第20話
やばい。やばい。やばいやばいやばい……っ
夕食を終え一度部屋に戻った俺は頭を抱えていた。
「あきと、どうしたの?」
「大丈夫、あきちゃん?」
そんな俺の様子に、班員の天音と実里さんが心配してくれる。
その二人の手には着替えやシャンプーなど入浴に必要なものが抱えられていた。
そう、今から入浴なのだ。
何が問題かは言うまでもないだろう。
どうしよう?
今までは何故か男だとバレなかったけど、さすがに付いてるの見られたらバレる。
入浴できる時間は決められている。誰もいないタイミングなんてない。
部屋にはお風呂なんてない。
詰んでない?
視界の端に俺と同じように悩んでいる彼方が写る。
彼方も俺と同じ気持ちなんだろう。
彼方と視線が交わる。
彼方が神妙な表情で頷く。
……何か策があるんだな。
俺は彼方に頷き返した。
◆◇◆◇◆◇
四人で浴場へ向かう。
「すみません、少しお手洗いに行ってきます」
彼方が動いた。
彼方の表情を伺うと強く頷く。
「俺もトイレ行くね」
天音と実里は何の疑問を待たずに浴場へ向かった。
「彼方、それでどうするんだ?」
誰もいないトイレで彼方に問いかける。
「反対側にもう一つ浴場があります。そこを使いましょう」
もう一つあったのか。
なんとか切り抜けれそうな雰囲気に歓喜を覚える。
「時間はありません。急ぎましょう」
「うん」
息を殺して長い道のりを進んだ。
そしてようやく辿り着いた。
「誰もいません」
「良かったぁ」
脱衣所に入って服を脱ぐ。
その際に彼方の後ろ姿が見えた。
「彼方って、女性用の下着を着ているんだな。それにブラまで」
「え、あ、はい。部屋には実里さんがいますので」
「なるほど」
彼方の徹底した女性のフリに感心する。
他愛もない話をしているうちに脱衣を終えた俺たちは浴場に入る。
「おお、広いな」
「ですね」
三十人は一度には入れそうな浴場を二人だけで使えるなんて。
今すぐ入りたい欲をグッと抑えて体を洗う。
洗うんだが、その前に一つだけ。
「……彼方、何でそんな離れているんだ?」
聞かずにはいられなかった。
シャワーは三十ぐらい並んでいる。それを二人きりの貸しきり。
流石に一個や二個開けるのは分かるけど、十個も開ける?
彼方の姿が湯気でほぼ見えないんだが。
「……限界なんですっ。これ以上近づくのは我慢できません」
え、俺ってそんなに臭いの?
彼方の言葉に少しだけ……いや、かなり傷ついてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます