第21話 ジョブ特性と模擬戦

 メルメが取り出した革製品を見て、ギプスが、興奮気味にはしゃぎました。


「ヒャッハー! これは、お宝アイテムですネー!!」

「ほうほう、ギプスくんは、このアイテムを知っているようだね」


 ギプスのはしゃぎようを見て、メルメは、嬉しそうに尋ねました。


「もちろんですネー! ズバリ、アクセサリーホルダーですネー!」

「ご名答。全部で5つのアクセサリーを付けることが出来る優れものだよ。ポーター系のジョブなら是非とも欲しいアイテムだろう?」


 ギプスが、ズバリ言い当てると、メルメは上機嫌で、アクセサリーホルダーについて簡単に説明しました。しかし、ケータは今一つ理解できていないようで、首を傾げて成り行きを眺めています。


「ハッハー! ケータは、アクセサリーホルダーの有用性がよく分かっていないようですネー! メルメ! ちょうど鑑定の間にいるですネー! アイテム鑑定して見せるですネー!」

「うん、そうだね。鑑定してみよう」


 メルメは、真っ黒な鑑定台に革製品を置くと、案内人28号の目がぴかぴか光り、アイテム鑑定結果が壁のボードに浮かび上がりました。



 <アクセサリーホルダー5>

 ホルダー内にアクセサリーアイテムを最大5個まで取り付けることができ、ホルダーの所持者は、ホルダーに取り付けたアクセサリーの付与効果を全て加算した上で得ることができます。

 また、このホルダーは、所持者の衣服やベルトなどの装着品のほか、ポーターバッグに取り付けて使うことができます。




「おおっ! ポーターバッグに付けられるのか。なんか嬉しいな!」

「ハッハー! ポーターにとって、メリットしかない目玉アイテムですネー!」


 鑑定結果を読んだケータとギプスは、ポーターバッグに付けられるとあって、大喜びです。


「それじゃぁ、交渉成立ということで良いかね?」

「筋トレポーターのジョブ特性を教えるのはいいけど、検証?については良く分かんないだよな」


「うむ、検証方法は、ジョブ特製を聞いてからでないと決められないからね。ただ、危険なことや無理なことは強制しないと約束しよう」

「それなら、いいかと思うけど、どうかな?」


 ケータは、メルメにジョブ特性を教えてもいいと判断して、ギプスに意見を求めました。


「ハッハー! ケータのジョブやジョブ特性について、他言しないという約束もしっかり守ってもらえるなら構わないですネー!」

「うむ、約束しよう」


 双方納得の上、交渉は成立しました。


 これで、ケータは、ジョブチェンジで得た筋トレポーターのジョブ特性をメルメに教え、メルメの考えるジョブ特性の検証に付き合うことで、メルメからアクセサリーホルダー5を譲り受けることができます。


 対して、メルメは、ケータが得たレアなジョブの情報を得ることと引き換えに、アクセサリーホルダー5をケータへ譲り渡します。


 情報の秘匿については、口約束で尚且つペナルティを設けたわけではないので、転職神殿の管理者であるメルメを信用するだけです。



「さっそくだが、筋トレポーターのジョブ特性を教えて欲しい」

「うん、えーっと、ジョブ特性は、たしか、『筋トレ効果が向上する』だったかな」

「そうですネー! 『筋トレ効果が向上する』ですネー!」


 さっそく、メルメに問われ、ケータとギプスは、筋トレポーターのジョブ特性を教えました。


「ふむ、予想通りだね。ほかに付属する特性とかないのかい?」

「う~ん、無かったと思うな」

「ハッハー! 無かったですネー!」


「なるほど。では、ジョブ特性の検証だね。場所を変えよう。ついておいで」

「何するんだろう」

「ハッハー! なんだか面白そうですネー!」


 ケータとギプスは、メルメの後について転職神殿の真っ白な通路を歩いて行くと、すぐに広い庭へと辿り着きました。そこは、真っ白な壁で囲われていて、青々とした芝生が張られていました。


「ここで、ケータのジョブ特性を検証させてもらうよ」

「何するの?」


「私と模擬戦をしてもらうよ」

「えっ?」


 検証が模擬戦と聞いて、ケータは、もっと別のことを想像していたのか、首を傾げてしまいました。


「なぁに、私は、そこそこ強いし、手加減くらいは出来るからね。ケータにとっても対人戦の練習になるだろう?」

「ハッハー! それはいいですネー! 絶好のトレーニングになるですネー!」

「ええーっ!?」


 メルメの話に、ギプスも乗っかり、ケータは戸惑いながらも模擬戦をすることになりました。


 武器は、案内人達がさまざまな木製武器を持ってきて、好きな物を選んで良いということです。ケータは、使い慣れている棍棒にしました。対するメルメは、長い杖を使うようです。両者、武器を持って、庭の中央で向かい合いました。


「さぁ、ケータ、いつでも掛かってくるといい」

「えーっと……」


「ふむ、来ないのなら、こちらから行くよ!」

「うわっ!」


 模擬戦などしたことのないケータが戸惑っていると、メルメの方から仕掛けてきました。メルメが長い杖を大きく振り回すと、ケータは、さっと後ろへ飛んで避けました。


「ほれ、ほれ、ほれ、ほれぃ!」

「わっ、わっ、わっ、わぁっ!」


 メルメの杖攻撃に、ケータは防戦一方です。


「まだまだ、行くよ。ほれ、ほれ、ほほほれ!」

「わっ、いっ、うっ、うぇっ、うぉっ!!」


 メルメは楽しそうに攻め立て、ケータは、何とかしのぎます。


「ふむ、なかなかいい動きだね。これならどうだい? ほほほれ、ほれ、ほれ!」

「うほっ、とっ、たっ、いてっ!」


 さらにメルメの攻撃がスピードを増してゆき、とうとうケータはしのぎきれずに、お尻に一撃、喰らってしまいました。ケータは、お尻を擦っています。


「うん、受けるのはこれくらいにして、今度は、ケータの方から攻撃してきてくれないか? これもジョブ特性の検証に必要なんだよ」

「……。ようし、思いっきり行くよ! とう!」


 メルメがケータに攻撃するように促すと、ケータは、お尻を擦るのを止め、少しやる気になって、メルメに向けて突撃しました。


「てい、てい、とう、てい、たーっ!!」

「ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ」


 ケータが、気合を入れて棍棒で撃ちこみますが、メルメは、長い杖を巧みに操り、最小限の動きで受け止めます。


 ケータとメルメが打ち合う音が、カンカン、カンカン、と鳴り響きます。


「とりゃぁ!!」

「ほいっとな」

「ほげぇ!」


 最後は、ケータが勢いよく殴りかかったところを、メルメが躱しながらケータの背中をほいっと押して転がしました。


「ふむ、今日のところは、これで終わりにしようか」

「ふぃぃ、一撃も入れられなかったー」

「ハッハー! 良いトレーニングだったですネー!」


 メルメが、にっこり笑顔で終了宣言すると、起き上がったケータは、体に着いた砂埃をパンパンと払いながらちょっと悔しそうに呟き、ギプスは、ケータのそばへとふよふよ泳いで労いました。


「えっと、検証?っていうのは終わったの?」

「いやいや、まだまだ始まったばかりだよ。これから、ケータが行う筋トレの記録を取りつつ、毎日模擬戦をして、筋トレがケータの身体能力にどれだけ影響を与えるのかを確認するつもりだよ」


「えっ? 毎日、模擬戦するっていうこと?」

「そうだよ。しばらくの間、付き合ってもらうから、よろしくね」


「そっか。じゃぁ、明日は、メルメに一撃入れられるかもしれないな」

「あはははは、その意気で筋トレも頑張ってね」


 ケータは、毎日、メルメと模擬戦をすると言われ、少し驚いていたようですが、メルメに一撃入れるチャンスだなと前向きに考えるのでした。

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