第24話 約束の地 ③

「来ましたね?」


「ええ、来ましたね。」


『約束の地』


新電波塔タウンにある、水族館。

クラゲの水槽の、前。

サッと座り込んだ由紀さんは、僕を見上げながら、呟いた。


「偶然って、あるんですね?」


僕が周りを見回しながら思わず口にすると、


「必然かもしれませんよ?」


「運命とも、言いますね。」


「赤い糸の、伝説かも?」


「「…………My better half ?」」


言葉遊びのような会話の途中から、言葉が重なり、何故か、涙が出てきて、止めることが、出来なかった。

由紀さんに、伝えなければならないことを、口にしようとすればするほど、涙が止まらない。


ふと、座り込んだ由紀さんを見下ろすと、彼女も目に涙を溜めたまま、無理に笑顔を作ったような表情で、僕を見上げていた。


「聡一郎さん、私、今、伝えたい事が、あります。」


これだけは、僕が先に伝えなければいけない。

泣いてなんか、悲しんでなんかいられない。


「僕も、伝えたい事が、あります。先に話してよろしいですか?」


「……………………場所を変えましょうか、長くなりそうですし。」


水槽前に休憩用の椅子があるスペースに移動して、対面で腰掛けた。


「……………………由紀さん、僕は、明日、会う約束をしている人がいます。

『ネッ友』で、今日お見合いすると伝えていて、今日の結果に関わらず一度会って話をしたいと思った人です。」



※※※※※※※※※※



「……………………由紀さん、僕は、明日、会う約束をしている人がいます。

『ネッ友』で、今日お見合いすると伝えていて、今日の結果に関わらず一度会って話をしたいと思った人です。」


真剣な表情で、涙を拭いながら、聡一郎さんは話し始めた。


「お見合いをしておいて不誠実だと思われるかもしれませんが、貴女に黙って『彼女』と会うことが出来ませんでした。」


「……………………実は、私も、明日会う約束をしている人がいます。

お見合いのお返事は、明日その方に会ってからするつもりでした。

この事を、伝えなければいけないと、思えば思うほど、涙が止まらなくなってしまって。」


「……………………由紀さん、もう一度、僕と『約束』しませんか?」


「『約束』?ですか?」


「はい、約束です。『縁があったら、また、ここで、お会いしましょう。』」


「……………………『縁があったら』ではなく、『必ず』でお願いします。」


「必ず、また、ここで、お会いしましょう!約束します。」


「必ず、ですよ。」


今日は、今は、今の私は、勇気を持って、会いたいと、言えた。

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