悪霊から私を助けて!
一宮 沙耶
第1話 見えない誰か
湯気が立ち込める中、急に空気が凍りついた。寒気がして鳥肌がたった時、いきなり後ろから肩を押され、顔から鏡に突っ込んでしまった。振り返ったけど、このシャワールームには誰もいない。
最初は、後ろに気配を感じ鳥肌が立ったんだけど、気のせいだったのか誰もいない。でも、湯煙の中で、人影のような輪郭が見えたような気もする。
これだけじゃない。最近、会社からの帰り道で、暗い道に入ると、よく視線を感じる。突き刺さるような目線。私のことを好きとか、バックをひったくろうとかじゃなくて、恨みを持ったような強い視線。
振り向いても、いつも誰もいない。一回、男友達に後ろをついていってもらったけど、誰もいなかった。私を鋭く見つめる2つの目だけが浮いて、着いてくるっていう感じ。
週末の夜、私は、友達に、カジュアルなイタリアンには似合わない真剣な顔で相談した。
「私、怖い。毎日、誰かに見られている気がする。」
「どういうこと?」
「会社から帰る時に誰かにつけられているとか、家の外で、部屋にいるかどうか見られているとか、そんな感じ。」
「それって、ストーカーっていうこと? 紬は可愛いから狙われやすいかもね。」
「わからない。何か、具体的に人影を見たとかじゃないだけど。」
「お化けとか?」
「う〜ん。わからない。気のせいかもしれない。でも、この前、シャワー浴びてたら、後ろから押された気がして、前の鏡にぶつかっちゃった。でも、浴室には誰もいないの。」
「怖いわね。」
「別の日には、窓で、網戸のサッシが中途半端な所にあった。私、几帳面だから、いつもきっちり端につけているんだけど、すごく違和感があったわ。でも、急いで部屋を出る時に、網戸を端まで押さなかったかもしれないし、よくわからない。」
「ストーカーの線もあるってことね。警察に相談してみれば。」
「何か被害があるというわけじゃないし、実際に人を見たわけでもないし、自意識過剰とか言われそうで、さすがに警察にはまだいえないかな。」
「疲れているだけかもよ。今夜、帰ったら、早く寝た方がいいわね。」
「そうする。」
1人暮らししているワンルームマンションに戻り、部屋干ししていた洗濯物を洗濯ばさみから外している時、突然、真っ暗になった。停電だったら、月の明かりとか、窓から若干の薄明かりが漏れてくると思うけど、そんなことはなく、光が全てどこかに吸い込まれたように漆黒となった。
その直後、急に、右肩が何か強い力で握られ、壁に押さえつけられた。そして、左肩も強い力で押された。両肩は、悲鳴をあげるほど強い力で押し付けられた。
「痛い。誰なの、やめて。お金なら、この部屋にあるもの全部渡すから。痛い。」
返事はなかったけど、前には、人の息遣いや体温、威圧感はなく、単に肩だけが強く押さえ付けられていた。
あまりに強い力で押さえつけられ、恐怖で体を動かせないでいると、次に、首を手のようなものでつかまれ、体が宙に浮いた。そして、ボールが投げられるように、頭が床に投げつけられた。
1分ぐらいたって正気に戻ったけど、ずっと気を失っていたように感じた。これは、気のせいじゃない。
頭から血が出ていて、首も締められた跡があったので、警察を呼ぶことにした。マンションの周りには、パトカーがきて騒然となったけど、調査したところ、ドアは内側から閉められ、こじ開けた形跡はない。窓も同じで、私以外の指紋は検出されなかったみたい。
警察は、酔って帰った私が、何かに悩んで自殺しようとしたものの、足を滑らせて転び、頭を打ったという結論を出したと聞いた。そして、当面、お酒は控えた方がいいとアドバイスをして帰っていってしまった。
そんなはずはない。私は、飲んで帰ったけど、全く正気だったのに。
でも、人が侵入した形跡がないということは、霊の仕業なのかしら。分からずじまいだったけど、翌日も怪奇現象は続いた。
玉ねぎを切っていると、右手がつかまれ、玉ねぎを押さえている左手の指を包丁が切り付けてきた。指をすぐに離したので怪我には至らなかったけど、誰かが見たら、自分の指を切り付けているようにしか見えなかったと思う。そんな気は全くない。右手が誰かに握られ、勝手に動いたんだから。
しかも、右手を握っているものが見えない。これは、人間の仕業じゃない。なんとかしないと。ネットで除霊師を調べてみると、女性のための女性による除霊というサイトが出てきて、成功報酬だったし、そこに頼むことにした。
これまでのことを伝えると、次の土曜日に、有村さんという除霊師を派遣してくれるといわれた。不安もあったけど、それまでは普段通りの生活をするしかなかった。
その晩、私は、追いかけられる夢を見た。線路下の細いトンネルで後ろから影が迫ってきて、走って逃げたけど、どこまで走っても、トンネルから抜けることができなかった。そしたら、急に壁に押しつけられ、動けなくなって、何か、黒く水ぽいものが体にまといつき、恐怖のあまり息ができなくなった。
私は、汗だくで目を覚ました。なんだったんだろう。その時、窓のカーテンが揺れた。あれ、窓を開けて寝てたんだったけ? 誰か部屋に入ってくるかもと怯えていたのに、窓を開けっぱなしで寝るはずがない。いくらなんでも気のせいということはない。
部屋を見渡しても、誰もいないし、被害があるというわけでもない。でも、ふと気づくと、足首にロープで縛ったような跡があるじゃない。やっぱり、誰かに襲われたんだ。除霊師に連絡して、土曜日じゃなくて明日に来てもらおう。
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