041 南部の調査

 翌朝。

 今日も今日とて一番に目が覚めた。


(この島に来るまで朝は苦手だったのに……不思議なものだな)


 むしろと毛皮の布団から出たところで、格好がパンイチだと気づいた。

 制服やインナーシャツは洗濯している。

 パンツも洗ったが、これだけは焚き火で乾かしておいた。


 女性陣も同じ格好で寝ている。

 肩が凝るということでブラはしていない。


 俺は腰蓑を纏って外に出た。

 空模様を確かめ、洗濯物の濡れ具合を調べる。


「さすがにまだ濡れているな」


 洗濯は夜に行う。

 そのため、翌朝では生乾きもいいところだった。


「保存食も調べておくか」


 麻里奈と吉乃が作った俵を開ける。

 中には様々なドライフルーツが入っていた。

 薄くスライスしたバナナやリンゴが大半を占めている。

 これらはアースオーブンで燻製にして作った。


「問題なさそうだな」


 臭いを嗅ぐ限り腐っているようには感じない。

 洞窟の奥にはアナグマ肉の備蓄もある。

 これだけの食料があれば数日は耐えられるだろう。


(今日の朝食後にでも提案するか)


 今まで後回しにしてきた未開拓地域の調査。

 それをする絶好の機会である。


 ◇


「そろそろ余裕が出てきたし、周囲の探索を本格化させたい」


 朝食時、俺は提案した。


「周囲っていうと……」


 吉乃が俺を見る。


「セコイアの南部や東部のことだ」


 現在、俺たちが把握しているエリアは殆どない。

 セコイアの西北西から南西までの範囲のみ。

 あとは兵藤の集落に入った都合で北側も少しだけ。


「ではその任務、私とジョンが引き受けた!」


 千夏がハスカップを何粒か放り投げる。


「グルルーン!」


 ジョンは素早く首を動かして上空でパクリ。


「いや、探索は俺が一人で行う。千夏はいつも通り食料の調達を頼む」


「ちぇ、分かったよ!」


 ジョンが仲間に加わって以降、千夏の仕事は変わっていない。

 アナグマの捕獲と罠の更新、あと果物の調達も。

 それらが済むと、余った時間を弓術の訓練などに費やしている。


 ジョンは彼女の作業をサポートする係だ。

 全身に籠や土器を装備して荷物持ちを担当している。

 さながら馬やラクダのような扱いだが本人は嬉しそうだ。


「今回は洞窟から真っ直ぐ南下し、温泉を越えてそのまま川まで行く。そしてそこから振り子のように動いて東に向かい、日が暮れる頃に戻ってくる予定だ」


「じゃあお昼は一人で食べるの?」と明日花。


「そうなる」


「残念! 美味しいパスタを作ろうと思ったのに!」


「パスタなら昨日も食べたから十分さ。塩の使いすぎには注意してくれ」


 余談だが、玄米粉のパスタ麺は想像を凌駕する美味さだった。

 トマトソースのクオリティが高かったのも影響しているだろう。


「そんなわけでメシを食ったら俺は出ていく。今日は吉乃が代わりに指揮を執ってくれ」


「分かった。現状維持に努めるね」


 皆の理解を得られたので食事を堪能する。


(仲間が優秀だと快適だな、マジで)


 グループの雰囲気もいいし、本当にいい仲間を持った。

 どこぞのHIP-HOPみたいだが、彼女らとの出会いに感謝である。


 ◇


 朝食が終わり、軽く雑談をしてから洞窟を発った。

 装備は柄の付いた石包丁と弓、保存食など最低限の物のみ。

 石包丁と弓は腰に装着し、残りは藁のウェストポーチに入れてある。


「よくもまぁ藁でウェストポーチなんぞ作ったものだ」


 製作者は麻里奈だ。

 彼女は手元にある材料から色々と作る。

 さすがは内職大臣だ。


「お、今日も満員だな」


 温泉にやってきた。

 七瀬と出会った場所でもある。


「キュルー!」


 今日は無数のカピバラが湯船に浸かっていた。

 この上なく気持ちよさそうな顔で、銅像のように固まっている。


「思えばここから先は七瀬の情報でしか知らないんだよな」


 足跡を注視しながら温泉を突っ切る。


「カピバラやサル以外だと……」


 シカとウサギの足跡がある。


「この島はそこらに野ウサギがいるな」


 呟いたところで人間の足跡を発見。

 数は1名――七瀬のものだ。

 少し古いのは、俺たちと出会う前の足跡だからだろう。


「七瀬の言っていた通り他には人がいないみたいだな」


 周囲には代わり映えしない景色が広がっていた。

 アナグマやオオアルマジロの巣穴だって散見される。


「とりあえず――」


 前方を眺める。

 いつの間にやら木々が消えて川が広がっていた。


「――休憩していくか」


 セコイアの南西に位置する川だ。

 俺たちと出会う前、七瀬が水分補給に利用していた。

 なので水質は問題ないと思うが……。


「念のために調べておくか」


 いつものマグカップで検査する。

 結果は問題なし。


 俺は川辺の大きな岩に腰を下ろした。

 ポーチの中から小さな藁の束を取り出す。


 藁には納豆ならぬアナグマ肉が包まれていた。

 サイコロ状にカットしてあるので、一つずつ指で摘まんでパクパク。

 冷めているけど、脂身が多いおかげで柔らかくて美味しい。


(この川、水源地はどこなんだろうな)


 川の始点となる水源地は、地球だと山が一般的だ。

 故に、山のない『ツバル』という国には川が存在しない。


 しかし、この島には山らしきものが見当たらなかった。

 かといってダムがあるわけでもない。

 川がどこから始まっているのか予想できなかった。


(地球人に最適な環境なのに、細部では地球と全く違う……)


 異世界とは不思議なものだ。

 一人で物思いに老けながらそんなことを思う。

 その時だった。


「ん?」


 気配がしたので顔を横に向ける。

 すると、約10メートル先に――。


「うわぁ! こっちに向いた! やっぱり人だよ! 人ぉ!」


 ――知らない女子高生の二人組がいた。

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