第12話ギルドで他パーティと揉める

 俺と青ちゃんは冒険者ギルドでクエストの案内をしてもらっていた。


「Eランク冒険者でしたら、現在は以上のご案内となりますが、いかがなさいますか?」


 受付嬢が掲示したクエストは、大した見返りもなく、時間効率もあまり良くないものだった。

 まあ、ランクがEだからそれも仕方ないか。


「あの、『天空城の探索』ってありませんか?」

「ございます。ですが、推奨は冒険者ランクはCから、パーティランクはDからとなっておりますので、ミナト様、アオバ様には、弊ギルドとしては推奨いたしかねます」


 だよな。

 Eランクってチュートリアルが終わってちょっと経ったくらいのランクだし。

 あのレベル帯は二〇~三〇後半。

 普通のEランカーがノコノコいってもやられるだけだ。


「また推奨外……もしかして?」


 青ちゃんが心配そうにこっちを見る。


「はい。その、もしかして、です」

「やっぱり!?」

「『天空城の探索』やります」


 天空城とは、とある山伝いに行くことができる空に浮かぶ城のことだ。

 設定では、数千年前の古代技術で浮くことができ、中にはお宝があったり有用なアイテムを拾うことができる、いわゆるダンジョンだった。


 このクエストは、リスクと効率を天秤にかけるとちょうどバランスが取れる上に、大きくレベルアップできる。


「先生が求めている【妖精シリーズ】を作る素材も手に入りますから」

「そうなんだ」

「斡旋は可能ですが、推奨外クエストですので、何が起きても弊ギルドは一切の責任を負いません」

「はい。構いません」


 前の『人面グモ討伐』のときも同じことを言われた。再起不能な大怪我しても仲間が死んでも文句言うなよっていう確認だ。


 受付嬢からクエストの説明を青ちゃんは真剣に聞いている。

 俺は頭の中に攻略法やドロップアイテムなど、大半のデータが入っているので右から左に聞き流していた。


『天空城の探索』は、複数クエストをまとめたもので、討伐クエストが三種類、アイテム回収クエストが二種類ある。

 人によっては途中でやめて何往復もするけど、いっぺんに済ませてしまおう。


 クエストの受領が正式に終わり、俺たちは席を立った。


「おいおい、おまえらか。最近噂のカップル冒険者ってのは」


 ギルドの隅にいた一人の男が俺に話しかけてきた。


「カップル……」


 青ちゃんが照れている。可愛い。


 でも言い方が引っかかる。

 カップルユーチューバーみたいでなんか嫌だった。


 男の周りには仲間らしき人がいる。全員で男四人女一人のパーティのようだ。

 話しかけてきた男は【聖騎士】限定の装備品を身に着けているから、それで間違いないだろう。


「カップル冒険者かどうかは知りませんが、何かご用ですか?」

「【盗賊】と【呪術使い】の低ランクパーティがアラクネを倒したっていうからよ。おまえらだろ」

 だからなんだ、と思っていると、青ちゃんが得意げに胸を張る。

「まあ、はい」

「オレたちと組もうぜ」

「いえ。結構です」


 それじゃあ、と青ちゃんの手を引いて去ろうとすると、男の一人が進路を遮った。

 身軽な動きと装備品からして【闘拳士】で間違いないだろう。


「まぁまぁ、リーダーの話を聞いてくんねえかなぁ」


 青ちゃんが、意見を窺うように俺をちらっと見るので、かすかに首を振った。

 それを悩んでると受け取ったのか、【聖騎士】が続けた。


「悪ぃ話じゃねえはずだ。おたくら二人のパーティなんざ、もう頭打ちだろう。オレたちと組めば、全員がそれぞれ活きる。もっと上を目指せる」


【聖騎士】【闘拳士】の他は【狩人】【白魔術師】【魔剣士】といったところか。

 前中後と攻守のバランスが取れている。良いパーティ構成だけど、突出した要素がないので上級エリアではつまづくだろうな。


「お誘いはありがたいのですが、本当に大丈夫ですので」

「カノジョのほうは【呪術使い】だろう? 【盗賊】風情が守ってやれるのかよ。オレらはよ、パーティは全力で助けるし守る。魔物からも人間からもな」


 男たちの視線が、青ちゃんにばかりさっきからいっているので、なるほど、と内心ため息をついた。

 俺はおまけ、ということらしい。


「ご心配には及びません。きちんと守りますので」

「守られますので」


 青ちゃんがなんかドヤ顔してるけど、ドヤのTPO間違えてない? 今する顔じゃないだろう。


「低ランクがごちゃごちゃうるせえな。従ってりゃいいんだよ」

「だったら、従ってくれる人を仲間にしたほうがいいですよ」

「ったりいな……おい、レグ」


【聖騎士】が面倒くさそうに言うと【闘拳士】がうなずく。


 目の前の【闘拳士】がいきなり俺にスキルを使ってきた。


【三連撃】のエフェクトが発生する。近距離型の連続物理攻撃スキルだ。

 ボンボンボン、と爆裂音にも似た音が響く。

 俺は赤く光った拳を三回ともどうにか回避した。


「危ッ――」

「チ、こいつ――!」


【闘拳士】は【盗賊】の上位互換だと言われることが多い。距離は超至近距離と同じで、一撃の火力より手数で敵を攻撃できるのも同じだからだ。


「何ハズしてんだ、下手くそ!」

「うるさいな!」

「【盗賊】のほうは別に要らねえんだよ。さっさとやっちまえよ」

「わかってんよ!」


 やっぱりそういう魂胆か。


 ギルドが騒然とする中、【闘拳士】が拳を放つ。

 装備からしてレベルは二〇代くらい。

 職業のスペックと仲間のおかげでここまでこれたタイプっぽい。


 攻撃をかわして、ホルスターから【アラクネの毒剣】を抜いた。


「湊くん!」

「大丈夫ですよ、先生」


【白魔術師】もいる。本気で攻撃しても死なないだろう。


 俺は剣を振るい細かく斬撃を放つ。

 目的は状態異常。

 強く重い一撃よりも軽く早いほうが効果がある。


 こっちの【素早さ】は敵と同程度。

 けど、この人は【闘拳士】の活かし方をまだわかってない。

 なら俺のほうに分がある。


 刃が濃い緑色のエフェクトを放つ。


<闘拳士レグに4のダメージを与えた>

<闘拳士レグは[毒]になった>

<闘拳士レグは[毒]で8ダメージを受けた>


 攻撃が当たるとレグは毒状態になった。


「クソッ! ダルいことしやがって!」

「それが【盗賊】の真骨頂なので」


「おい! 毒を消してやれ!」


 と【聖騎士】が言うが、【白魔術師】の女は首を振った。


「【ポイズンクリア】はまだ覚えてないわ」

「チッ、使えねえな!」


 そんなやり取りをしている間に、レグはどんどん毒に侵されていった。


 仲間が回復魔法の【ヒール】を使ってHPを回復するが、根本的な解決にはならない。


【闘拳士】の職業は【盗賊】同様、HP上限が高くない。回復してもしばらくするとゼロが近づいてしまう。


「ヒール、あと五回しか使えない!」

「う、嘘だろっ……! た、助けてくれよ! し、死んじまうよぉ!」


 レグが泣きながら助けを求めるが、仲間は困惑するばかりで誰も対処できないようだ。

 ギルド内での揉め事に第三者は割り込まない決まりでもあるのか、他の人たちは遠巻きに見ているだけだった。


 俺は所持品から【毒消し】を取り出し【聖騎士】に言った。


「これ、一〇万でいかがですか」

「バッ、てめ、ふざけんなッ! 一五〇リンで買えるんだぞ!?」

「そうですね。でも、仲間、死にますよ?」

「てめえが殺すんだろうが!」

「殺すつもりで俺に仕掛けてきたくせに、何を今さら。……あなたも斬られてみますか?」

「イキがるのも大概にしろよ、てめえッ!」


【聖騎士】が剣に手をかけた。


「【闘拳士】の【素早さ】でようやく俺と対等です。俺の細かい攻撃をすべてかわしながら、俺に攻撃を当てられますか?」

「……ッ」

「全員毒殺してもいいんですよ。仕掛けてきたのはそっちだ。文句はないでしょ?」


 俺のハッタリは効いたらしく、【聖騎士】は財布を投げてよこす。

 中を見ると、四万しか入っていなかった。


「足りないですよ」

「勘弁してくれ。これがパーティの手持ちで、今はもうないんだ。そいつを助けてやってくれ……いや、助けてください。この通りです」


【聖騎士】が頭を下げた。


「そんな強い方だと知らず……。ご迷惑をおかけして本当にすみませんでした。だから、どうか……」


 まあ、反省したみたいだからもういいだろう。

 俺は財布には手をつけずに投げ返すとレグに【毒消し】を使った。


「人は見かけによらないので、侮らないことを勧めます。……行きましょうか、先生」


 ひと悶着が終わり、俺たちは冒険者ギルドをあとにした。


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