第14話 男の正体

 体育館に着くとテヨンとユリが居た。



「あ!アミちゃん!」


「あれ?なんかいつもと違うね?」


「うーん。ちょっとヤな事あった。(苦笑)」


「大丈夫?」


「うん、大丈夫だよ…。」



怒りと屈辱で話す気になれない。


体育館横の扉には2段の階段が付いていて、見学者はそこに腰掛け中を見ている。


とても大きい2階建ての体育館で1階はバスケ部の男子と女子が半分ずつ使っている。

男子バスケ部のエリアにある扉には、女子が数名ずつ座っていた。


「私もここに居ていい?」


「当たり前じゃーん!」


「ちょっと、本読みたいから読むね。(苦笑)」


「え、本読むの?」


「うん(苦笑)」



1冊目に目を通す。

頭の中がぐるぐるしていて内容が入って来ない。

集中したいのに出来ない。


本を閉じて少し離れた場所にある、もう一つの体育館に目を移す。

そこはバレー部が使っている。

中にいるソアと目が合った。

お互いにニコリと笑って手を振り合った。

ソアとジアンにも気をつける様に言われていた。


(後で話さなきゃなぁ…よし、気を取り直して…)




「………はぁ。」

やっぱり集中出来ない。

アイツのせいだ。



「あぁ!もう!ムカつくなぁ!!」


「ひ!」

「びっくりした!」


体育館の中のバスケ部男子も数名、聞こえていた様で私を見ている。

その中にユンは居ない。


「どうしたの?」

2人が心配そうに見ている。

話すしかない。



「きもー!」


「まじできもーい!」


「ああ!ムカつくなぁ!」


テヨンとユリも怒ってくれた。



「マジでさぁ。

きもー。きんもっ。きっしょ!」


「何それ?(笑)」


「『気持ち悪い』の三段活用っ。」


「はぁぁ?(笑)こんな時に笑わせないで!きゃはは!」


3人で笑い転げた。


「はぁあ。テヨンちゃんって面白いね。」



その時だった。

あの忌々しい男、ミンジュンの姿が目に入った。


「ひっ!、」

(な、なんで!?)



私に気が付いて、ニヤリと笑うと

こちらに向かって歩いてきた。

私は腹話術の要領でテヨンとユリに


『アイツ、アイツ!アイツがきた!さっきはなしたアイツ!』


と、必死に伝えた。




「キームさんっ」


(それ、すんごいムカつく!)



「キムさんも学校戻ってたんだ?」

と言いながら、懲りずに私の横に座わった。


身体をくっつけて来た。

即座に離れる。


「どうして逃げるの?」


答える気にもなれない。


ミンジュンの後ろで、テヨンが(おえー)っと吐くジェスチャーを何度もしている。



「まだ、帰らないの?一緒に  」


〔ゴン!!!〕




!!!!!!!!!!!!!


目の前の出来事に、

私を含めた女子3人の目が飛びそうになった。


ミンジュンの左側頭部にバスケットボールが直撃したのだ。




「いってぇなぁ!!」

頭をさすりながら体育館の中を睨んだ。



「大丈夫ですか?そんなとこに居るとボール飛んで来ちゃいますよ。」


そう言いながら、跳ね返ったボールをユンが拾い上げた。


「チッ!なんだよ…」


バツが悪くなったのか、ミンジュンが走って行ってしまった。



一瞬の沈黙の後…



『ぷはぁ!ぎゃはははは!』



3年男子部員が全員、笑い出した。



「ユン、ナイスぅぅ!超ー!スッキリしたわぁ!」


と、キャプテンが褒めた。


「さすがユンさん、外さないっすね!」


副キャプテンが茶化す。


「あれ、バウンドしてないボールだから、かなり痛いよな。」


と他の3年生が続いた。


どうやら、ユンが頭を狙って投げたらしい…。



一部始終を見ていたマネージャーが2人、私たちの所に来た。

2年生のマネージャーは状況が掴めない顔をしていて3年生のマネージャーは

「大丈夫だった?」と声をかけてくれた。



「アイツ超嫌いなんだよなぁ!」

キャプテンが言うと


「みんな嫌いだって!」

と副キャプテンが続けた。



監督やコーチが居ない時間だったのもあり、3年生が私たちの側で、ミンジュンの話で盛り上がり始めてしまった。



「アイツさぁ。ホントか知らねぇけどヤった女の数自慢してるよな。」


「いま、22人だろ!?」


「そう22!」


「みーんな知ってんの。」


「誰にでも言ってるよな!」


「興味ねぇっつうんだよ。ぜってーウソだろ!」


「いや、たぶん何人かはやってるよ俺の友達、彼女がアイツとやっちゃって。めっちゃ荒れたもん。」


「はぁ?それ女もクソじゃん。」


「アイツ彼氏持ちには保険かけるらしいよ。時間はかかるけど別れたら行くんだって。付き合った事ある女の方が処女じゃないからやりやすいとか言って声かけまくってるよ。」


「はぁ?死ねよ。」


「教室でも女子触ってるよ。だいたい嫌がってるけど、中には喜んでんのも居る。」


「手当たり次第手出そうとするから男は皆んな敵になるよね。彼女とか好きな人だったりするから。」


「そう、だから男子から嫌われるんだよな。

後で自慢するし。」


「興味示して話し聞いてくれる奴にはやった女の名前まで教えてるって話だよね。」


「アイツとやったら人生終わるな。」


「私も友達も声かけられたけど、私たちアイツに超冷たいから怯んでたよ。それに言いに行ってくれたもんね?」


とキャプテンに笑いかけると


「頭来て気付いたら言いに行ってた。」


と返した。


そう、キャプテンとこのマネージャーは付き合っている。




私たち3人は、3年生の会話を聞いていて良いものなのかソワソワしていた。


ユンは身体をあちらに向けていたが近くに立っているので、聞こえているはずだ。



すると、キャプテンが私の前にしゃがんで話しかけてきた。


「で! これを踏まえて、だよ。キムさん。」


「は…い。」


「アイツ超ー、たらしなんだけど。もしかして……」




「ロックオンされてる?」




直球過ぎて固まって返事が出来ない。

防球ネット越しにキャプテンと見つめ合ってしまった。

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