第3話:新たな生活

「うぅ、体がチリチリする……でもみんないい動きだったよね! ないすー!」


 明里あかりはまだ焼け跡が少し残っていたが、すぐに笑顔を浮かべて手を振った。犬の耳と尻尾はいつの間にか消えていた。


「おう、お疲れ様!」

「お疲れ様でした。無事に成功してよかったですね」


 天音あまねも、ふっとその翼と光輪を消す。同時に髪色ももとに戻っていく。


「お疲れ様」


 三者三様の返事をしながら、戦闘は無事に終了した。


『おつかれー。今日はほんとに変わった探索だったな。面白かったわ』


「でしょう? 楽しんでくれたようで何より……」


 連理れんりは誇らしげに言う。


「うし、報酬も出たな。布と鍵か……鍵は確定だけど、布は低レアだから微妙だな」


 それから、独り言を言いながら落ちていた報酬を拾った。


 その鍵は、奥にある下階層への階段の途中にある宝箱を開けられるものだ。宝箱はダンジョンによって時間経過で復活するため、すぐ前に探索されていなければ宝箱が見つかることだろう。


『毎回宝箱復活させてくれるダンジョンくん優しい』


「確かに我々に毎回ゲーム感覚で提供してくれるの優しいな。ありがとうダンジョン」


 連理はコメントを読み上げてから反応する。


「彼らもそれで生計を立てているので、優しいという話ではないような気がしますが……」


 生計、というと冗談のように聞こえるが『ダンジョン生物説』という説は広く知られている。そこでは、ダンジョンは生き物と似た性質を持っており、魔力エネルギーを収集して進化しながら増えていく、というのが通説だ。


「……多分そういう話じゃないと思うぞ」


 連理は天音に小声で話した。


「えっ違うんですか? ですが、実際ダンジョンは生物と言われているわけですから……いえ、なんでもないです」


 そこまで言って、冗談だということに気がついたのか、コホンと咳払いをし恥ずかしそうに顔を背けた。


『かわいい』

『JK可愛い』


「いやお前ら……」


 視聴者には同じ高校の人間も居る上、配信者でもない本人が目の前に居るのにそんなことを言うとは、と連理は呆れてため息を吐く。


「……どうかしましたか?」

「い、いやぁなんでもないぞ! さあ報酬だぁ!」


 わざとらしく話を逸らしながら、彼は宝箱のある奥の扉へ向かった。


『主が最後の一撃だけ取ったことについて誰もツッコんでいない件』


 静かにコメントが一つ残された。他のメンバーにも見られていない以上、わざわざ連理がこれに反応することはないだろう。


 ◇


 空は晴れ渡り、まだ明るい太陽が降り注ぐ涼しい午後の時間帯。

 有名チェーン喫茶店のテラス席に連理れんりたちは座っていた。。


「それでさ、結局配信どうだったの!?」


 明里あかりは目をキラキラ輝かせながらずい、と前のめりになって訊く。

 チリチリしていた髪と肌は、天音の回復魔術で直し、髪はクシで軽くいたことでそこそこ元に戻っていた。


「結構成功だと思うぞ。同時接続はまあ……いつもより数人多い程度だったけど、反応は悪くなかった。あとはこれから次第だけど、ポテンシャルは感じる配信だったな」


 連理はスマホで配信を見返しながら分析する。


(案外冷静な分析。実はストイックなんでしょうか)


 天音は頼んだジュースを飲みながら内心思った。


「えー、なんかこう、もっと一気にドカーン! みたいなのは無理なの?」


 明里が言っているのは俗に言うバズりだろう。

 だが、それは狙えるものではない。


「それが無理なんだなぁ。現実そう簡単じゃないんだ……結局は今やれることを地道にやってくしかないんだぞ」

「そっかぁ……」


 明里は残念そうに身を引いた。


「まあ、好感触だったのでいいんじゃないでしょうか?」

「そうだな……」


 零夜はどこか落ち着かなさそうだ。


「……零夜さん、そのドリンクは結構美味しいので飲んでみてはいかがでしょうか? リラックスできますよ」


 それを見かねてか、天音が声をかけた。


「ん? あ、ああ、そうだな」


 不思議そうな表情をしながら、言葉通り飲み物に口をつけた。案外美味しかったのか、目を見開いている。


「えーと……そうだなぁ……」


 一方、明里はブツブツ言いながらスマホを弄っていた。


「何してるんだ?」

「やっぱりさぁ、せっかくならもっとSNSとか使いたいよね。それに、ここだけの関係ってつまんなくない?」

「――ごほっごほっ!」


 言葉と同時に零夜がむせた。

 なんだか辛そうだ。


「え? まあ確かに一理あるかもしれませんが……」

「ということで――じゃーん! アカウント作りましたー!」


 明里が他三人に見せた画面には『青幻✕鳥里学園交流祭・ダンジョン探索部』と書かれたアカウント。

 インターネット上でつぶやきを投稿するアプリがあった。


(こ、行動があまりにも早い……! これが陽キャ……!)


 零夜は戦慄していた。


「はいはーい、それじゃあみんな集まって! 写真撮るよー」

「え? これ投稿すんのか?」


 連理は不思議に思いながらも、画面に入った。


「は、話が早いですね……まあ、写真くらいならいいですけど」


 少し恥ずかしそうにしながらも、言われた通り画面に入り、カメラの方を見る天音。


「ほらほら、零夜くんも」

「お、おう……」

「それじゃ、はい、チーズ――!」


 パシャリ。

 四人が収まった写真が撮られた。


 笑顔でピースをしている明里。

 真面目そうな顔で少しだけ頬を赤く染めながら控えめにポーズを取る天音。

 楽しそうな笑みでピースしている連理。

 引きつった笑みで形にならないピースをする零夜。


『学園交流祭スタート! ダンジョン探索部の方はこんな感じー。楽しいよ! 他のみんなはどう⁉ #青幻✕鳥里学園交流祭 #スカフ #ダンジョン探索 #青春』


 彼らの青春は、今始まる。

 ……の、かもしれない。


 ◇


 スレッドタイトル:今の高校生、ダンジョン探索において強すぎる件


▼0001 ぷにぷにパイロット 203X/4/20(木) 19:~~:~~.~~   ID:~~~

最近クソ強いスキル持った高校生多すぎやろ。これ現実のバグな


▼0002 名無しの探索者 203X/4/20(木) 19:~~:~~.~~   ID:~~~

ぶっちゃけ分かるわ。実力自体はそりゃ若いから低かったりもするけど、スキルがな。そこが俺らの世代より圧倒的すぎる。俺も同じ時代に生まれたかった。うらやま。


▼0003 名無しの探索者 203X/4/20(木) 19:~~:~~.~~   ID:~~~

そうか? そもそもダンガー持ってるヤツしか探索できないし、バイアス掛かってるような気もするが


▼0004 名無しの探索者 203X/4/20(木) 19:~~:~~.~~   ID:~~~

実際色々なところで最近の学生が強いとは言われてる。実際、今の世代はいろんなデータ参照しても実力高い人間が多いみたいだし


▼0005 名無しの探索者 203X/4/20(木) 19:~~:~~.~~   ID:~~~

なるほど、つまり黄金の世代か


▼0006 名無しの探索者 203X/4/20(木) 19:~~:~~.~~   ID:~~~

>>5

ガチで後にそう言われてる可能性はあるんよなぁ……すでに結果出してるヤツも居るし。若いのにマジですげぇ。


▼0007 名無しの探索者 203X/4/20(木) 19:~~:~~.~~   ID:~~~

https://www.~~~.com/watch?v=~~~


▼0008 名無しの探索者 203X/4/20(木) 19:~~:~~.~~   ID:~~~

>>7

すまん、この配信アーカイブ見たらなんも言えんくなったわ。


▼0009 ぷにぷにパイロット 203X/4/20(木) 19:~~:~~.~~   ID:~~~

>>7

エグいわこれ。つかこれ青幻学園と鳥里学園の学園交流のヤツか。まあどっちもダンジョン活動すげぇし納得っちゃ納得


▼0010 名無しの探索者 203X/4/20(木) 19:~~:~~.~~   ID:~~~

>>7

最近はこういうのも増えてきて凄いよなぁ。学校とかでもダンジョン探索しちゃうもんな。特に郷迷市の学校とか多いけどさ

これに関しては学生さんらゲキツヨでもう涙出てくる(´;ω;` )


▼0011 名無しの探索者 203X/4/20(木) 19:~~:~~.~~   ID:~~~

こんくらいだったら全然いるやろ。アホか


▼0012 名無しの探索者 203X/4/20(木) 19:~~:~~.~~   ID:~~~

>>10

高校生でこれがエグいって言ってんだよ。プロと高校生比べんな。


▼0013 名無しの探索者 203X/4/20(木) 19:~~:~~.~~   ID:~~~

ネット掲示板は今日も平和なンゴねぇ


 ――

 ――――


〜あとがき〜

 最後までお読みいただき本当にありがとうございます!

 ここで一区切り、といったところでしょうか……


 これからも四人、そして学園の話は続いていきますので、ぜひぜひ続きまでお読みいただけると嬉しい限りです!

 また、評価や応援なども気軽にしてくださると、私が超絶喜び庭駆け回ることでしょう。

 次回もよろしくお願いします!

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