第2話 配信開始

 扉の向こうはさっきの部屋のように土の壁で出来た洞窟のようになっていた。


「そういえばダンジョン攻略って言ってたよな……? て事はここってダンジョンか?」


 試しに壁に触ってみる。若干湿ったその壁は妙に明るい。この空間は特に照明がある訳ではなく、壁が暗くない程度に光っているようだった。


「どうなってんだ?」


 こんなもん存在するのだろうか? もしかして本当にダンジョンなんだろうか?


 そんな事を考えながら進み続けると、分かれ道が目の前に現れた。


「右か、左か。……あれ? こういう時って迷ったらなんちゃらってやつなかったっけ?」


 なんか漫画読んだ時にそんなような事書いてあった気がしたんだけどなぁ……?


「こんな時はスマホ、スマホって……あれ? スマホ持ってないじゃん」


 確かにポケットに入れておいた筈だったんだけど……。


 スマホがないとどこか不安になる。持っていた筈の鞄もないし、キョロキョロしていると一緒についてきていたカメラが目の前に現れた。


「ん? 何か文字が浮かんでるぞ」


‘‘迷ったら左手の法則ですよ!‘‘


‘‘てか一緒にいた男ほったらかしでいいんか?‘‘


「……なんじゃこりゃ」


‘‘困惑してて草‘‘


‘‘自分で配信しててなんじゃこりゃとは?‘‘


‘‘放送事故?‘‘


「配信ってもしかしてYOUQUBEで今配信してんの?」


 YOUQUBEとは最大手の動画投稿サイトだ。様々なジャンルの動画をたくさんの人が投稿したり、今みたいに配信している。


‘‘配信中ですよ‘‘


‘‘そういう演技うまっ!笑‘‘


「いや……演技も何も俺は今の状況はよくわからないんですよ。とりあえず進まなきゃみたいなので左を進みます。ちなみにさっきのは俺の友人だけど、一度寝たら中々起きないんでちょっと心配ですがとりあえずあのままですかね」


 コメントを見てたら少し気持ちが落ち着いてきた。今までは一人だったから心細かったけど、今は誰か見てくれているという事実を知ったからだ。


 ドッキリ企画か何かかな。いや、けど間違いなく轢かれたよな。訳わかんねぇ……。


 コメントを見ながら再び歩き始める。道中は相変わらずで何も変化がない。ちなみにコメントの端っこには今観てくれている人数が載っていて、おおよそ百人程度の人が俺の配信を観てくれているらしい。


「ぎゃぁぁぁぁあああああ!!」


 慎重に歩いていたその時、背後から叫び声が聴こえてきた。


「この声は松井か!?」


‘‘なんだなんだ!‘‘


‘‘あれか、さっき放っといた男か‘‘


 コメントをチラリと一瞥しながら慌てて元の道を走る。そして部屋に戻った時、そこには誰もいなかった。


‘‘誰もおらんじゃん‘‘


‘‘ならさっき分かれ道で右に行ったんじゃない?‘‘


「くそっ」


 再び走り出し、今度は分かれ道を右に曲がる。そして暫くすると倒れている松井を囲むように緑色のナニカが三匹、そこにいた。


 手には棍棒。こいつらは意味の分からない言葉を交わしながら松井に棍棒を振り下ろしている。


「やめろ!!」


 殴られているのにも関わらず、松井はまるで人形のように何も反応しない。嫌な予感が頭に過るが、とにかく追い払わなきゃどうにもならない。


 そしてこちらの声に気付いた緑色のナニカは一匹を除いてこちらに近づいてくる。


「ギャハギャハ」


「グギャグギャ」


‘‘こいつらゴブリンだ‘‘


‘‘何で知ってんだよ‘‘


‘‘確かに‘‘


‘‘ちゃんとチャンネル確認してないのかよ。概要欄のリンク先に魔物図鑑があるじゃん‘‘


‘‘ちょっと見て来る‘‘


 呑気にコメントしている姿にちょっと苛立ちながらも目の前の事から目を離せない。


『ゴブリン』


 確かに目の前にいる緑色の生き物は、よくあるファンタジーに出てくるゴブリンにそっくりだ。


 こちらに近付いてくるにつれ、喧嘩もろくにやった事のない俺の膝は、ガクガクと震えてくる。


 それに気付いているのか、ゴブリンは俺を舐めた様子で嗤っている。


 全く動けず、気がついた時にはあと一歩といった所までゴブリンが来た。このまま俺も死ぬのか、と目を閉じようとしたその時


「あるじさま! かたなをぬくなの!」


 突如聴こえてきたその声に反応して、咄嗟に手元の刀を抜く。すると刀から炎が燃え上り、ゴブリン達に襲い掛かる。


「うおっ!?」


 燃え上がる炎はゴブリン達が逃げる間もなく包みこんでいった。


「なんだこりゃ……」


 立ち尽くす俺の目の前には、床を転げ回るゴブリン達。必死になって消そうとしているようだが、一度燃え上がった炎が消える気配はない。


 最初は勢いよく転がっていたゴブリン達もやがて動かなくなり、ゴブリン達は丸焦げになるのであった。


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