自由曲で【エアーズ】をやりたいと言ったというお話

水都suito5656

第1話  エアーズがやりたいと言った少女

全日本吹奏楽コンクールにはA編成とB編成がある。


高校生ならA編成55名以下で課題曲1曲。

自由曲1曲の合計で12分以内の演奏をする。

B編成なら自由曲1曲で7分以内。


ただし制限時間を1秒でもオーバーすれば失格。

たいへん厳しいルールがある。

印象に残るような自由曲を選ぶ事で他校から頭ひとつ抜け出すことで金を狙う。


ちなみに全国大会のあるはA編成のみである。

そして多くの実力校はそのA編成で全国を目指していた。

これはそんな吹奏楽部では当たり前の中で1人の女子生徒の発言から始まった。




「はい、今日の全体練習はここまでにします。部長 」


「「ありがとうございました! 」」


顧問の先生が音楽室を去り各パート練習に向かう。


私は来週発表される課題曲の事ばかり考えていた。

どんな曲を選ぶことになるんだろう。

はやくも期待と不安で緊張しっぱなしだ。


そんな時隣りに座っている同じフルートパートの子が私の方を見ていた。美人に見つめられるとドキドキするね。


「どうしたの泉ちゃん」

私の問いかけると、彼女は目をキラキラさせてこう言った。



「あたしね、実はやりたいと思ってる曲があるの!」

「やりたいって言うことは、自由曲の事かな」

「そうなの!」

「うーんどうだろう」


うちの吹奏楽部では例年自由曲は顧問の先生が決める事が多かった。


まあ、1年生の自分達がメンバーに選ばれるかどうかも疑問だけどね。

うちは部員多いから正直厳しいと思う。


そんな私の心配を他所に、彼女はカバンからそっと1冊の譜面を出して見せた。

それは随分年季が入っていて、あちこち擦り切れ何度もテープで直した跡が見えた。


彼女は私に見せるように表紙をめくって見せた。


そのタイトルを見て私はあっ、と呟いた。


【エアーズ】


その曲のタイトルは知っていた。


私の年の離れた兄の吹奏楽部時代の課題曲で、今でもたまに実家に帰ると私にきかせてくれる。

とても優しいメロディーが印象に残る曲だった。


「確か2004年度の課題曲よね」

彼女は大事そうにそれを広げたまま頷く。


「これをみんなで演奏したいの」

彼女は今まで見た中で1番の笑顔でそう答えた。


私は彼女の提案に驚いてしまった。

だって


だれもが技巧を競う自由曲で

昔の課題曲を選ぶ事が、どんな意味を持つのか知らない人はいない。


予選通過は絶望的だ


それでも彼女はその曲を選んだ。


私はその謎を知りたいと思った。

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