第7話 誤解の種

「じゃあ、今からどこに行く?」


ユンは真っ直ぐな目で私に聞いた。


映画のDVDを返却するだけで終わりかと思ったけど、そうでは無かった。



「行きたいところ無いの?」


「う〜ん、別にない。」


「じゃあ、お話しでもする?」





昨日の放課後にジアン達と行った、お気に入りカフェに入り、 

私は開き直って、昨日と同じアイスカフェオレを頼んだ。

ユンはアイスコーヒーをブラックで飲んでいる。



「部活頑張ってるのに、宿題とかもやってるよね?すごいね。」


「来年キャプテンになりたくてさ。バスケが上手いのも条件だけど成績も良くないとダメなんだ。文武両道ってやつ。」


「えー!?そうなんだ…じゃ、ユンくんも成績良いんだね。」


「監督にはキャプテンの候補だって言われてるから、良い方?…なんじゃないかな。」


「そうなんだ…凄いとしか言えないや。」


「アミはバスケに興味ある?」


「結構好きだよ?」


「じゃあさ、春の大会見に来てよ」


「行って大丈夫?」


「誰でも自由に見られるのに。気にすんなよ。」


「じゃ、行こうかな。」


「春も夏も三連覇がかかってるからピリピリしてて相手出来ないかもしれないけど…」


「じゃあ、そっと行ってそっと見て、そっと帰るよ(笑)」


「それは!…ちょっとさぁ…。」


「え?なに?」


「寂しいじゃん…。」


「ピリピリしてて無視されるとしても、声をかけろ!と。ふ〜ん。」



私がそう言うと、ユンは視線をグラスに移し

ストローで氷をカラカラと混ぜながら


「コートから…観客席に居るかどうか探すの大変なんだよ…居なかったらずっと、気になるし…。」


そう言って、ストローに口を付け一口飲んだ。



「い、いつあるの?」


「再来週の土曜日。その日勝ったら日曜もある。電車でちょっとかかるんだけど…。」


「そんなの全然良いよ。絶対に行くから。」


「ありがと。近くなったら色々教える。」


「うん。」


「あのさ…。」



少し緊張しながら、次の言葉を待った。



「何かあったら隠さず言えよ?」


「ん?何の事??」


「俺ら3人の事で、何か言って来る奴が居たら教えろよ。」


「あ〜ぁ、うん…」


「もう、俺たち、友達なんだからさ。」


「ありがと。心強いよ。」


「そうだ、LINEグループ作ろうと思ってたんだ。俺作るからアイツら招待してよ。」


「うん!」





「今何時だ?……51分か…もうちょっとあるな。」



――カチャン


「はい、カギ。」


「うん。」


「ここってベンチ無いの?」


「無い……ね。」

キョロキョロして答えた。


「じゃ、ここでいっか…」



あと数分でも一緒にいたい。

なのにタイムリミットが迫ると何を話せば良いか分からなくなる。

ユンも同じだったらしい。


「何話せば良いかわかんないな?(笑)…まぁ、うん、帰るわ。」


「うん。じゃ…また明日ね。」




今日も颯爽と走って帰って行くユンを見ながら

カフェで聞いた言葉を思い返していた。

なぜが引っかかってモヤモヤしている。



家に入り、手を洗いながら

あ!

と、気が付いた。



(観客席に居るかを探すのが大変?居なかったらずっと気になるって…経験…談…?私じゃ無い、誰かで経験が…あるって事…!)



胸がギューっと締め付けられる。

いつの事なのかも分からないのに、知らない誰かに激しく嫉妬する。




(その人と、付き合ったのかな…)



――ズキンッ…




‥ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪


LINEの通知音が連続して聞こえる。

グループが動き出したのかも。



‥パタンッ



やっぱり。

さっき作った6人のグループの会話が始まっていた。


どうしよう…


聞いてみようかな…




【LINE】

アミ :個人にごめんね。


ソジン:どうしたの?


アミ :聞きたいことがあって


ソジン:何?


アミ :ユンくんって…

    今までに付き合ってた人居る?


ソジン:居ないよ。なんで?


アミ :そうなんだ。

    ちょっと

    聞いてみたくなっただけなんだ。

    ユンくんにはこの事、

    内緒にしてくれる?


ソジン:あぁ、内緒ね。わかった。


アミ :ありがと。グループに戻るね。



――――――――――――――――――

《ユンside》



…ピロリロリン♪ ピロリロリン♪


(誰だ… ? あぁ、ソジンか…)



…ピッ



「はぁはぁ、なんだ? はぁ…」


〔何してんの!?〕


「走ってる」


〔良かったー、変なことしてんのかと思った!あはは!〕


「はぁはぁ、そんな時にお前の、はぁ、電話なんか取るかよ! はぁ…さっきアミと別れて、はぁ、走って帰ってる。」


〔そのアミちゃんなんだけど、さっき個人LINE来てさ。〕


「何で?」


〔お前に、付き合ってた人は居るのかって聞かれた。〕


――足が止まった。


「はぁ?何でだ?」


〔ただ聞いてみただけだって。付き合ってた人は居ない。ってちゃんと答えといたから。〕


「あぁ、サンキュ。」


〔お前にはこの事、内緒にしてろってよ。だけどさぁ。〕


「うん。」


〔何で今じゃなくて過去なんだ?〕


「あぁ、確かにな!」


〔普通、気になるなら今付き合ってる人はいるのか?だよな?〕


「そうだな。変な奴だな。」


〔とりあえず!!面倒くせぇ事やってないでとっとと付き合っちまえよ。〕


「うるせぇ。指図すんな。」


〔じゃあな。〕



‥プープープー



俺、今日どんな話ししたっけ?

恋愛の話とか一切無かったはずだし…

いや、だいたい俺、話せる事なんてない。


だって…今が…




—— 初恋だ。


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