第36話:武具店の鍛冶師

「ダジールさん! おはようございまーす!」


 武具店に入って早々、クレアが大きな声で挨拶をした。


「なんだ、朝っぱらか騒々しい」


 すると筋骨隆々の大柄な男性が奥の扉から姿を現した。


「お久しぶりです」

「なんだ、クレアの嬢ちゃんか。……なんだ、そっちの坊主たちは」


 顔見知りの二人がやり取りを終えると、ダジールと呼ばれた男性が太一たちへ怪訝な視線を向けた。


「お、俺たち、新人冒険者で迷い人の弥生太一です!」

「鈴木勇人です!」

「榊公太です!」

「迷い人? ……あぁ、お前たちか、最近話題になっている新人冒険者ってのは」

「「「……話題?」」」


 ダジールが話題の新人冒険者と口にすると、三人は顔を見合わせてから疑問の声をあげた。


「なんだ、知らねぇのか?」

「タイチ君たちは受けた依頼を一生懸命こなしているだけだから、耳にしてなかったのかもしれませんね」

「えっ? クレアさんも知っているんですか?」

「もちろんよ。丁寧に仕事をこなす、Fランク冒険者の鑑! なんて言われているのよ?」

「うげぇー、俺たちには似合わねぇって、そんなもん」

「だ、だよね。なんだか恥ずかしいもん」


 あからさまに勇人が嫌な顔をすると、公太も恥ずかしそうに笑う。


「がははははっ! なんだ、坊主たちは噂されるのが嫌なのか!」

「嫌と言いますか、別に褒められるようなことをしているつもりはないですし……なあ?」

「普通に仕事をしているだけだもんなぁ」

「うん。だからFランク冒険者の鑑とか言われるのはちょっと……」

「がははははっ! うん、それくらい謙虚であれば問題ないな!」


 太一たちの反応を見ていたダジールが再び大笑いすると、ダジールは何度も頷きながら最後にはクレアを見た。


「クレア、坊主たちに装備を選びに来たんだろう?」

「はい。外の依頼を受けるにはあまりにも物足りない装備なので」

「そうなの? 持っている服の中でも厚手でいいやつを選んだつもりなんだけど」

「おいおい、タイチの坊主。そんな布くらいなら、魔獣の牙や爪で裂けちまうぞ」

「裂け!? ……でもまあ、そうだよな」

「というわけで、私がきちんとみんなに合った装備を見繕ってあげるからね!」

「「「よ、予算は一人1万ジェンでお願いします!」」」


 太一たちが予算を口にすると、ダジールはクレアに視線を向けた。


「なんだ、ギルドから出るんじゃねぇのか?」

「出そうと思っていたんですけど、あまり借りを作りたくないみたいで」

「「「借りじゃなくて借金です!」」」

「がははははっ! そりゃそうだな! だがな、坊主たち。冒険者ってのは危険な場所に向かうことも多い職業だ。満足いく装備を手にできる機会があるってのに、それを手放すのは冒険者として半人前以下だぜ?」


 ダジールがそう口にすると、太一たちは顔を見合わせてから表情を曇らせる。彼の言っていることはもっともであり、スローガンである『いのちだいじに』を実行するなら、先達の言う通りにするべきだと思うようになった。


「だから最初に言った通り、足りない分はギルドから支払いから、いいわね?」

「「「……はい」」」

「なんだ、そういうことだったのか」

「あまり納得している様子じゃなかったんですよ。でも、ダジールさんが説明してくれてよかったです」

「噂の新人冒険者が死んじまったら、困るのは都市の奴らだからな! がははははっ!」

「そこは笑い事じゃないんですよねー」


 笑い上戸なのか、何度目かになる大笑いをしたダジールを見て、クレアは最後だけ苦笑いを浮かべた。


「んじゃあ俺は奥で作業をしてるから、決まったらまた声を掛けてくれ!」

「分かりました」


 ダジールが奥の部屋に下がっていくと、クレアは太一たちへ向き直り声を掛けた。


「それじゃあ、装備の大事さは分かったかな?」

「「「……はい」」」

「よろしい。変なプライドのせいで死んじゃったり、大怪我をしたら勿体ないでしょ? ダジールさんも言っていたけど、満足いく装備を手に入れられる時に手に入れる、それが大事なんだからね?」

「「「……はい!」」」

「うんうん、元気が戻ってきたみたいね」


 ようやく気持ちを切り替えることができた太一たちの元気が戻ったのを見て、クレアも満足そうに頷いた。


「それじゃあまずはみんながどうやって動くか、それを想定しながら装備を選んでいきましょう」

「「「……か、考えてなかったです!」」」

「そっかー、まずはそこからだったかー」


 太一たちが正直に答えると、クレアは苦笑いしながら軽く頭を抱えていた。

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