「密室に関しては木村さんの部屋だけですね」

「う~んその密室も特殊なギミックで開きそうな気がするんだけどなぁ。ねぇ、この城ってなんだか人殺しの為に造ったみたいだよね」

「人殺しの為……ですか。確かに完全に閉じ込める仕掛けに加えて、スマホが全て圏外で外部との通信を絶たれている。ミステリーでいうところのクローズドサークルを完全な形で成立させている。

 クローズドサークルで殺人事件を起こす為に、大掛かりな仕掛けを始めから設計に組み込んで建築したと考えても間違いではない気がします」

 視線の高さを合わせたまま、煌月は左手を口元に当てた。

「しかし今はそのことは置いておきましょう。次の手を打とうと思います」

「次はどうするの?」

 再び期待を込めた瞳で熱い視線を送る彼女に、煌月は先程と同じ声量で、

「証拠品探しです。もっとも見つかる可能性はなさそうですがね。他の皆さんの様子はどうでしたか?」

「事件の事を話してたよ。主にダイイングメッセージの事」

「正解らしいものは出ましたか?」

「ううん。どれも無理やりすぎだったよ」

「そうですか。正直私もダイイングメッセージについては納得がいく答えが出ていません」

 ルナアリスは小さな頭を傾けた。

「あれ? 煌月さんは犯人を絞ったんだよね?」

「その人物とダイイングメッセージが結びつかないんですよ」

「えっ!? そうなの? てっきり解けたのかと思ってたよ」

 思わず声が大きくなるルナアリスに煌月は表情を変えずに、

「ダイイングメッセージについては取り敢えず後回しにします」

 そう言うと日本人離れした巨体が立ち上がった。表情を変えずにホールまで足を運ぶ。階段を降りながら、ホールにいる彼等の様子を窺うべく視線を走らせる。ルナアリスはその後ろを軽い足取りで着いていく。

 煌月が戻ったのを見た竹山が口を開いた。

「煌月さん、結局のところどこまで捜査は進んでいるんですか?」

 煌月に全員の視線が吸い寄せられる。息を整える様に深呼吸をした後に、竹山に解答を出す。

「密室は破れないですし、凶器は窓の外に放り投げられたら回収は不可能ですし。芳しくありませんね」

「つまり、詰みの状態に近いってことですか?」

「そうですね、本音を言うとそうです。ここまで手掛かりが無い事件は初めてですね。今回の犯人は相当手強いですよ」

 落胆と不安が混ざったような空気が流れ始めた。

「おいおいしっかりしてくれよ。犯人を見つけられる人間はアンタだけだぞ」

「そうよ、探偵さんがなんとかしてくれないと困るわ」

 不安そうな大宮と村橋に煌月は表情を変えずに、

「まだ手はあります。といっても半ば賭けに近いですが」

「それはどんな手なんだ?」

 鷲尾が代表するかのように煌月に問う。

「ここにいる皆さんに協力して頂きたい事があります。勿論私は警察ではないので何ら権限はありません。本来は推理をして犯人を見つけなければならないという義務自体もありません。ですが――」

 一旦言葉を切って、他の全員に視線を飛ばす。

「この異常な状況下にある現状では、犯人を確定させる事が、安全の確保と脱出に繋がる最善の方法と考えて私は行動しています。皆さんには持ち物検査にご協力頂きたい」

 表情を変えずに、一本調子でさも当然のことのようなお願い。そこには必死さが一欠けらも無く、焦りの色も存在しない。上から目線の威圧感も無ければ、下手に出るような腰の低さもない。

 ――まるで、感情のない機械のような態度である。

「持ち物検査というと、全員の所持品を調べたいという事でしょうか?」

「そうです氷川さん。部屋に置いてある荷物も含めてです。正直言ってこれは賭けです。犯人が凶器や証拠品を処分し忘れたか、或いは処分したつもりだがうっかり忘れたか。そういう犯人のミスに賭けて拾う」

 反応を窺う煌月の視線が端から順番に他の全員へと向けられた。

「その賭け、勝算はあるんですか?」

 竹山が眼鏡のブリッジを上げながら発案者に問う。

「ありません。やらないよりは、というところですね」

 竹山は少し考える素振りを見せてから、

「すごく弱気ですね。まぁ僕は協力しますよ。犯人じゃありませんので」

 それは暗に協力しない奴は犯人だと仄めかす発言にも取れる。煌月にとっては援護といえる。

「俺も別にいいぜ。見られて困るようなモンはねぇし」

 大宮が協力の意思を見せた。そこに鷲尾がすかさず、

「協力しよう。別に調べられて困るようなものは持ち込んでいない」

「拙も協力しますよ。それくらいどうってことない」

 煌月は「ありがとうございます」と承諾した四人にお礼を述べた後、協力の意思を見せていない人達を見遣る。

「ま、ミステリー小説ではよくあることだよね。私もオッケィだよ」

 当然助手役のルナアリスは協力的。次いで氷川が手を上げた。

「構いません」

「アタシもいいわよ」と村橋が続く。

 残るは女子高校生の二人だ。

「私も協力するわ。凛菜ちゃんもいいでしょ?」

「う……うん。わかった協力する」

 これで全員が承諾した。

「決まりですね。皆さんありがとうございます。早速始めましょう」

 全員で固まって客室へ移動を開始した。

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