おれのシショー

うさぎ五夜

第0話.悪魔族殲滅~悪魔の目覚め

「あんたらが悪魔族か?」


 男はタバコを口にくわえ、煙をふかす。

 身の丈の半分以上もある大剣を軽々しく片手で持ち上げながら、剣先を悪魔族と呼ばれた者に対して突き付けながら質問をしている。


「貴様は誰だ……。我々悪魔族は今この時に果てしなく長い時を経て復活をしたのだ……。悠久の時を経てやっとな!」


「ん? 何だ急に。別に身の上なんて聞いてねえよ」


「なのに何故……! なぜ貴様のような人間に我が同胞が次々と殺されなければならないのだ!!」


 男に見下されて、剣を突き付けられている悪魔族は怒りを露わにし、禍々しい魔力を体外に放出して最後のあがきで男を吹き飛ばそうとしたが――。


「おうありがとな。丁度体が熱くなってたところだ。涼しい風サンキュー」


「貴様……化け物か……」


「悲しいかな。俺はただの人間だ。

 お前たち悪魔に化け物と呼ばれてすこーしだけ傷ついたぜ」


 面白おかしく笑いながら、余裕の笑みで言葉を返す。


「んで、質問の続きだが……お前らが悪魔族なんだな?」


「……」


「黙りこくるつもりか? まあいいぜ。お前たちの容姿や禍々しい魔力をみれば一目瞭然だったし。そんじゃまあ、俺は次の悪魔を斬ってくるわ」


「貴様など……。貴様など我が悪魔族の長であるサタン様が……!」


「サタン? それがお前たちの長って訳か。情報ありがとさん」


 男はそう言うと地面に伏した悪魔族の一人に止めを刺した。


「さて、行くか」


 男は手当たり次第に悪魔族を斬りつけ、倒した。

 激しい炎に包まれた小さな村で、たった一人で次々と強大な力を持つ悪魔族を相手に無傷かつ全て一撃で。


「ったく拍子抜けだぜ。悪魔族っていうからもっと強力な種族だと思ったんだけどな。どうも俺が強すぎるせいなのか全然相手にならねえわ」


 残念そうな表情で地面に無数に散らばっている悪魔族の死体を踏みつけながら一歩、また一歩と村を歩く。


 他よりも一段と禍々しい力が発せられている場所へ迷わず足を進めた。

 

 だがその場所へは絶対に行かせないという心の表れか、悪魔族が次々と男の歩を止めようと戦いを挑むが一瞬で返り討ちにあっている。


「サタン様……。どうか我々悪魔族に勝利を……!」


「サタン様サタン様ってうるせえな。てめえらもがもっと強かったらお前らの長が手を煩わせずに済む話なのによ」


「ふ……。余裕ぶっていられるのも今の内だ。サタン様は我々悪魔族を束ねる長だ。私を含めお前に殺された我が同胞の数百倍の強さを持っている……」


「へぇ……。そりゃあ期待が高まりますなぁ」


 男は悪魔に止めを刺した。

 着実に強大な力がある場所へと足を進める。


 ――そして。


「あんたがサタンとかいう悪魔族の親玉か?」


 男は目的の場所へたどり着いた。

 そこには全身から禍々しい黒色の魔力を放出させた他の悪魔たちとは容姿も雰囲気も全く違う悪魔が一体佇んでいた。


「そうだ」


 サタンは不敵に笑い、男に自分はサタンだと言葉を返す。


「だろうな。さっきまで戦ってきた雑魚共とは何もかもが違う」


 本来悪魔族は額から一本の角、背中には漆黒の翼を二本生やした容姿をしているが、サタンは頭の両端から長くて太い立派な二本の角を生やし、背中の漆黒の翼は羽が6枚になっている。


 額には三つ目の目。

 容姿は他の一般悪魔とは違い細身ではありながらかなり筋肉質だ。


 見るものを震え上がらせるような鋭い目つきで、自分の元へたどり着いた一人の男に冷たい視線を送り続けている。


「人間よ、我が同胞が迷惑をかけたな」


「お? なんだお前。部下の無礼を詫びるなんてな。

 もしかして案外いい奴なのか?」


「フッ……」


 その瞬間、一瞬にして男の背後へと周る。


「我が一族が目覚めた瞬間に襲いかかる貴様よりかはいい奴なのかもしれぬな」


「ま、期待はしちゃあいなかったがな」


 男はその一瞬の間にサタンから繰り出された一撃をいとも簡単に受け止め、逆に大剣で弾き返した。


「なるほど。確かに貴様は強い。

 我が同胞が苦戦を強いられるわけだ」


「おいおい、呑気に俺の強さを語っている場合か?」


 サタンが攻撃を防ぐ態勢を取り、一瞬自分から目を話した隙に、男は吹き飛ばされたサタンの背後に周っていた。


「貴様……!?」


「あばよ。悪魔族の親玉さん」


 大剣からは想像も出来ない程、とてつもなく速い剣閃がサタンを斬った。

 何か特別な技を使ったわけでもない。

 ただただ大剣を上から下へと振りかざしただけの一撃だった。


「ぐ……ぐぼぁ……!

 わ、我が体に傷をつけるとは……!」


「おいおい。休んでいる暇はねえぞ。

 反撃しねえと死ぬぜ、お前」


 表情を一切変えることなく男は高速でサタンを斬り続ける。

 一撃の威力もさることながら、その一撃一撃の攻撃の間隔が速く、防御をしようにも攻撃のスピードにサタンはついていけていなかった。


「ガ……ガハッ……!」


 そのまま地面に叩き落されたサタンは目の色を変えて男を睨む。

 反撃しようとも考えたが、ここは一旦冷静になった。


「調子にのるでないぞ人間風情が。我が悪魔族はおおいなる野望のためにここで朽ちるわけにはいかぬのだ。目覚めたばかりでまだ力が完全には覚醒していないが、次に会う時はこうはいかんぞ……」


 サタンは圧倒的強者を前に、まだ完全に覚醒しきっていない体で戦うのは愚策だと考えた。空間に大穴をあけ、そこから逃げようとしたが……。


「おい、誰が逃がすって言った?」


「貴様、空間を……!」


 男は持っていた大剣で体の半分を大穴に入れていたサタンごとぶった斬る。


 サタンが空けた大穴とサタン自身が真っ二つになるが、驚異の再生能力で自身の体をすぐさま元に戻すが、ダメージはかなり大きかった。


「やはり貴様はただの人間ではないな……。

 我ら悪魔に対抗しうる力……これは普通ではない」


「だからただの人間だって言ってるだろ。人外に人外宣言されるの結構傷つくからやめてほしいんだけど」


 男はかなり余裕そうだった。


「だが我を逃がさなかった事、後悔するのだな」


「後悔なんてするわけねえだろ。その前に貴様を斬る」


「フッ……。やはり残しておいて正解だったな」


 サタンはそういうと、体の向きを変えて自分の後ろへ禍々しい黒色の魔力を持った魔法弾を放った。


 その先には小さな子供とその子供の母親らしき人物の姿があった。


「チッ……人質がいたのか!」


 サタンの魔法弾が放たれたあと、子供の母親は咄嗟に我が子を守るべく魔法弾に背を向け、子供に覆いかぶさるようにして身を守った。


「もしもの事があったときのために、念のために用意していた。しかし……可哀想だな。貴様が我を逃がしておけば無駄に命を散らす必要もなかったものを」


 サタンの魔法弾をくらった母親は、無惨にも跡形もなく消えていた。


 灰も残らぬほどの威力。いや、触れたものを消し去る魔法なのかは知らないが、それを見た男はサタンが次の攻撃を準備しているのを瞬時に把握した。


 次の攻撃は恐らくあの子供を狙う。

 男はサタンが魔法弾を放つと同時に、一瞬にして子供の方へ移動する。


「ククク……!」


 ――間に合わない。


 男のスピードを持っていしても、このままだと魔法弾を斬って消滅させる事は不可能だった。


「チッ……! 仕方ねえ!」


 大きな爆発が起こる。

 男は身を挺して、自らの体に魔法弾を当てて子供を守った。


「ククク……! ハハハハハハ! 

 やはり貴様はあの子供を庇うと思っていたぞ」


 サタンが不敵な笑みを浮かべて笑っていると……。


「ガ……ガハッ!」


 一瞬の出来事だった。

 爆風を切り裂き、一筋の剣閃がサタンの体を真っ二つにした。


 剣閃はその後も休まることなくサタンの体を切り刻んでいった。

 しばらくして……。


「悪いな悪魔さん。どうやらお前の攻撃は俺には通用しないみたいだ」


 大剣を担ぎながら、ゆっくりと粉々になったサタンの元へ歩を進める。


「あ、そうだ。おい小僧、ここは危険だ。さっさとここから離れろ」


「おかあさん……。おかあさんはどこにいっちゃったの?」


 子供は涙を含んだ瞳で、訴えかけるように男を見つめる。


「……言葉を濁さずに言う。お前の母さんは死んだ」


「……!」


「だがお前は生きろ。死んだ母さんの分まで生きるんだ。

 それが今のお前に出来る事だ。分かったらさっさとこの場から逃げろ」


 子供は軽い放心状態になっていて、男の言葉に耳をかさなかった。


「チッ、めんどくせぇ。今は話が出来そうな状態じゃねえな。

 仕方ねえ。俺があの悪魔をを倒して軽くあやしてやるか」


 頭をかきながらめんどくさそうにサタンの元へ足を進める。


「よう悪魔さん。気分はどうだ」


 粉々になったサタンは再生が追い付いておらず、まだその体は上半身と下半身とで真っ二つになっている状態だった。


 そんなサタンの体を見下ろしながら男は話しかける。


「いやー悪いねぇ悪魔さん。復活した場所に俺みたいな奴がいてさ」


「……まだだ。我ら悪魔族の野望はこんな所で絶やすわけにはいかぬ。悪魔を殺せる力を持つ一族は一人残らず消さねばらなん。これから先のためにも」


「これから先? 残念だが、お前はここで俺に殺される。

 これでお前たち悪魔族の野望とやらも終わりだ」


「終わらんよ人間。当初の予定にはなかったが、貴様が我の攻撃で傷を負ったのは好都合だったぞ」


「なに?」


 サタンが意味深な発言をしたその直後。

 男の後ろの方で大きな爆発音が響いた。


 男は慌てて爆発音がしたほうを確認する。

 そこにはさきほどまで放心状態だった子供が倒れていた。


「て、てめぇ!」


 サタンは魔法弾の残留魔力で子供を攻撃していた。

 その威力は微力ではあったが、小さい子供を一人殺すのは容易だった。


「我から注意をそらし、気を緩めたな人間!

 その体、我がもらい受けるぞ!」


 サタンは男が自分から気をそらすのが狙いだった。


 まだ完全に覚醒しきっていない状態だった悪魔族は、本来ならば復活したあと人間の魂をくらい、時間をかけて力を蓄えていくつもりだったのだ。


 その計画が大幅に狂ってしまったがため、サタンは自分と対峙している強大な力を持った男の肉体を依り代にしようとしていた。


 体を乗っ取るためには、わずかにでも肉体に傷をつける必要があった。

 それも悪魔の力を宿した魔力で。

 

 計画にはなかったが、サタンは取っておいた人質をつかい男に傷をつける事に成功した。


 ――その結果。


「人質を守ったことが仇となったな人間よ! 貴様は確かに強い。だから光栄に思え。その肉体は我がもっと有効活用してやろう」


 サタンは己の肉体を分解して男の傷口に侵入した。


「これで貴様の体は我のも……の……!」


 サタンが傷口から男の体に侵入した瞬間だった。

 男の体が強く輝きだした。


「き、きさま……! この封印魔法は!」


「何だか知らないけど、過去に刻み込まれた変な模様が消えてきてるわ。てかあのおっさん、マジでこの事見越していたのかよ、すげえな」


「ば、バカな……! 貴様からはあの一族の力は感じられない……!

 なぜ我ら悪魔を封じ込める封印魔法が施されているのだ!」


「冥土の土産におしえてあげたいが……やっぱ秘密で」


(こいつ、施されている封印魔法だけではない。この男自身の素の力が強力すぎるのもあってか、我の浸食が上手くいっていない。やはり力が完全に覚醒するまでは無理だったのかもしれぬ。だが……だがいつの日が絶対にこの男の体を我が物にする。その日まではゆっくりと貴様の中で力を蓄えさせてもらうぞ……!)


 サタンはそのまま男の体の中に封印された。


「ふぅ……悪魔族か……。復活したばかりで叩いたからよかったものの、少しでも力が戻った状態だったら少しばかり苦戦したかもしれないな」


 男はサタンの魔法弾が当たった場所を抑えながら先ほどの子供の方へ向かう。


「悪いな、俺の力不足でお前たちを救えなかった」


 男はサタンの攻撃で亡くなった子供を土に埋めて弔った。


「さて、じゃあ俺は悪魔どもの後片付けをしねえと……な?」


 男が倒した悪魔達を後処理しようとした時、悪魔達の体が光の粒となり上空へ消え去った。


「おいおい、なんだよこれ。死体一つも残さず消え去るってどういうことだ」


 悪魔族は未知の存在であるため、命が尽きれば今みたいに光の粒になって消えるのかもしれない。しかしどうにも不安要素が残ってしまう。


「今悩んでいてもしかたねえか。分からない事が多いが、仮に悪魔が復活したとしても俺が今より強くなればいいだけの話だしな」


 こうして、一日も立たないうちに復活した古代の種族、悪魔族はたった一人の男によって滅ぼされた。


 悪魔族が復活した村と、その周辺の人々は悪魔族によって多くの血を流し、多くの命が奪われた。


 そのまま野放しにしていれば、悪魔族は人間を根絶やしにすることも容易だった。


 それを未然に防いだ男の存在は、誰も知らない。

 歴史書にも記される事のない、血みどろの戦い。

 しかしこの戦いは後世において意味のある戦いになった。


 この誰も知らない悪魔族との戦いは、名も知られない英雄が生まれた瞬間だった。





 ◆◇◆◇



 ――「殺す……。殺す……!」


 男が去り、悪魔の脅威が去った小さな村で声が木霊する。


 光の粒となり消え去った悪魔の魂が、何かに呼び寄せられるように再び小さな村へと降り注いだ。


 その光は、サタンに殺された少年が埋まっている場所へ終結し……。


「悪魔はおれが……! おれが……絶対に殺す!」


 殺されたはずの少年の墓から、憎悪と復讐心に支配されている声が響く。

 

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