太陽の光が降り注ぐ世界があった。そこは石造りのバルコニーで広さは大人十五人分程。風は無いが少し肌寒いと感じる位の温かさだ。
「あそこの階段から降りられますね。地上に続いているようです」
何度か折り返しながら地上へ続く石の階段だ。参加者達はその階段を下りていき、やがて地上に辿り着いた。
どうやら城の正門から見て左側面のようで庭の一角だった。正門まで進めば、下りていた筈の格子は上がっており敷地の外まで出ることができた。
「あ~やっと終わったな。とんだ二日間だったぜ」
大宮は煙草に火を付けた。宝条は涙を流していて、その隣には曽根森が寄り添っている。
「ホントね。随分長く感じたわ」
少し荒れた髪を触りながら村橋が漏らした。
「取り敢えず来た道を戻りましょう。ここはまだ圏外ですが、繋がる所まで行ったら警察に通報して指示を仰ぎましょう」
一行はアスファルトの地面をゆっくりと進んでいく。向かって右手側にだけ歩道があるので、自然とその歩道を歩く。大きくカーブする道と緑の木々が山の中だという事を感じさせる。
右側が谷になっていて、煌月はそちらを見ながら歩いている。時々歩道にはみ出した背の高い草に触れたり、振り返ったりしている。
二十分程進んでいくと、スマホの電波が届くようになった。
「私が警察に通報します」
圏外から出た事に最初に気が付いた曽根森が警察に連絡を入れた。
煌月は自分のスマホも使える様になったことを確認すると、マップアプリで位置を確認する。更にここ数日の天気の情報もアプリで確認した。
「この辺りを管轄している警察の間では有名な城らしくて、場所は分かるのですぐに駆け付けるって言ってます。暫くここで待機しててほしいとも言ってます」
「さっさと帰ってベッドに潜り込むってぇのはやっぱり無しか?」
「はい。警官が到着するまで全員待機していてほしいと」
「仕方ありませんよ。六人も殺されたのですから」
竹山は谷に沿って設置してある低いフェンスにもたれかかった。
「だよなぁ。まぁしょうがねぇか」
鷲尾も疲れた顔でフェンスの近くに座り込んだ。
氷川はマネージャーに、佐倉と宝条は家族と学校に連絡している。曽根森も警察とのやり取りが終わったら、別の所に電話を掛けている。ルナアリスも両親に電話しているようだ。大宮、村橋、竹山、鷲尾は特に誰かに連絡する様子は無い。
煌月は少し他の人と距離を取ってから電話を掛けた。三コールで相手は出た。
「もしもしサミさん? 煌月です」
『おう! コウちゃん』
年配だが声に力強さがあって十歳は若く聞こえる男性の声。相手は煌月が住居を構える地域の警察署のベテラン刑事だ。
警察が事件の協力を求めてくる時は大体彼経由で話が来る。本名は
「今、お時間は宜しいですか?」
『丁度署に着いたトコだ。特に捜査の予定は入っていないが、何かあったか?』
「所轄が違うのでちょっと頼み難い事なんですが、実は事件に巻き込まれまして。その調査に関する重大なことなのですが――」
煌月は簡潔に必要な情報だけ伝えた上で、頼みごとを彼に伝えた。
『流石コウちゃん、人の縁には恵まれてるな。そこの所轄に俺が昔世話してやった元部下がいるんだ。
「良かった。すみませんがお願い致します」
『おう。時間との勝負なんだろ? 任せておけよ』
電話を切った後、気持ちを落ち着けるように煌月は大きく息を吐いた。
「大宮さん、ちょっと」
「あ? どうした?」
煌月は自分のトランクケースを開けて、中から客室にあったパンダのトートバッグとブランケットを取り出した。そして閉めてから大宮に差し出した。
「この中には証拠品が入っています。警察が来たら鎌崎という警察官に渡して下さい。お願いします」
「はぁ? 自分で渡せばいいじゃねぇか」
眉を顰める大宮に煌月は表情を変えない。
「これから最後の調査に入りますので、よろしくお願いします」
煌月はトランクケースを地面に置いて踵を返した。
「おい!? ちょっと!?」
パンダのトートバックとブランケットを持って煌月は走り出した。大宮は突然の事に固まった。その様子を周りの人は見ていた。その内の一人のルナアリスが近寄ってきた。
「もしかして煌月さん、城に戻る気なんじゃないかな」
「まだ調べるのかよ……」
煌月はあっという間にカーブした道の先に消えていった。
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