第9話 できるお嫁さん?
昼食の時間帯。
「ヴァルツ様、口を開けてもらえますか?」
「……ああ」
リーシャが自らの料理をあーんで僕の口に運ぶ。
朝にやって来て、早速昼食を作る行動力は素直にすごい。
「い、いかがでしょうか?」
「!」
噛んだ瞬間に伝わってくる温かさ。
専属シェフに聞いたのか、僕の好みのバッチリ抑えた味付け。
これは正直に言って……
「悪くない」(美味しい!)
「……! 本当ですか!」
めちゃくちゃ美味しかった。
「嘘は言わん」(本当だよ!)
「嬉しいです!」
リーシャはぱあっと明るい笑顔を見せる。
相当嬉しかったのか、「次も次も」と僕の口に運びながら、リーシャは話し始めた。
「今まではやらされるがままでしたが、ヴァルツ様の役に立つなら私、もっとお料理を勉強します!」
「……好きにしろ」(良いと思う!)
「はい!」
そういえば、リーシャはかなり家庭的な女の子だったなあ。
元々手先は器用だったリーシャ。
それでも婚約破棄された彼女は、嫁修行のやる意義を感じられなくて途中で投げ出した、とかいう設定があったはず。
でも、リーシャルートを進めていくと、また勉強し直して成長していくんだよね。
それゆえかファンの間では、リーシャルートの後半を『ママルート』と呼ぶ人さえいた。
「こちらもいかがですか!」
「……及第点だな」(すごく美味しいよ!)
「~~~!」
今の時点でこんなに美味しい料理なんだ。
これからさらに上手になると思うと、すごく楽しみだ。
……って。
「!」
なにリーシャとの将来を想像してるんだ僕は!
自分でそれに気づいてガタっと動いてしまう。
「あの、ヴァルツ様?」
「な、なんでもないっ!」
急に恥ずかしくなり、リーシャの料理を一気に平らげた。
「ヴァルツ様、そんな急いでは!」
「ぐっ、問題ない!」
そうして席を立つ。
「ご、ご……──ッ!」
本当は「ごちそうさま」が言いたいけど、喉を出て行かない。
ならばと僕は背を向けて言葉にした。
「……また作れ」
「はいっ!」
顔は見てないけど、笑顔だったことだろう。
★
昼食後。
「お、出てきたか~ヴァルツ様!」
「なんだ、その顔は」
修行をしに庭に出てくると、ニヤニヤしたダリヤさんがいた。
「お昼はどうだった?」
「だまれ! 特に何事もないわ!」
「えーそうですか~」
「チッ」
本当に
なんてうんざりしていると、後ろからまたも彼女の声が。
「ヴァルツ様ー!」
「なぜお前が……?」
説明するよう、マギサさんが口を開く。
「彼女も修行をしたいって」
「はい! ヴァルツ様と共に!」
「お前は……」
でも、考えてみればそうだ。
結局彼女も二年後には学園へ行くことになる。
それなら鍛えておいて損はないのか。
「邪魔だけはすんじゃねえぞ」(気を付けてね)
「はい!」
そうして、僕はいつも通りダリヤさんとの修行を開始。
その間、リーシャはマギサさんから見てもらうことになった。
マギサさんの修行はかなりきついから、途中でリタイアしてしまうかもな。
……なんて思ってたんだけど。
「リーシャ様! まだ魔力を上げられますか!」
「は、はい……!」
休憩のタイミングで、リーシャの修行を覗く。
汗もかき、魔力も
「もう少し踏ん張って!」
「はい!」
それでも最後まで必死に出し続ける。
あの状態はハッキリ言ってかなりキツい。
「……」
正直、ここまでとは思っていなかった。
彼女の姿を見て思わず感心してしまう。
「嫁さんの観察かい? ヴァルツ様」
「黙れ」
「あの子、あれ相当やりやがるな。ただのお嬢様じゃねえぜ」
「……」
それは見ててわかる。
何が彼女にそこまでさせるんだろう。
「そこまでだよ、リーシャ様!」
「……は、はい。ハァ、ハァ」
「よく頑張ったね。初めてでここまでできる子は中々いないよ」
マギサさんがリーシャを支える。
それからマギサさんが僕の方を指すと、リーシャはフラフラながらに手を振った。
「私……頑張り、ました!」
「……」
褒める言葉は出て行かないけど、伝わっている。
修行をするからには自分だけ甘くてはいけない。
そう思うから、あんなに頑張っているんだ。
「フッ」
それなら、せめて気持ちだけでも。
そう思って彼女の元に回復薬を持って行く。
「無様な姿を見せるな」(これで休憩してね)
「……! ありがとうございます!」
それからダリヤさんの元に戻る。
「さっさと再開するぞ」
「お、いつもより休憩が短いな。嫁さんに良い所を見せるつもりで?」
「うるさい! ボコボコにするぞ!」
「へっへ、望むところです」
実際はダリヤさんの言う通りだ。
リーシャがいると修行に集中できないかと不安はあったけど、全く逆だった。
頑張る彼女を見て僕もさらに頑張ろうと思える。
「行くぞ」
「どこからでも! ヴァルツ様!」
良い影響を与えてくれたな、リーシャは。
★
<三人称視点>
夕食の席につき、軽く周りを見渡すヴァルツ。
座っているのがダリヤとマギサだったことに気が付き、口にした。
「あの女はどうした」(リーシャは?)
「ああ、それなら……」
マギサさんがそういえばと答える。
「部屋で眠ってしまったみたい」
「そうか」
「あら。リーシャ様のご夕食が食べたかった?」
「……!」
ヴァルツは身を乗り出して声に出す。
「そんなわけないだろう!」
「あらあら、そこまで否定しなくても」
「……チッ」
そうして、食べ始める前に席を立つヴァルツ。
「おや、どこへ?」
「……お手洗いだ」
「その料理を持って?」
「ああ、そうだよ!」
そう言い残して強めに扉を閉める。
だが、二人とも行く場所は分かっていた。
「素直じゃなねえなあ、ヴァルツ様は」
「ええ。でも……」
マギサはふふっとした顔で口にした。
「良い影響にはなってるんじゃないかしら」
「かもなあ」
リーシャの部屋の前。
ヴァルツはノックをした。
「……うん? ハッ!」
そうしてすぐ、扉を開けるリーシャ。
寝すぎたことに気が付いたのか、慌てている様子だ。
「ヴァ、ヴァルツ様! すみません私、夕食の時間を──」
「構わん。そこで寝てろ」
「ですが!」
人の家に来ておいて夕食を欠席する。
それが失礼なことを自覚しているリーシャだが、ヴァルツは特に
そして、持ってきた料理のプレートを手渡した。
「俺の口には合わん。お前が食べろ」
「え?」
しかし、それはどう見てもリーシャの為に作られた料理。
わざわざリーシャのために運んできた、そのことが口に出せないのだ。
「それと、そのまま寝るなよ。風邪を引けば俺に被害が出る」
「……は、はい」
これも「風呂にしっかり入れ」の意味である。
「では俺は行くぞ」
「あ、ヴァルツ様!」
「なんだ」
「えと、その……」
ヴァルツが夕食に戻る間際、彼の袖を掴むリーシャ。
そのまま、目を閉じる前に考えていたことを口にした。
「やっぱり私、邪魔ではないですか?」
「……」
勢いでアタックしにきてしまったものの、少し申し訳なさもあったようだ。
対して、ヴァルツは傲慢な言葉を返す。
「邪魔には決まっているだろう」
「……っ」
それでも。
「だが、これ以上邪魔しなければ返すことはしない」
「!」
「せいぜい励むんだな」
「……! はいっ!」
そうして、ヴァルツは戻っていく。
相変わらず悪い口でも、リーシャにはしっかり伝わった。
やることをやれば居てもいい。
そう言われたことが何より嬉しかったのだ。
「私、もっと頑張ります!」
こうして、ヴァルツはリーシャを正式に家に迎え入れたのだった。
「ヴァルツ様とご結婚できるように!」
それが叶うかはまた別の話だが──。
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二人の間にラブコメの予感……?
後半、三人称視点でのヴァルツ君は周りから見たらあんな感じに映ります。
事情を知ってたらやはりツンデレですね笑。
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