第二章・大学時代

第29話 新生活


高校を卒業すると、父親が単身赴任から帰って来た。

あちらで何かを成功させた様で、出世してソウルの支社に行くらしい。



「お父さんやるじゃん!おめでとう!」


「ありがとう。アミも大学合格おめでとう。」


「うん。ありがとう。」


「まあ、今月でお父さんは帰って来れる事になったたんだけど…アミにどうしたら良いか、その…聞きたい事があるんだ。」


「何?」


「この家を引っ越そうと思っているんだ。」


「引っ越し?」


「うん。この家も長く住んでいるし更新のタイミングだからこの際…会社にも大学にも近い所に引っ越しするのはどうかと思ってね。どうかな?嫌なら無理にと」


「良いよ!引っ越ししよう!」


父親の言葉を遮る様に答えた。


「そうか。賛成してくれるか?」


「うん、近くなるならその方がいいし、あの辺りならバイトも沢山ありそう!」


「そうだね。確かに。あ、そうだ合格祝いに欲しいものは無いか?」


「欲しい物はあるけど…」


「いいよ?言ってごらん?」


「ノートパソコンが欲しい。動画編集とかしてみたいから。」


「ノートパソコンか。それは必要じゃないか?買ってあげるよ。」


「ほんと!?ありがとう! あ、あと、お願いがあるんだけど…。」


「うん、何だ?」


「携帯番号を変えたいんだよね…。」


「携帯番号!?」


「うん。ダメかな?」


「じゃあ、近いうちに携帯ショップに行こう。」


「お父さん!ありがとう!」



こうして私は新しい番号のスマホを手に入れ、新しい土地で新生活をスタートさせる事になった。



――――――――――――――――

入学式も終わり、講義の始まるこの日。

私は緊張と期待で胸が張り裂けそうだった。


今日から通うこの大学は、大学全体が映画のセットの様で心が踊った。

大学のあちこちで撮影ができる様になっていてどこを見ても映画の中に居るみたいだった。

どんな授業が受けられるのか楽しみで仕方がない。

この大学は、映画学科だけでは無く映像メディアを学ぶ学科や、俳優学科やさまざまな学科があり、色んな人が通っていた。


―――――――――――――――

(う〜ん。どこに座ろうかなぁ。)


どの席に座ろうか迷っている時にふと声をかけられた。


「これ、君のじゃない?」


振り返ると、すらっとした長身の優しい表情の男子が、私にある物を差し出した。


「あ!私のです!」


私の学生証だった。


「良かったぁ!1階の自販機の前に落ちてたよ。」


(あ!あの時!)


あまりの緊張に喉が渇いて水を買った時に落とした様だった。


「ありがとうございます!すみません!」


何度も頭を下げた。


「やだなぁ!やめてよー!緊張してるでしょ?」


と、大笑いされた。


「同級生なんだから敬語はやめてね。僕、チョ・ウソク。よろしくね!」


「私は!キム・アミです。よろしく…ね。へへっ。」


「先生来ちゃうから、一緒に座ろ。」


「う、うん。」


――――――――――――――――

「講義が一個しかなくなっちゃったね。こんな事あるんだ(笑)」


「お陰で時間できたね。」


「時間割り似ててびっくりしちゃった(笑)」


「運命かもよ?」


「え?」



思いがけず時間が出来て、一緒にお茶でも飲もうとカフェに来ていた。



「田舎から出てきて知り合いも友達も居ないから、実は僕も緊張してたんだ。なのに、初日からこーんなに可愛い女の子とお友達になれるなんて、僕ってとってもラッキー!」


そう言うと口を大きく開けて笑った。


「ウソクくん面白い人だね(笑)」


「アミちゃんは可愛いね!」


「あ、ありがとう…(焦)、ウ、ウソクくんは今どこに住んでるの?下宿?」


「うん、南部ターミナルで下宿してるよ。」


「え!?嘘でしょ?私の家も南部ターミナルだよ!」


「えーー!!!?ほんと!?」



――――――――――――――――

「ねぇ。こんな偶然あり??」



ウソクが私の住むマンションを見上げて目を見開いている。

何と、ウソクの下宿しているアパートの隣に立つのが私の住むマンションだった。



「なんかもう、怖くなっちゃうね(笑)」



「あら、おかえり。この方は?」


(う。お母さん…)


買い物帰りの母親に声をかけられた。

紹介しようとした時だった。


「もしかして、アミさんのお母さんですか?」


「えぇ、そうです。」


「初めまして。僕チョ・ウソクといいます。今日大学でお友達になりました。よろしくお願いします。」


と、頭を下げた。


「あらぁ!しっかりした良い子ねぇ。」


「ありがとうございます!僕アパートに下宿してるんですけど隣だったんです。」


「え?どこ?どこのアパート?」


「あそこです!」


ウソクが母親に、建物を指先し自分の住むアパートを教えた。


「今日、偶然知り合ったのに住む所が近過ぎて驚きました!」


そう言うと大きな口で笑った。


この人には人を惹きつける魔法の様な物がある。

母親も、その魔法にかかった様だった。



「ウソクくん、これからご予定は?」


「特には何もありません。」


「あら、じゃあ、ご飯食べて行きなさい?」


「良いんですか?」


「もちろん!」


「ありがとうございます!」


勢いよく頭を下げた。


――――――――――――――――

「僕、何か手伝います。」


「良いのよ。座ってなさい。」


「運んだりしますから言ってください。」


「もう〜。ホントにいい子ねぇ。ウソクくんを住まわせたあのアパートはラッキーだったわね。何も心配無いもの。」


「ありがとうございます。へへへっ。」


――――――――――――――――

食事が終わっても私よりも母親と楽しそうに話しをしてくれるウソクに好感を持った。


(お母さんがあんなに笑って楽しそうにするなんて…)



 

ウソクって人はきっと太陽の様な人だ。

彼の光を浴びた人はどんな人でも、温かく朗らかに楽しい気分になるだろう。



それに比べてあの人は………



私の心の暗闇に光輝く『月』だ。



いつまでも静かに冷たく輝き続ける月…。




ユンくん…


「はぁ…。」



「アミちゃん?ため息なんかついてどうしたの?大丈夫?」


「あぁ。うん、何でも無い!大丈夫だよ(笑)」


気付くと、お守りで着けていたブレスレットの月のチャームを指で摘んで触っていた。


(ユンくん元気かな。)


――――――――――――――――

「明日から一緒に学校行こうよ。」


「うん…。そうだね…。一緒に行こう!」

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