第5話 殺人犯

 1人は、私と同じ営業部の社員だった。彼女が、1年かけて1億円の案件の受注に成功したのに、私が自分の成果だと上司に言って、手柄を取られたと周りに毎日のように文句を言い、殺してやるって話していたとのことだった。


「ひどいじゃない。私が1年もかけて受注した案件を横取りするなんて。」

「何言っているの。あなた知らないから言ってあげるけど、この件は、私がお客様の社長さんと飲みに行って、そこで約束した案件なのよ。私がクロージングしたんだから、私が受注したって言って何が悪のよ。」

「枕営業したってこと。汚い女ね。私が、担当者から部長にまで話しをして、会社に貢献するって毎日のように提案して、どれだけ苦労したと思っているの。」

「私は、寝たりはしていないわ。社長さんが悩んでいたから、他社の成功例とか説明して説得したのよ。私がいなければ、他社に流れていたんだから。あなたの努力と実力なんで、そんなもんよ。」

「あなたは、いつも、そんなやり方なのね。私が提案していること知っているんだから、私にアドバイスすればいいでしょ。そんなんだから、みんなから嫌われるのよ。」

「別に、嫌われていないし、嫌われてもいいし。実力がないからって、逆恨みしないでよ。まあ、実力がない人ほど、吠えるのよね。黙っていればいいのに。」

「本当に、腹たつ人ね。もう話すのも嫌だわ。」

「そう、くだらない人は黙っていればいいのよ。」


 本当に、できない人は困るんだから。正論を言っているだけなのに、どうして恨まれるのかしら。


 もう1人は、総務部の備品係の女性で、私が、事あるごと叱っていた人だった。


「あなたね。私、ホワイトボードのマーカー頼んでるのに、いつになったら来るのよ。もう2日も経っているのよ。どんだけ仕事できないんだか。給料泥棒さん、聞いてる?」

「あの、頼んだ会社に在庫がなくて、今、発注しているということだったんですけど。」

「理由なんでどうでもいいのよ。あなたが買いに行けばいいでしょ。そんなことも考えられないの。」

「社員が、直接、買いにはいけないルールなので。」

「そんなこと言っているんじゃないわよ。他にも手段があるでしょっていうこと。別のマーカーとかはないのか検討したの。あなた、幼稚園児じゃないんだから、少しは頭を使いなさいよ。幼稚園児よりひどいわね。私たちは、お客様から日々、嫌味も言われて頑張っているのよ。そんな中で、あなたたちは、快適なオフィスでダラダラと席に座っているだけなんでしょ。少しぐらい、頑張ってみたらどうなの。」

「そんなことはないですが・・・。」

「本当に使えない人ね。死んじゃえば。その方が会社のためね。」


 そんなことが何回も続いた。本当に使えない子は困る。ただ、その後、その子、メンタルになって休んでいると聞いた。当社では、メンタルになっても給料が出るから、本当に会社のお荷物だわ。もしかしたら、仮病なのかもしれない。この世の中は、ずるい人が得するのね。


 刑事に聞いたところだと、この子は、ちょうど、事件の日に会社に医者の診断書を持ってくるために出社して、廊下で私をひどい形相で睨んでいたと証言があったらしい。さらに、その子のカバンの中には、ナイフが入っていて、なんで持ち歩いているんだと聞いても、下をむき黙秘を続けたと言っていた。


 ただ、ビルの防犯カメラを見ても、確実な証拠が出てこなかったため、この件の捜査は終わることになったと、あの刑事が説明をした。


「やっぱり、あなたを恨んでいる人が何人もいたぞ。でも、犯行に及んだという証拠が出なかったので、今回はこれで終わりだ。恨まれるようなことをするんじゃないぞ。」

「え、もう終わりですか? 犯人を捕まえてください。」

「あなたの不注意で落ちたかもしれないし。」

「ひどい。私が死んだら、どうするんですか。」

「その時は、自分を悔いるんだね。では、これで失礼するよ。」


 退院をしたのち、また結心さんを呼ぶことにした。というのも、警察から聞いた話しだと、落ちたエスカレータの脇にある監視カメラでは、私が後ろから押されたように見えるけど、誰も人は映っていなかったというから。


「結心さん、お久しぶり。今回も、助けて。」

「こんにちは。今回はなんですか?」


 エスカレータから落ちたこと、監視カメラでは、押されたように見えるけど、人は写っていなかったことを伝えた。


「なんか、また憑かれちゃったみたいね。そういう体質なのかな。でも、今回は、ちょっと難しそう。」

「どういうこと?」

「今、付き合っている彼がいるでしょう。」

「よくわかりますね。」

「何度も言うけど、それが私の仕事だから。」

「ごめん、ごめん。わかっている。」

「どうも、今、憑いている女性は、その彼のことが好きで離れろと怒っている。だから、先日、エスカレーターで突き飛ばしたって。」

「もう死んでるんでしょ。そんなことしても、淳一と付き合えないじゃん。さっさと除霊してあげて。」

「そうなんだけど、その彼が、自分以外の女性も何人も殺して、山中に埋めているって言ってる。この女性を除霊することはできるけど、それだけだと、紬さんが、いつか、彼に殺されるんじゃないかと思って。」


 結心さんは、そう言って、5分もたたないうちに除霊は終わったと伝えた。


「今回は、2回目だし、簡単だったから、お得意様割引で半額の10万円でいいわ。それより、うちと付き合いのある探偵事務所を紹介する。」

「除霊師からお得意様と言われるのも複雑な気持ちだけど、ありがとう。でも、信じられない。とっても、素敵な彼なのよ。」

「人は、見た目だけじゃ分からないし、まだ付き合い始めたばかりなんでしょ。前回に素性が分からない人とは付き合わないようにと言ったけど、今回はどうなの?」

「今回も、出会い系サイトで知り合ったけど、一流商社マンだし、怪しい感じはないですよ。」

「そう思えないから言っているの。気をつけてね。」


 翌日、淳一から紅葉の日光に行こうと誘われ、淳一の犯罪をまだ信じられなかったので、楽しみだと即答したわ。ただ、念の為、探偵に尾行してもらうことにしたの。


「今日は、淳一とこのコテージに来れて、すごくよかった。本当に、紅葉の真ん中にいるって感じで、誰にも邪魔されない、淳一と二人だけの世界ね。とっても幸せ。」

「僕も、紬と一緒にいれて幸せだよ。」

「嬉しいな。そろそろ、お昼に買ってきたお肉をお庭で焼いて、お酒を飲もうよ。」

「そうだね。」


 お酒を飲んでベットで寝ている時だった。苦しい。そして、重い。真っ黒な大きな影が私に覆いかぶさり、首を絞めている。助けてと声を出そうとしたけど、声を出せない。首絞めてるのって淳一じゃない。結心さんの言っていたことは本当だったんだわ。信じればよかった。


 手で淳一を押したが、びくともせず、気が遠くなってきた。そこで、結心さんから渡されていて、手首に紐でつけていた笛を口に持っていき、残っている力の全てを使って笛を吹いた。


 それを合図に、探偵がガラスを割って入ってきて、淳一を押さえつけた。淳一も抵抗したが、警棒のような武器を持った2人の探偵はプロの動きで、淳一を床に押さえつけ、手首を後ろで縛って警察を呼んだ。


 コテージ近辺は警察が何人もきて、淳一を連れて行った。その後、私は、朝のニュースで、淳一は5人の女性を殺害し、あのコテージの裏に埋めていたということを知った。殺されずにすみ、淳一の殺人について教えてくれた結心さんに感謝した。

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