第15話 島への侵攻と工業力だよ

 不可視の結界が崩壊した。度重なる衝撃エネルギーに耐え切れなかったようだ。

 バリンと大きな音を立て島全体を包むように光の粒子が天に昇って行く。

 幻想的な光景だった。


 そして艦隊は魔王の一言で全艦が前進する。

 島は目視可能な距離にある。

 空母から100匹の飛竜が飛び立った。

 先行偵察部隊として。


 戦艦から海兵の350名が小型ボートに乗船して島へ上陸する。海兵の半数が前哨基地として砂浜の一角を確保し土嚢で塹壕を作る。

 そして、残り半数が周囲の索敵に散開して行った。海兵は訓練通りに魔法や魔物の襲撃に備えられるように迅速に陳地構築を進めた。


 旗艦に将校から連絡が入る。


「報告します。海兵より第一次陳地構築が完了。

 第二次構築に向けて指示を待つ。との事です。」


「早かったね。訓練の成果を見せてもらったよ。じゃあ次に進めて。」


 僕は第二次陣地構築へ許可を出した。すると輸送船から4000名の歩兵と物資船から大量の資材・食材などが島へ上陸していった。

 そして索敵に向かった海兵と飛竜部隊から島の報告が入った。


「報告します。島に民間人及び軍隊の駐留は無し。一部に少数と思われる生活形跡が有り。森の内部は魔物が多数生息しております。」


「ふーん。その生活形跡って、人が住んでるの?」


「いえ。人影は見当たらず。原始的な住居と野営の痕跡を発見しております。」


「あっそ。じゃあ、それは無視して第二次陣地構築が完了したら、歩兵を島全体に探索に向かわせて。そして教会や神殿などの人工物が有れば報告して。」


「了解しました。」


「あと、グリフォンやワイバーンが居たら捕縛しておいてね。

 飛行隊に編入させるから。」


「了解しました。」


 それから2日程で、第二次陣地構築が終了した。

 僕は旗艦から本営に指揮所を移すことにする。


 そして数日後、様々な報告が寄せられた。

 ハーピーやオーガ、サイクロプスなど魔族の発見、グリフォンやワイバーンの捕縛、そして驚いたのが神の使いで不死を自称するケンタウロスが使者として陣地を訪問した事だった。


 僕は交渉に長けているラークに相手をさせて、使者の話を聞かせた。

 内容はつまらない物だった。

 使者の名はケイロンと言い、神の島へ不敬な行為を働いている。

 直ちに島から退去せよ。

 さもなくば神罰が下るだろう。との事だった。

 僕は、そのケンタウロスを捕縛するように命令した。


 その命令から外が騒がしくなった。どうやらケンタウロスが強く、痛手を負わしても倒れずに向かってくるとの事だった。

 歩兵では捕縛できずに苦戦しているらしい。僕は、その不死のケンタウロスに興味を持ち、ナイを連れて会うことにした。


「やあ、僕が魔王のキミヒトだよ。初めまして。」

「貴様ぁ!神の島に不敬を働く不届き者め!即刻、全員を連れて退去せよ。」


「まぁまぁ、ここはゼウスの島なんでしょ?僕は彼に恨みがあってね。ちょっと復讐をしたいんだ。」


「ここはクロノス神様の神域じゃ!ゼウス神様の神域ではない!」

「あっそうなの?ふーん。まあ神なら別にどっちもいいけどね。」


「神の使いである我が成敗してくれる!」


 バリバリ!! スガガーン!!


 そう言ってケイロンがキミヒトに雷撃を放ってきた。その電撃は凄まじく、周囲の者が目を覆うほどの光量と衝撃音だった。


「魔王様!大丈夫ですか!」


 近くにいた護衛兵士が駆け付ける。

 僕は雷撃を受けて体がピリピリしてしまった。


「もう!体がピリピリしたじゃないか!突然攻撃するなんて酷いなぁ。」


 僕は血行が良くなって、体のコリがほぐれた気がした。でも突然、攻撃したことには怒った。そして雷撃を放ったケイロンと周囲の兵士達が驚き、唖然として立っている。


「じゃあ、僕の番だね。最近、運動不足だからちゃんと相手してね。

 不死なんでしょ?」


 そう伝えて、ケイロンへ一気に飛び掛かり、後ろ足を2本とも手刀で叩き折った。そして、その両後足を掴み、力の限り引っ張る。ミチミチと肉が裂ける音がして引き千切った。


「ぎゃぁぁーー。」


 ケイロンが痛みで叫ぶ。僕はそのまま、胴体に付いている両腕を殴って叩き折り、同じよう引っ張る。痛みのあまり彼が暴れるが、胴体を足で押さえてに引き千切った。


「ナイ、ナイフ貸して。」


「あい」


 僕はナイからナイフを借りて、今度は馬の部分と人の胴体の境目を切断する。一度で切れなかったので何度も何度も切り付けて切断した。


「ぐぎゃぁーー」


「すごいね。まだちゃんと生きてるんだね。本当に不死身なんだ。でも手が無いから雷撃も打てないし、足が無いから逃げれないね。」


 そして僕は、切断した患部へ止血のヒールを唱える。


「おお、血が止まってダルマみたいになったよ?あはははは。」


 この衝撃の光景に周囲の者が畏怖の表情となり、狂気漂う空間となる。


「うぐっ…、こ、この神の使者たるケイロンへこの行い、必ずクロノス神様が貴様に天罰を与えて下さるだろう…。」


「天罰ねぇ~、もう既にハゲのゼウスから大きな天罰を受けてるし。今更、何も怖くないよ? しかし、君は本当に死なないんだね。可哀相に。」


「そうだ、どこまで切り刻んだら死ぬのか試してみようか!」


「ま、魔王様、これ以上は彼の尊厳と魂を虐げることとなります。

 ど…どうか、ご一考を。」


 ラークが珍しく、僕に震えながら意見をしてきた。

 その行為に免じて僕は許してあげることにした。


「仕方ないなぁ。じゃあ、首だけ切って檻にでも入れておこうか。喋る生首として見世物になるでしょ?」


「魔王様、どうか彼の信念に敬意を持ち、寛大な恩赦をご一考下さい…。」


「まあ、そこまで言うなら仕方無いか。ナイ、残りの前足も切って。彼は不死身だから、手足を奪って反撃出来ないように持って帰るよ。」


「あい~」


 僕はナイフをナイに渡し、彼女は残りの前足を切断した。そして、その両手、前後両足の切断面とケイロンの残りの切断面に止血のヒールを唱え、手足をマジックバッグに収納した。


「これで、ケイロン。君はもう動けない。つまり僕には逆らえないってことだね。配下の嘆願に免じて凌辱行為は止めてあげる。まあ、あとはクロノス神とやらに助けて貰うんだね。」


 そして僕は本営に戻り、他の報告を待つことにした。


 その後、ケイロンは兵士たちにどこかへ運ばれたらしい。


 それから、ハーピーを600匹の大量捕縛、ミスリル鉱脈の発見、そしてオーガの襲撃など色々有ったけど、大きな問題も無くこの島を掌握した。


 ハーピーは飛行が出来るけど、人を乗せられない、長距離は飛べないので、使い勝手が悪かったけど、飛行可能な魔族は希少なため捕縛全数を魔国に連れ帰ることにした。

 グリフォンとワイバーンも大量に捕縛した。その数は合わせて400匹、その全ても魔国へ移送とした。

 島の探査は神殿や教会などの発見は出来ず、特に神に対する何かをすることは出来なかった。


 そして、この島を魔族領として管轄するため、兵士を1000名と輸送船1隻、資源船2隻を残して僕たちは魔国へ帰還した。


 こうして、エゲレス王国侵攻への大規模予行演習が終了した。


 神の島へは定期便を運行させて、ミスリルの調達と駐在兵への物資供給を行わせた。

 ハーピーは種族的に気が弱く、簡単に飛行隊への編入が完了した。

 グリフォンとワイバーンは、気性が荒く、編入に相当苦労したらしい。収容所に入れ、連帯性の拷問と懐柔した者への優遇処置を見せつけることで最後の1匹が飛行隊編入へ同意したと報告が入った。


 工業特区から、動力機関の試作機が完成したと報告が入る。構造上、蒸気機関は困難だったので、風魔石から発生する風力でピストンを上下させる簡易的な構造で試作したとのこと。大きさは乗用車のエンジンと同等で、出力はトルクを重視した構造となっている。砲弾と違い、風魔石は魔力封入を再利用する形式にした。


 風魔石動力機関は以下の構造となっている。

 1.メインタンクとサブタンクに風魔石を多数投入

   先にメインタンク内の空気を膨張圧縮させる。

 2.タンクに接続された調圧バルブから空気をピストンへ送る。

   ピストンからクランクを通じて回転力へと動力が変換する。

 3.メインタンクの魔石力が枯渇すると、混合調圧タンクを通じて

   サブタンクへ一時的に切り替え、動力を維持する。

 4.メインタンクを排圧し、風魔石を新しいのと交換する。

   再びメインタンク内の空気を膨張圧縮させる。

 5.サブからメインタンクへ戻して運航する。 


 地球では実現不可能なファンタジー機関だった。風魔石はエネルギーとして有用な素材であり、国家戦略物資として常に収集をしている。

 石油や火薬と同じと考えても差し支えないだろう。


 この動力機関を〝魔石エンジン〟と名付けた。ミスリルなどの希少金属を使わず、大量生産が行えるように鉄で製作している。現在は連続運転の耐久度を検査している。それが完了すると車両への搭載になる。


 僕は、戦車、自走砲、輸送車、移動式高射砲などを作っているんだ。砲弾と砲身は戦艦へ搭載したものを改造小型化している。これらの兵器は輸送船への搭載を考え、旧日本軍の豆戦車~軽戦車レベルの重量とサイズで研究開発している。


 中世レベルのこの世界に近代の兵器を開発運用すれば、無敵国家となるでしょ?

 世界制覇も可能だと思うんだ。

 資金と人材は、ほかの国から奪えばいいし、エネルギー源は魔法がある。

 演算装置などは作れないから、現代のレベルにまで技術を引き上げる事は出来ないけどね。


 そして、次の大規模計画は、鉄道を作るんだ。大量輸送時代の幕開けだよ。


 これには大きな魔石エンジンが必要になるから、まだ開発中だけど、線路は戦時捕虜に敷設させているんだ。鉄道網は、ブランズとポランドを経由してシガポルへと続く2路線を進めている。

 完成すると輸送が馬車から鉄道へと移り変わり、魔国連合は、中世から近代へと移り変わる。


 あとは長距離通信網と一部のハーピー達で飛行郵便隊を計画している。この世界の最速郵便は早馬だからね。隣国へ重要書類を送るのにも時間が掛かって待てない。

 日本の郵便局のようにハーピーの飛行限界距離前後に中継所を設置する。リレー方式で配送するから隣国までロスが無く送れるよね。


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