時を超えて (完)
とっく
第一章・高校時代
第1話 新しい風
キーンコーンカーンコーン…
「はい、おはよう。静かに!今日からこのクラスを受け持つ事になった。イムだ。宜しくな!」
そう言うと振り返り、黒板に勢いよく『イム・ナムシン』と大きく書きはじめ『ン』の所で新しいチョークはポキンと折れた。
「先生ちょーっと力が強いみたいでな。ははは。」
そう言うと頭をポリポリかいて恥ずかしそうに笑った。
(この先生初めて見るぅ。なんだか憎めない可愛い先生だし良かった。背高いなぁ…)
今日は高校2年になって初めての登校日。
いつも一緒に居る友達とはバラバラになってしまった。
同じ中学からこの高校に入学した生徒が少ないせいもあり、顔を知っている程度の同級生ばかりでドキドキしていた。
(友達出来るかな…クラスで1人はヤだなぁ…)
「じゃ、これから1人ずつ自己紹介してもらうぞー。名前を言って終わりはダメだからな。何でも良いから自分の事を話すんだぞ。終わったら拍手をしてあげましょう。それから、みーんなの話を聞きながら、さっき配った用紙に自己紹介を書いて。教室に貼るからちゃんと書けよ。」
「なぁ。 ちょっとさぁ。」
すぐ近くで声がする。
(誰かが誰かに話しかけてる?)
顔を上げ様子を伺った。
「どこ見てんの?隣だよ。」
その声に驚いて顔を声の方に動かすと、少しバカにする様に私を見ている男子が居た。
彼は『ソン・ユン』
運動神経が良くて1年生の時からバスケ部のスタメン。
クールでカッコいいのに時々笑う顔が可愛いと、この学校ではちょっとした有名人。
ファンクラブもあるらしい。
とにかく、何をやっても目を引く人気者。
私はその〝可愛い笑顔〟とやらを、
見た事がない。
とにかく、そんな有名人に話しかけられて
ちょっとだけ緊張してしまっている。
「なぁ、シャーペン貸してくんない?」
「何で?どうしたの?」
「筆箱…忘れたんだよ。」
「あぁ…じゃあ…はい!」
そう言って1番書きやすいと思っているお気に入りのシャーペンを貸してあげた。
「今日1日借りてていい?」
「いいよ。あ!そうだ!消しゴムもいるよね?」
返事を聞く前に新品の消しゴムをケースから出し半分に割って片方を渡した。
ユンは驚いた顔をして一連の流れを見ていた。
「なんか、ごめん。悪いな。」
「気にしないで。大丈夫だよ」
「さ、次。キム・アミ!お前だよ!」
先生が私に向かって声をかけた。
ユンとのやり取りに気を取られていたせいで自分の番になっていた事に気付いていなかった。
「あ!はい!すみません!えっと。。私はキム・アミです。趣味は映画鑑賞です。おすすめの映画があったら教えて下さい!それからー。えーっと。うーんと。。あのー。あれです。いや、なんだろ? まぁ、よろしくお願いしまーす!」
「緊張しすぎだろ!」
先生がそう言うと、あちらこちらからクスクスと笑い声が聞こえた。
(やばい、やばいっ!失敗したぁ(泣))
数人あってユンの番が来た。
「ソン・ユンです。バスケ部です。趣味は…音楽かな。あ、あと寝ること。特技はラップです。よろしく。」
(え?ラップって言った?あのラップ?この人がラップ?だとしたらイメージ無さ過ぎ!みんなざわついてるし)
クラス全員自己紹介が終わった頃にちょうどチャイムが鳴った。
「次の理科は実験室でやるそうだから準備して移動してするように。鍵閉めるから忘れ物すんなよ。」
教室を出て行く先生を見ていると、
ユンが私の肩を人差し指でつついた。
振り向くなり
「ユージュアル・サスペクツ」
と、ユンは一言だけ言った。
「え?何? 何の話し?」
「おすすめの映画!ユージュアル・サスペクツ!」
「あぁ!映画ね!あはっ。ありがとう!今度借りて観てみるね!」
「あのさ……実験室ってさ…いつもどこから行ってる?」
「どこからって…皆んなと同じ最短で行けるルートだよ?」
「遠回りなんだけどB棟の方から行かないか?良い場所があるんだ。」
そう言うと教科書とノートを取り出して廊下に飛び出して行ってしまった。
(さすがバスケ部動きが早い…)
いや。そんな事を思っている場合ではない。
私は必死に準備して、ユンの後を追った。
(絶対に一緒に行かなきゃ!)
早歩きで私の前をひたすら進むユン。
必死について行くと、突然渡り廊下の隅で立ち止まった。
ユンは私が追いついたのを確認すると
渡り廊下の真ん中より少し手前まで行って、また立ち止まる。
「ここ! 外向いて立ってみ。」
と言われた。
位置に着くと、私の後ろ側の窓を素早く開けて戻ってきた。
一呼吸すると、ユンは少しいたずらっぼい笑顔で私の目の前の窓を思いっきり開けた。
その瞬間、春の少し冷たい風と終わりかけの桜の花びらが私をめがけて吹き抜けて行く。
「わぁ!!すごい!!」
「な!?すごいだろ!気持ちいいよな!!」
「うん!気持ちいい!!」
嬉しくなってユンの顔を見ると、歯と頬の間に洞窟が出来たかの様な満開の笑顔で、私と共感出来た事を喜んでくれていた。
私はその初めて見る笑顔に釘付けになった。
(この人…こんな顔で笑うんだ…)
私の髪に絡まった桜の花びらを取ってくれるユン。
私もユンの髪から桜の花びらを取ると、2人でまた笑った。
春の風を受けながら、この人を独占したくなった。
私は瞬く間に、ユンに恋をしてしまった。
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