第21話 切磋琢磨

 やはり、ユンの母親は相当怒ったようだ。

毎日晩御飯を食べてから出て行く事も持ち出され、自粛する様言い渡されたらしい。


「毎日、電話なら出来る。」


と言ってくれて

(やっぱり優しいなぁ。)

と嬉しくなった。


私の方も読書感想文の為の読書をしなくてはならない。


「お互い頑張ろうね!」


と、別れた。



――――――――――――――――

中間テスト期間に入り、それでもユンの母親は手を緩めず外で勉強することを許さなかった。


「友達とやりたいなら家に呼びなさい。」


さすがに女子3人が押しかける訳にもいかず、

静かに中間テストが終わった。




6月に入りバスケ部は本気モードに突入した。

7月から地区予選が始まり、それに優勝出来れば夏休みに全国大会となる。

地区予選に優勝すると、冬のインターハイ出場権を手に入れられるので二重に大事な大会だった。



ユンと私は、疲れていても寝るまでの間たとえ短時間でも、毎日電話をする事にした。

練習で上手く行かなかった自分への怒りや、部員との面白かった話しなどを聞いたり、ミーティングの進み具合などを話した。


話し終わると切りたく無くて沈黙になる。

『好き』って言葉を言ってしまいそうになって違う言葉を探す。

迷って沈黙になると必ず



「すー…、すー…、すー…、」



ユンは寝てしまった。

私はその寝息を聞きながら眠る。


朝、ユンの部屋の目覚まし時計の音で一緒に起きる。


「もしもし?起きた?」


「もしもし、うん。おはよ。」


「また寝ちゃった。ごめん。」


「これ、結構好きだよ。朝練、頑張ってね。」


「うん。後でな。」


このやり取りの後、私は二度寝をする。

いつも二度寝しちゃうのは何と無く内緒にしている。



私の方もミヨン先生とミンジュンとのミーティングで、忙しくなってきた。

過去の受賞した作文を読み『起承転結』や、段落ごとの文字数など入賞を狙う為の分析を行った。

言い回しなど被ってしまうと、パクリ疑惑が出て入賞出来なくなるのでこの分析は大切だったりする。


ミンジュンはと言うと、私に全く興味を示さなくなった。

必要最小限の会話だけ。

ミヨン先生に送って貰う事も必要無くなった。


このミンジュンという人の、構成やアイデアなどを聞いてみたら納得。

(3年の代表になる人だわ)と感心した。

噂によると、女の子に手当たり次第に声をかけるのはやめたらしい。

手当たり次第には…。



――――――――――――――――

「さ、今日はここまでにしましょうか。」


「はーい。」


「じゃ」


「はい。さよなら。」


先生の言葉を聞き終わらずに、ミンジュンが勢いよく出て行った。




「あれから大丈夫?」


「大丈夫ですよ。本当に何も無くなりました。」


「良かったぁ。」


「先生に気を使わずに済みました(笑)」


「アミさんらしいわね(笑)」




先に廊下に出たミヨン先生が


「あらぁ?」


と声を上げた。



「ん?」


廊下に出てみると、窓側の壁にもたれてスマホを見ている男子が居た。



ユンだった。



「じゃ、気をつけてね。」


「はい。ありがとうございました。」


視線をユンに移すと、こちらに向かって歩いて来ていた。



「どうしたの?」


「監督に急用が出来たとかで早く終わったんだよね。だから、迎えに来た。」


「へへっ。ありがとう。」




「じゃあねー。」

図書室に鍵を掛けたミヨン先生が手を振って職員室に戻って行った。



すると、ユンが手を出しながら言った。


「手!」


「手?」


訳がわからず、両手の手のひらを向けると右手を取って繋いだ。



「え?学校だよ?」


「誰かに会ったら終わりゲーム。」


「えぇ〜? じゃ!じゃあ。あっちの、人があんまり通らない階段にしよう?」


と、私が言うとユンは踵を返して歩き出した。


顔を見合わせ笑った。




3階の中央部分に位置する図書室からどこまで人に会わないで繋いでいられるのか。

階段に人の声が響くたびに、びくりと立ち止まって笑った。



結局、2階から1階に降りる途中で、階段を上がる生徒が居たため手を離した。

生徒が上がり切り見えなくなったのを確認すると、ユンがまた手を出し言った。



「もう1回。」




――――――――――――――――

離れ難くて…公園に移動して少し話す事にした。



「地区予選は応援に行けないかも…」


「良いよ。ちょっと遠いから団体バスで行くし。」


「おぉ、団体バス。」


「もし全国に行けたら会場はもっと遠いから気にしなくて良いよ。アミも作文大変だから。」


「まだ書く段階には行って無くて、どれくらいで書き終わるか全然見えないの(苦笑)」


「そっちの世界も大変だな。一緒に映画も見れなそうだし…」


「ごめんね、気にしなくて良いよ。見れたら良いなぁって思っただけだから。」


「一緒に見たかったよ。」


「今回は近いうちに1人で見ちゃうけど、時間が出来たら映画見に行こうよ。」


「うん、行こ。」



――――――――――――――――

7月に入りバスケ部は地区予選が始まった。

順調に勝っている。

あまり心配してない。

優勝して、全国と冬のインターハイに行くに違いない。


それよりも自分の事だ。

去年自分が書いた感想文と入賞した感想文を比べ、自分の感想文の何がいけなかったのか。

この分析が私には難しかった。

去年の自分とは違う書き方をしなくてはならない。

それが難しくて苦戦した。



――――――――――――――――

夏休みに入る直前、バスケ部は地区予選で優勝した。

夏休みに入ると全国優勝の為の練習や強化合宿など、電話も出来ない程バードスケジュールになった。

私の方は…毎日作文を書き、ダメ出しされる日々。


「これはない方が良くないかな?」

「違う言い方は考えてみた?」


など、具体的では無いアドバイスが続く。

先生が「こうした方が良い。」「この言葉の方が良い。」と具体的に指導し、そのまま書けばそれは私の作品では無くなる。

あくまでもアドバイスだけを貰うので、毎日頭を使ってヘトヘトになった。



LINEや時々の電話で励まし合い、何とか心を折る事なく頑張れた。



夏休み下旬に入り、バスケ部男子が全国優勝を果たした。


私は夏休みが終わる頃に、やっとの思いで感想文を書き上げた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る