第16話 ユンの夢

何となく離れがたい。

だけど、帰らないといけない…。




2人とも、お母さんの作った温かいご飯がお家で待っている。

一度帰ってまた会う事にした。



連絡先を交換したあのベンチに行くと、待ち合わせの時間より少し前だったがユンが既に座っていた。

私に気付くと立ち上がり、こちらに向かって歩き出す。



「飲み物買おう。」



飲み物を買うとまたベンチに戻った。


2人の距離がいつもとは違がった。



腕や足が触れ合っている。



髪を触られる事も、体が触れているのも

相手が変わるとこんなにも違うものなのか。



“嫌悪感” と “幸福感”



今の私には “幸福感” しかない。




「…バスケ部の3年生、優しいね?私なんて関係ないのに…。」


「仲間意識が強いんだよ。」


「仲間意識…?」


「アミの為ではあるんだけど…俺の為でもあるから。あの人達、正義感が強いんだよね。考えなきゃいけない時にちゃんと考えられる人達…まぁ、要は大人なんだね。。」


「大人ぁ…?」


「うん。ノリもガキだし、話す事とかはぁ、くだらないんだけど(笑)」


「あぁ、あはっ。うんうん(笑)」


「俺、去年、1年の時から試合に出させて貰ってて、その時の3年に凄い文句言われてたりしたんだ。 体育館でバッシュ履いてたら置いてた片方を遠くに蹴飛ばされたり、俺のボールを体育館のキャットウォークに投げて取りに行かされたり、変ないじめみたいなのもあって。」


「しょうもないね。」


「まーじで、しょうもないよ(笑)」


「だけど、あの人達…、相手は先輩だから、直接は言えないけど助けてくれてたんだ。バッシュを代わりに取りに行ってくれたり、ボール投げられたら『俺らもやろうぜっ』て一斉にボール投げ出したり…。」


「えぇ? 優しい…。」


「今のキャプテンが率先してそうゆう事してくれてさ。聞いたら、キャプテンのお爺さんが実業団の選手でいつも言ってたんだって…」




――選手にとって、妬みは一番要らない感情なんだ。ライバルを認められてこそ戦う権利が与えられる。ライバルを超えるチャンスを逃すんじゃ無いぞ。




「って…。だから、あの3年達はあれ以上行かないよ。って。『お前を妬んでる時点で終わりなんだよ。俺らが居ないと勝てないのにな?俺たちでこのチームを強くしようぜ。』って言ってくれて…。」


「キャプテンカッコいい!」


「バスケって1人でする物じゃ無くて5人で戦うものだろ?」


「うん。」


「なのに、俺だけ無視してパス回さないとか普通にあってさ。チームワークも考えられないのはバスケ選手って呼べない。って言って、その3年達の事“バスケ愛好会の人達”って呼んでたよ(笑)」


「あぁ(笑)愛好会(笑)」



「俺もキャプテンもプロになるって夢があるからライバルだけど、『認め合おうな。』って。だから絶対に、俺も3年になったらキャプテンになりたい。あの人に負けたくないんだよ。」


「ユンくんもカッコいいね!」


照れて頭を掻いている。


「ユンくんプロになりたいの?」


「うん。幼稚園からバスケやっててそれしか無いのもあるけど、バスケ好きなんだよね。」


「バスケ、ホントに!上手いもんね。私が見てもわかるよ。」


嬉しそうな顔をした。


「親が…2人ともバスケやってて親父がプロ目指してたんだけど怪我でダメになって…だから、親が俺をプロにさせたいのもあるけど。」


「バスケ一家なんだね。お父さんもお母さんも背が高くてバスケしてたって聞いて納得(笑)」


「産まれた時は地方に住んでたんだけど、親が俺をソウル西校入れたくて幼稚園に入る時に今の家に引っ越して来たんだ。この辺りで1番強いミニバスケのチームにも入れられてさ。ソウル西校の推薦貰った時の親の喜び方がヤバくて…俺がバスケ捨てたらどうなるんだろうってちょっと怖くなったよ…。」


「…捨てる様な事あるの?」


「ないない(笑)俺の夢だよ。バスケのプロ選手。その為にはソウル体育大学に行かないと。」


「そっか、体育大学かぁ。」


「アミは夢はないの?」


「私はまだ、そうゆうの無くて…でも、映画が好きだから映画に関わる事はやりたいなとは思ってる。」


「女優とか?」


「女優!?ないない!私には出る方は無理だよ。自分の出た作品見たく無いし(笑)」


「俺は見るけどな。」


「どうせ後で笑うんでしょ?」


「え?何でわかったの?」


2人で笑った。


「本を読むのも大好きだし、文字を書く事も結構好きだから文章を書く仕事も良いなぁ。好きな映画を文字起こししてシナリオ本にしたりするのも好きなんだよね。」


「暗っ。やってる事暗いな(笑)」


「言われてみたら暗いかも(苦笑)」


「だから、代表に選ばれたんだな。」


「ん?」


「読書感想文。」


「あぁ、練習になってたのかな(笑)」



急に沈黙になる…。



(聞いてみようかな…。過去の…そうゆう…恋愛遍歴ってヤツを…)




「あのさ、ユンくんって…今までに付き合った人って…居るの?」


「ぷはっ!あはははっ!」


「何?何!?何でそんな笑うの?何か変だった?」


「長くかかったな(笑)」


「何が?よくわかんないんだけど…」


「何でも無いよ(笑)今まで付き合った人は居ないよ。」


「え?ゼロ!?」


「ゼロ?(笑)うん、ゼロ。」


「モテるのに!?」


「モテるって何だよ。ファンの人は多いけど…近寄って欲しく無いからバリア張ってる。怖いらしいよ。」


「近寄って欲しく無いの?もしかして、私…。そのバリアにズカズカ入っちゃってる?」


「アミなんかが入って来れる様なバリアじゃ無いよ。」


「うん??」


「お前にはバリア外してんの!」


「あぁ、ありがとうございます。(笑)」


「お前は?彼氏いた?」


「なに?その『居ないのわかってるけど聞かれたから聞き返してやろう』って感!」


「あははは!バレた(笑)」


「えぇ。えぇ。居ませんよ!今まで1度も彼氏なんて!」



――――――――――――――――


楽しい時間とは、どうしてこんなにも早く過ぎるのか。

いつものように送ってもらい、家に入ってから喉が渇いている事に気が付いた。

飲み物が無くなっても、触れている身体を離したく無くて話し続けたんだった…。



あんなに洗いたかった髪なのに、今は愛おしい。

頭や、腕や足に残るユンの感触を思い出し、しばらく眠れなかった。

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