第33話 ユンside ①

ユナに、どうしてアミの事を言ったのかな。

探りを入れたかったのかもしれない。


ユナは好きな方だ。

だけど、恋愛感情とはちょっと違う。

俺には、〝アミか、それ以外の女〟の2種類しかない様だ。




高校1年の恒例行事、球技大会が1月の末日にあった。


俺はバスケの試合に出された。

決勝戦。

7組対1組。

1年の夏に俺のファンクラブが出来たらしい。

キャーキャーと名前を呼ぶ声が聞こえる。

1組の中にも自分のクラスを応援しないで、俺の名前を呼ぶ者が沢山居た。


試合が始まって、俺とは違う名前を叫ぶ声に気が付いた。

気になって見て見ると、1人だけスポットライトを浴びている様に光って見えた。

そいつは1組の奴で、目が合わなかった。


どこ見てんだよ?

無性に腹が立つ。

存在に気付かせたかった…。


俺が何点入れても、そいつは残念そうな顔をした。

自分のクラスの応援に徹してやがる。

どうしたら目が合う?

俺を見ろよ。


スリーポイントのチャンスが来て、難なく決めた。

咄嗟に顔を見ると、目が合った。

口が “すごーい” と動いたのがわかった。


満足だった。


アミは顔がタイプだ。

世間一般的にレベルがどうなのかは分からないけど、単純に


――顔がすごく好きだった。




朝練が終わって、部室から自分の教室に移動する間に1組の教室がある。

毎日、中をチラ見して通った。

最初の2日は見つけられなかった。

3日目に、奥の窓側の席で本を読むアミを見つけた。


――本を読む横顔が美しかった。




2年になって同じクラスになった。

おまけに隣の席。

[近づく方法]を必死に探した。



「なぁ、シャーペン貸してくんない?」



あの時…ふで箱、忘れてなんか無かったよ…。


新しい消しゴムを何の躊躇も無く折る姿を見て

“あぁ、こいつは、目の前のことに誠実に向き合う良いヤツなんだな”

って、もっと好きになった。


――顔も性格も最強って何なんだよ。



その日は特に風も強かったから、どうしても教えたかったんだ。

俺のお気に入りの場所を…。


好きな人と共感する事が、ただ笑うことが、こんなに幸せな事だなんて今まで知らなかった。

ずっと一緒にいたいと思った。




シャーペンにメモを入れるなんて…


(必死かよ!俺!)


まぁ、すぐには見ないよな。

分かってたよ。

だけど、1週間もかかるとは正直思ってなかった。


うちの親はどちらかと言うと放任主義だ。

ただし、バスケ以外だけ。

毎日ろくに飯も食わないで慌てて出て行っては23時過ぎに帰ってくる。

そんな事を5日も繰り返していたら、さすがに母親が黙っていなかった。



「ちょっとユン!あなた最近遅くまで何してるの!?部活が厳しいんだからちゃんと食べて疲れも取らなきゃ!悪い人にでも捕まってるの?」


「そんなんじゃないよ。」


「プロになるには素行も大事なのよ?キャプテンになってプロになる以外の道は無いんだからね!?」


「わかってるよ。」


「ちゃんと食べてちゃんと寝る!それが出来なきゃ」


「わかってるから!」


母親に怒られながら

(あぁ、シャーペンの芯抜いとけば良かったな。気付くの遅え。)


とか考えてた。



その2日後、アミとは無事に会えたが

その一晩のことが翌日には広まっていて、それには正直驚いた。


監督からは日頃から言われてた。


「ユンは、何十年に1人とかいうスター選手になるかもしれないな。プロと言うのは、実力だけではダメなんだよ。カリスマ性と人気も必要な要素なんだ。ユンにはファンクラブがあるな?」


「僕にはよく分からないんですけど…そうみたいですね。」


「良いことだよ。今の所3年になったら4番を背負ってキャプテンにと思っている。」


「ホントですか!?」


「このまま頑張りなさい。」


だから、人気がある事が有り難かったけど

時には面倒なんだな…。


ファンの人達は良い人の方が多い。

だけど、中には最悪なのも居て

そんな奴からアミを守らなければならない。

奇跡的に幼馴染のソジンとデヒョンが同じクラスだったから協力して貰う事にした。


まずはグループを作り一緒に行動する。

アミへの外部の接触をなるべく減らして、目を離さない。

これは、俺のただの願望か?

いや、必要な事だ。


そして次に

ソジンとデヒョンに次の事を広めて貰った。


[アミと接触した者、悪口や嫌がらせをしたも者はファンクラブから永久追放。ユンと一言も話せない。守ってくれた人には特別に、何かがあるかもしれない。]


ソジンとデヒョンも人気があって人脈も凄かったから、あっと言う間に広まった。

これはかなり効果があった様だ。

特に何もしてあげなかったけど…。


ジアンとソアも面白い良いヤツだったから一緒にいて楽しかった。

最初は即席だったかもしれないが、6人で居て楽しかった。



アミはかなり分かりやすい性格をしていて、すぐに自分の事が好きだとわかった。

嬉しかった。

からかったり構う事が楽しい。

いちいち反応するのが可愛かった。

毎日楽しくて浮かれてた。



春の大会の後、監督に呼ばれた。


「どうした?最近プレイにムラがあるな。何か悩み事か?」


「いえ。大丈夫です。」


「キャプテンでエースというのはメンタルが強い者しか出来ないんだ。いつもでもムラ無く同じでないといけないんだよ。」


「はい。」


「精神を磨かないと、キャプテンの座を奪われるぞ。」



怖かった。

プロになるのが俺に与えられたたった1つの道なのに。

両親の夢も背負っている。

いま、こんな所では壊せない。



そう思っていたのに遠足で奇行に走ってしまった。

いついかなる時も一緒に居たい。

気付いたら手を掴んで走っていた。

同じ気持ちなのが嬉しかった。




皆んなの前では平気なフリをしてたけど、本当は家に帰るのが憂鬱だった。

帰ると思った通りの展開が待っていた。


家の中は真っ暗。

明かりも点けずに、リビングのソファーに母親が座っている。


「何してんの?」


静かに言われてギクリとした。


「ごめんなさい。」


「誰なの?ここに連れて来なさい。謝ってもらわないと。」


「俺が悪いんだよ。」


「あれだけ素行が大事だと言ってるのに何してるのよ!まさか付き合ってないわよね?」


「付き合ってない。」


「いまは、バスケだけしてなさい。恋愛なんて大人になってからで良いの!プロになったらいくらでも出来るんだから!もし、キャプテンになれなかったらその子許さないわよ!」


「わ、わかったから。」


「毎日夜出るのも禁止よ。絶対にその子に会いに行かないで。あなたにはバスケだけなのよ。プロになるまでだから。…わかったわね?」


「……うん。」



俺のファンだと言う奴らには、分からないだろう。

家ではこんな、地獄の様な呪縛に取り憑かれているなど。

恋愛もまともに出来ない。


厄介なのは、それは俺の夢でもあるという事だった。

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