会議室での対話ーその2
「それでは簡単にですが、私たちのことを知っていただきましょう」
とアリスが口を開く。
百合帝国が自分達を紹介する番となった。
アリスは、会議室に持ち込んでいた、携帯できるサイズの投影機を準備し、自分の脳との接続を確認する。
日本の外務省にはあらかじめ制作された日本紹介のコンテンツがあり、それを見せれば済んだのだが、百合帝国には百合帝国紹介のための、制作済みコンテンツは無いのである。
アリスが伝える必要がある事項と考えた物事を逐一映像として思い浮かべたものを投影し、日本側に見てもらうのだ。
投影機から光が差し、空中に映像が投影される。
平面の画像だ。
投影機は立体映像も投影が可能だが、人間の視覚は三次元を二次元に落とし込んで認識するようにできており、そのためアリスの思い浮かべる映像も二次元なのである。
自分の精神に改変を行い、普通三次元を自然に認識するような感覚で四次元を認識できるようにして、三次元の画像を脳裏に思い浮かべるようにすることも可能だが、今回は必要ではない。
立体映像を投影しても、三次元の映像の側面や背面にわざわざ回り込んで見ない限りメリットは無いのである。
百合帝国の義務教育にある歴史カリキュラムの記憶から、重要と思われる事項をチョイスする。
旧惑星に到達した恒星間植民船。
入植が開始された頃の記録。
始祖人類とは異なるレベルにまで、未来の人類は如何なるものであるべきか、ヴィジョンに基づき自分達の種族を改良し続け、とうの昔に始祖人類とも別な種族へと変貌した歴史。
入植した大陸以外は強大な戦闘力を持つ大型生物が闊歩し、最初の大陸だけで都市を拡大し続けた歴史。
国家と言えるものが一つしかなく、特に争いもなかったのでそこまでドラマティックな事件も無い。
順調に人口は増え技術は発展し、都市は拡張されていった。
歴史の次は教育カリキュラムの記憶から現代社会・政治・経済カリキュラムの重要事項である。
百合帝国では、生産と社会維持は全て自動化を終えており、貨幣を得るため、生きるために働いていたのは始祖の時代にまで遡る歴史上のことである。
義務教育過程の修了とほぼ同じくして成人と看做される。
成人となったものは、自己実現のため研究や創作に打ち込んだり遊んだり新しいスポーツを作ってみたり…、それぞれの思うように生きるのである。
サヤカとアリスも成人であるのでファーストコンタクトの使節に立候補する権利がある。
ここでアリスが成人であることを知った日本人たちは、彼女の年齢が見た目から推定されるものと異なることを察し大変驚いた。
百合帝国の、アーコロジー群が集まって構成された都市。
百合帝国人は美少女性の追求を文化的土壌とする。
徹底して美貌と知性を増大させた、不老の少女のみの種族である。
女性しかいないので生殖機能は無い。
サイバー技術も好まれ体内に何かサイバーウェアを埋め込んでいるものも多い。
遺伝子操作のみならず、脳内コンピューターで走る人工知性との精神融合も行い、増大した知性をさらに強化させている。
一度口頭でも簡単に説明したが、百合帝国の転移の顛末も再度説明した。
政治についても説明した。
百合帝国では選挙で選ばれた評議会議員が政治家としての仕事を果たしている。
選挙権と被選挙権は、全ての成人の国民が有する。
重要な事項は国民投票である。
アリスは説明と同時にその内容をネットのアーカイブにアップしている。
日本以外にもこの惑星には未接触の文明が存在するのである。
彼らとの初接触時に百合帝国について紹介するために再利用できるかもしれない。
『他の文明との初接触時のための我々の紹介』と、必要とする者がアクセスできるようタグをつけておく。
「さて…、他に何かお知りになりたいことはありますか? 他に詳しい資料をゆっくり検討したいとおっしゃるのでしたら、私たちのヘリコプターで紙にプリントして贈っても構いません…用紙足りるかしら?」
詳細な資料が必要なら百合帝国の教育カリキュラムの現代社会・政治・経済カリキュラムと政府の統計データを得て、人工知能に文章化させて印刷製本して日本側に渡せば問題ないだろう。
「あなた方の言語についてお聞きしたい」
質問したのは同席していた言語学の専門家である。
百合帝国側があっさりと日本語をマスターしたため彼の仕事はあまりない。
「百合帝国では主に旧惑星共通語を使用しています。かつて、始祖の惑星で言語学の知見を集めて今作れる最高に洗練された人工言語をデザインして世界共通語として使用しようということになってプロジェクトが完了して以来、私たちの母語です」
「あなた方の祖先の植民船を送り出した星は今どうなっているのですか?」
「滅んだと考えられています。原因は不明ですが恒星が突然超新星化したようです」
「我々の姿は、異星人同士としては驚くほど似ていますね」
と生物学者が発言した。
「採取した生体組織の解析結果では、私たちの始祖人類と皆さんは間違いなく別な生物です。我々の姿が似ているのは収斂進化の奇跡としか言いようがありません」
質疑応答は続いた。
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