異世界の無人島で美少女たちとスローライフ ~極めたサバイバル能力で楽しく生きます!~

絢乃

001 プロローグ

 高校三年になった途端、皆は受験勉強モードに突入した。

 頭の中は卒業後のことでいっぱいだ。


 そんな中、俺――冴島海斗さえじまかいとは全く違うことを考えていた。


(無人島で生き延びるための能力を高めねば……! もっと……!)


 俺はサバイバル生活に憧れている。

 幼少期に無人島を開拓する番組を観たのがきっかけだ。

 以来、ずっとサバイバル訓練をしてきている。

 もちろん今日だってこれから行う。


 昼休憩が始まると、俺は狂った速度で弁当を平らげた。

 周りの「またかこいつ」という目を無視して教室を飛び出す。

 中庭に到着したら素早く周囲を確認。


「誰も見ていないな! 今がチャンス!」


 学生鞄を開けて火おこしの道具を取り出す。

 複数の窪みがある木の板と専用の棒……歴史の教科書でよく見る物だ。


 棒を板の窪みに押し当てて、両手で左右にシコシコと回転させる。

 それによって生じる摩擦熱を利用して火を熾す。


 〈きりもみ式〉と呼ばれる方法だ。

 最も原始的であり、それ故に簡単な仕組み。

 しかし、実際にこの方法で火を熾すのは難しい……が、俺は余裕だ。


「うおおおお!」


 適切な力で火きりぎね――棒のこと――を回した。

 板の窪みが削れ、熱を帯びた赤黒い木屑=火種ができる。

 それが窪みの手前にある切れ込みに溜まり、細い煙が上がり始めた。


「そろそろだな……!」


 板と棒をのかせた。

 今しがた作った火種は、事前に敷いた葉の上にある。

 あとは葉っぱに乗っている火種を持参した綿わたに移して――。


「フー、フー」


 と、息を吹きかける。

 すると、綿が一瞬にして燃え上がった。


「タイムは!?」


 ただちにスマホを確認。

 ストップウォッチのアプリには59秒と書いていた。


「しゃー! 新記録更新! ついに1分をきったぞ!」


 ガッツポーズをする。


「こらぁ! 冴島ァ! お前何度言ったら分かるんだ!」


 生徒指導の男性教師が近づいてくる。

 決して素行の悪くない俺だが、火熾しのし過ぎで顔を覚えられていた。


「すんません!」


 慌てて鞄の中に道具を詰め込む。

 俺の学生鞄には、他にもサバイバル道具が入っている。

 いつでも無人島で過ごせるように準備万端だ。


「それではまた明日の昼に!」


「明日じゃねぇ! もう10月だぞ! 受験勉強をせんか!」


「気をつけまーす!」


 捕まる前に撤退だ。

 とまぁ、こんなことをしているため友達がいない。

 かといって、「陰キャ」と呼ばれるタイプとも少し違う。

 周りからは純粋に気味悪がられ避けられていた。

 目を合わしちゃダメなタイプのヤベェ奴――それが俺だ。


(時間には余裕があるし、次は木登りの訓練もしておくか)


 運動場に行こう。

 そう考え、廊下を歩いて下駄箱に向かっている時だ。


「ウッ……! なんだ……!?」


 突然、激しい頭痛に見舞われた。

 立っていられないほどの痛みで思わずうずくまる。


「頭が割れそう! 痛い痛い痛い!」


 他の生徒も同様の被害を訴えていた。


「なんだお前たち!? どうしたんだ!?」


 教師の声がする。

 顔は分からないが、セリフから察するに無事みたいだ。

 生徒だけが痛みに苛まれている様子。


「何がどうな――……」


 痛みが限界を超え、俺の意識は途絶えた。


 ◇


 謎の頭痛によって俺は保健室に運ばれ……なかった。


「なんだ? ここは……!」


 目を覚ました時、俺は大草原のど真ん中にいた。

 背後には世界屈指の樹高を誇るセコイアの木が一本だけ生えている。

 それにもたれる格好で座っていたようだ。


 隣には学生鞄が置いてあった。

 中にサバイバルグッズや空の弁当箱が入っている。

 俺の物だ。


「夢にしては感覚がリアルだな……」


 ベタではあるが、頬をつねると痛みがあった。


「それに……」


 肩にちょこんと座る小動物を見る。


 エゾシマリスだ。

 シマリスの中でも珍しい種で、生息地が限られている。

 日本だと北海道にしかいない。


「北海道にセコイアの木は生えていないはず」


 植生や野生動物から考えを巡らせるが分からない。

 俺の知る限り、今の状況に合致する場所は存在していなかった。


「そうだ! スマホ!」


 文明の利器を思い出してポケットをまさぐる。

 幸いにもスマホが入っていた。


「圏外……だと……!?」


 今は多少の無人島ですら電波が繋がる時代。

 それが圏外なのだから異常だ。


「上履きを履いたままだし……意味が分からん」


 ただ、するべきことは分かっている。


「生活基盤を整えよう」


 死んでしまっては意味がない。

 細かいことを考えるのは落ち着いてからだ。


 俺は立ち上がった。

 意識を失う前――都内に比べて明らかに暑い。

 さながら真夏の如き猛暑なのでブレザーを脱いだ。


 肩のシマリスがぴょーんと飛ぶ。

 セコイアの木にしがみつき、カサカサと上っていった。


「折角の機会だ! 試してやるぜ、俺のサバイバル術を!」


 ブレザーを腰に巻いて歩き出す。

 不安や恐怖もあるが、同じくらい心が躍っていた。

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