第39話 モンスターの相談

 ティータイムも終わり、さっそくクリスさんの家に向かう。複数人でぞろぞろ伺うのは迷惑かと思い一人で向かう。


「おや、コウタ君ではないですか。どうされました」


「相談したいことがありまして、今お時間大丈夫ですか?」


「はい、いいですよ。中に入ってください」


 リビングに案内されテーブルを挟み、向かい合う形で椅子に座る。


「クリスさん、甘いものって好きですか?」


「はい、研究の合間によく食べますね」


「よければこれどうぞ」


 俺は包みに包んだアップルパイを取り出し渡す。


「おお!おいしそうですね。ありがたく頂きます」


「それで相談内容なんですけど、俺の牧場に精霊が住み着きまして」


「なんと!なんの精霊ですかな!?」


 え、そういえば鑑定してないな。なんの精霊かわからない。


「すみません、ちょっと種類までは詳しくなくて」


「どこに住み着いたなどの特徴を教えていただけますかな」


「ガジュマルに住み着いた赤い髪色の小さい女の子です」


「ふむふむ、それは植物系の精霊の一種であるキジムナーだね」


 へぇ、キジムナーっていうんだ。植物系って感じはあんまりしなかったな。


「植物系の精霊の一種ってことは他にもいるんですか?」


「確認されているものでほかにコロポックル、ドライアド、トレントがいるよ。植物系の精霊は精霊樹に宿る精霊のことを指すよ」


「つまりガジュマルが精霊樹ってことですか」


「厳密に言うと違うよ。キジムナーによって精霊樹がガジュマルの形になったが正しい。キジムナーが住み着くまでなんの植物かわからなかったんじゃないかな?」


「そうですね。鑑定では謎の植物と表示されてました」


「精霊が精霊樹を見つけると自分の好みの形に変える。キジムナーだとガジュマルのようにね。いや~それにしても精霊樹を良く育てたね。あれは周囲に多くの種類の植物が存在する必要があるうえ魔素を多く含む土壌が最低でも必要だからね。そもそも精霊樹の種自体が珍しい代物だ。あれはある程度育ちそうな環境に気まぐれに出現するものだからね。まぁ育たないことがほとんどだけど」


 えぇ……。精霊樹はそれでいいのか?育つ条件が一部でも満たされていたら試しに種を置いといてほとんど失敗しているって。まぁ俺が気にすることではないか。


「そうなんですね。それで肝心の相談内容なんですけど、モンスターがこれから出るようになるのではないかと思いまして対策はどうしたらいいのか聞きたいです」


「ああ、なるほどね。今はキジムナー一体だけなんだよね」


「……はい、一人だけです」


「それならあまり魔力を持っていないモンスターくらいしか寄ってこないと思うよ。前に言ったと思うけどモンスターだから凶暴ってわけではないよ。それでも中には凶暴な奴もいる可能性はあるけど。対策ならハンター協会の誘致だね。ハンター協会っていうのはモンスターを専門として狩りや調査を行っている機関だよ。ただこれについては君個人でできるものではないね。村長に話してみるといいよ。私の方から伝えてもいいけど」


「ハンター協会ですね。村長に話してみます。個人でできることってありますか?」


「うーん、モンスターと言っても様々だからね。モンスターによって対策は異なるから。実際にどういうモンスターが出るか確認してみないと何とも言えないね」


 そうか、モンスターと言っても色々な種族がいる。これじゃあ漠然としすぎていて対策を立てようがないのか。


「そうなんですね。それじゃあ様子見するしかないですね」


「そうだね。モンスターのことはプロのハンター協会に任せるのが一番だよ」


「ハンター協会ってあんまりわかってないんですけど」


「ハンター協会は加盟国で運営されているモンスター専門組織のことさ。モンスターが集まる魔素の濃い場所は以前説明したよね。まず魔道具のインフラが整っている都市。龍脈のある場所。精霊のいる場所。この中でモンスターの対処が必要なところがどこかわかるかな」


 モンスターが集まって困るところは人が住んでいるところだよね。


「都市ですか」


「そうだね。そういった都市でのモンスターの対処は国が主導していることがほとんどだ。でも人が生活していくうえで必要になる資源というのがあるだろう?その資源は龍脈や精霊のいる魔素の濃い場所でしか採れないようなものも存在する。もしくはモンスターの一部が資源の場合もある。そういったところにも国が主導することもあるにはあるがなかなか手が回りにくい。モンスター以外にもやらなければいけないことが国にはあるからね。そういう同じ悩みを抱える国がいくつもあった。そこでそれぞれの国から出資して新たにモンスター専門の組織を立ち上げたんだ。細かい決まりとかは今はどうでもいいから省くけど、加盟国の中でこの村のように小規模で人が住んでいるところに精霊が住み着いた場合はハンター協会を誘致するのが普通だね」


「あれ?それでは俺が言わなくてもそのうちハンター協会が来るのではないですか?」


「誰かが気が付けばそうなっていたね。私もフィールドワークをしているからいずれモンスターは発見していただろうし。しかし、ハンター協会を誘致する猶予がないという状況もありえたよ。凶暴なモンスターに村を囲まれていて対処できるものがいないとかね。その場合、最悪精霊を追い出していたかもしれないね。精霊の住処を破壊して精霊をここから追い出せば自然と魔素濃度も下がっていきモンスターがいなくなるからね」


 あー……放置してたらフレイヤが追い出されてたのかな?それに俺の牧場にいるのに放置は印象も悪いよね。あれ?精霊を追い出せばハンター協会が動く必要なくなるならそれでいいのでは?俺は嫌だけど。


「最初から追い出す選択にはならないのでしょうか?」


「うん、先ほども説明したけど新たな資源が採れるようになるからね。安全でいられるなら利益のある方を選ぶのが人間さ」


 まあ利益があるなら精霊にいてもらった方がいいよね。なんなら精霊を呼ぶために精霊樹を育てる国とかあるんじゃない?


「精霊を呼ぶために精霊樹を育てる国とかないんですか?」


「あったね。どこも失敗したけど。そもそも精霊樹の種が希少なものだし育てるのも大変。仮に育っても精霊が来るかもわからない。そんな精霊樹を育て維持するコストをいつ来るかもわからない利益のためにかけ続ける必要がある。精霊樹以外にも精霊がくるものはあるがどれも似たようなものさ。それに精霊がくると環境が変わる。下手したら人が住めない環境になる可能性もある。コストが莫大にかかるうえ大損害になる可能性もあることを考えると苦労に見合わないから今ではどこも手を引いてるのさ」


 なるほど。国が自分たちで用意するには割に合わないんだ。でもそうなると今回の俺の牧場は国が欲しがったりしないのかな?変に絡まれたりするのは嫌だぞ。


「あの俺の牧場をよこせって国に言われたりしないですか?」


「その辺は大丈夫だよ。精霊ってのは環境を見て自分が住みたいか決めている。この環境にはそこに住んでいる生き物、つまり人間も含まれる。過去に精霊が住み着いた土地を国が買い取り、国が管理を始めると精霊がいなくなっていたという話は有名だ。だから精霊の関係者に干渉し未来の利益を失う可能性を恐れてる国は言ってこないだろう。もちろんこの国は言ってこないよ。なんなら下手に他の誰かに刺激されないように牽制してくれるんじゃないかな」


 なるほど。それじゃあその辺は心配しなくてよさそうだ。他に聞きたいことは……今は思いつかないな。いや~色々とお話を聞けて良かった。

 それからクリスさんと少し雑談をして解散することにした。さて、村長に精霊の件を伝えて今日は終わろうかな。

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